救
月島とラルムが見つけた男は、小野寺の手で気管熱傷と頭部の三度熱傷と診断された。彼は、今後愛する者も、瞳の光りも、声も失くして生きていくのだ。
彼を助けて良かったのだろうか?
一瞬頭に浮かんだ疑問を振り払うように、ラルムは大きく頭を振って、自らの頬を両手で挟むように打つ。今は、こんな事を考えている場合ではない。
「やってるか?」
ふらり、とやってきたのは、桑野と真田だった。
軽症者救護テントで足りなくなった物資の補給と、数分以内には救急隊が到着する、との報告らしい。
真田が小野寺と細かい話をする間に、桑野が物資を持って、ラルムの横の瓦礫に腰かけた。
「大丈夫ですか、桑野さん?」
彼は、何処か、とても疲れたような、哀しそうな顔をしているように見えた。
「さっき、妊婦の遺体に縋って旦那が泣いてたんだよ」
いつまで経っても、ああいうのは、見るだけで痛い。そう零して、ぐい、と目頭を押さえて俯く桑野。ラルムは、彼の部屋にあった写真を思い出す。屹度、あれが…桑野の奥さんだった人なのだろう。
≪裏警察≫の面々は、色々な過去を持って、こんな処にやってきた。
まだ生乾きの傷痕に、こんな現場は突き刺さるように痛むだろう。それでも、彼らは怯む事無く、誰かの為に立ち続けるのだ。
「参ってる場合じゃねぇなぁ」
一つ体を伸ばして、桑野は立ち上がる。相変わらず皺だらけのスーツが少し恰好良い。
「ラルム、救急隊の誘導、手伝ってくれるか?」
問われて、重傷者捜索を指揮する月島に確認を取る。
「救急隊が来るなら捜索も捗る」、と彼はすぐに許可をくれた。
元々デパートの駐車場に使われていた場所は損傷が少ないらしく、救急車はそこに駐車する事になった。桑野の後を追う様に、瓦礫の上を走る。角を曲がって近づいてくる救急車のサイレンに、こんなに安心したのは初めてだ。思わず、ラルムの歩調も速くなる。
停車した白い車から、真っ白いヘルメットの隊員達が、ネットのような搬送器具を携えて飛び出してきた。足場が悪くてストレッチャーが使えないせいだろう。
「怪我人は!?」
「こっちです!」
次の救急隊を案内する為、駐車場に残った桑野に背を向け、ラルムは瓦礫の中を走った。
早く。一刻も早く。小野寺と重傷者の待つテントへ救急隊員を導くために。




