波
「秀!」
「小野寺先生!」
月島と真田が声を張って、初めて小野寺が患者から顔を上げた。
「アルミは!?」
普段とは違う、鋭い返答が、切迫した状況を物語っていた。
鞄を差し出す月島から、奪うように受け取って、開く。中身は大判のアルミホイルのような物だった。それを取り出して、小野寺が手早く患者の体を覆っていく。
ラルムは何も言えず、ただ、固唾を飲んで何かに憑かれたように処置を進める小野寺を見つめる。
「救急隊は、なんて!?」
作業の手を止めず問う小野寺に、真田が、「まだ来ていません」と伝える。小野寺は憤ったように息を付いた。
火傷を深さで分類すると、一度熱傷、浅達性二度熱傷、深達性二度熱傷、三度熱傷に分けられる。
三度熱傷になれば、皮膚は最深部まで全て損傷している状態だ。体温調節機能も痛覚も無い。また、病原菌から体内組織を守っている皮膚が失われた状態にあるので、敗血症等の感染症リスクが格段に上がる。
一刻も早く清潔な場所での植皮手術が望まれる。
気道熱傷を負っている患者には、酸素も必要だ。
広範囲に熱傷を負っている患者は、常にショック症状の危険と隣り合わせと言っても過言では無い。
皮膚の代わりに、アルミで保温と傷口の保護をしているが、こんなモノはその場凌ぎの応急処置にすぎない。
一分一秒でも早く病院に運びたい。こんな現場では、あまりに不衛生だ。
「このまんまじゃ…ほんとに、駄目だよ…。ミミ君、出来るだけ急かして!!」
「はい!」
通信機を手に、真田は一歩下がる。
「頑張ってね!秀サマも頑張るから!」
患者に声を掛ける小野寺。余りに真摯な姿に、ラルムも歩み寄る。
何か、一つでも。役に立てるなら。
「小野寺先生!指示をください!」
その声に顔を上げて。小野寺は一瞬呆けた後、嬉しそうに唇に笑みを乗せる。
「あんがと!じゃ、重症の患者さん此処に連れてきて!月島も一緒に行って教えてあげて!!」
「わかりました!」
「ああ」
担架代わりに、と小野寺が月島に渡したシーツを引っ掴んで走る。瓦礫の上。声の波をかき分けて。




