行
地下2階から非常階段を駆け上がる。月島が簡潔に告げた事は3つ。
1つ。月島と小野寺は、一足先に現場に向かう。
2つ。すぐに真田たちが来るから駐車場で待て。
3つ。今回は全員出動になる。覚悟だけはしろ。
只事で無い緊張感に、ラルムは頷く事しかできない。
混乱する頭の片隅だけが、奇妙な程冴えて、何か、とんでも無い事が起こったのだと突きつける。
大型バイクの後部に小野寺を乗せてエンジンを唸らせる月島に、思わず、目を向けた。
「詳しく話す時間が無くて、すまないな」
大きな手が、くしゃり、とラルムの髪を撫でる。
「いってくんね」
手を振る小野寺。
「どうか気をつけて」
絞り出すようなラルムの声をかき消すようにバイクは加速して一気に小野寺の白衣の後ろ姿すら消えていく。
取り残された駐車場。気を落ち着けたくて繰り返す深呼吸が、無駄に反響する。
実際には、待つほどの時間でも無かったのだろう。だが、真田の姿を認めた時、ラルムは泣きたくなる程安堵した。
桑野もいる。紺も。その他、拠点にいた隊員全てが揃っている。
「ラルム!悪かったな」
桑野が声を掛けながら、バンの後部扉を開けた。
次々バンに乗り込む隊員に倣って、ラルムも乗り込む。
「紫から、状況聞いた?」
「テロ、とだけ」
紺の問いかけにラルムは頷く。
「本当に、起きたんですか?」
「表の 皆さんが知らないだけで、本当はよくある事なんです」
運転席から真田が答えた。
この国ではテロは存在しないことになっている。故に、爆弾が用いられた物は全て【ガス爆発】として報道される。だから、表の人間は知らない。
しかし、裏では、珍しいことではないのだ、と。
「だからまぁ、報道に合わせて、【ガス爆発】ってのを、隠語にしてるんだ。まぁ、皮肉半分だな」
桑野が、助手席に滑り込んで苦笑する。
「今日は、デパートでの大きなイベントが標的になりました。死傷者は不明です。
小野寺先生が重傷者の救護をしますので、僕達は軽傷者救護と、救急隊の誘導が主な仕事です」
シートベルトを締める桑野を横目に、真田が状況と段取りを告げる。
それを聞きながら、ラルムの背筋も自然に伸びた。
「急ぎますから、運転が荒くなりますが、許してくださいね」
宣言して。
真田は思い切りアクセルを踏み込んだ。




