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Dark moon  作者: chocolatier
馴染んだ世界と迷い猫
30/48

「ごめんねぇ、遅くなっちゃって」


小野寺は苦笑して、ラルムの背を覗き込む。


「きっと初めてだらけで、緊張してたんだと思います」


よいしょ、とラルムは体を揺らして、落ちかけた紗音を背負いなおす。


あの後。全員で写真を撮ったり、食べたり、騒いだり。果ては酒まで出て、ルークの中はどんちゃん騒ぎになった。結局夕飯も食べて、また飲んで。気付けば主役の紗音がぐっすり眠っていた。


これではいけない、と彼女をおぶって、ラルムは皆より先に店を出る事にしたのだ。

「秀サマもお散歩ぉ」なんて、小野寺は一緒に歩いている。


最初、「人殺し」なんて酷い言葉を投げつけておいて、こんな事を言うのはおこがましいとは思う。でも、ラルムは正直に思うのだ。小野寺は凄い人間だ、と。

この三ヶ月。小野寺は常に暖かかった。ラルムが間違えたら笑い飛ばして。悩んだら一緒に頭を抱えて。喜怒哀楽がはっきりしているから、周りも小野寺のペースに巻き込まれていく。


変な例えだけれど、道端の標のような、いつの間にか出来た獣道みたいな。一番困っている時に、目立たないけど、ちゃんと道を示してくれる、そんな人なのだ。


だから、桑野も真田も小野寺の世話を焼くのだろう。なんとなく最近理解できた。

今も、非戦闘員のラルムと紗音の事を心配して、わざわざ来てくれたのだ。

それを、気使わせないようにニコニコして。


「ねね、ラルム君」


いきなり話かけられて驚いた。まさか、今まで小野寺について考えていたのが顔に出ていただろうか、と身構える。

しかし、くるり、とこちらを向いた小野寺が小首を傾げて問うた。


「紗音ちゃんの名前の由来、訊いていい?」

「あ…はい」


少し、拍子抜け。でも、バレれていなくてよかった。

もう一度、紗音を抱きなおして、口を開く。


「シャノワール…フランス語の黒猫から貰いました。第一印象が、黒猫みたいだと思ったので。

それと…猫みたいに、自由に生きて欲しいなって」


気まぐれで、我がままで、甘え上手。そんなふうに。もう何にも縛られずに。


「なるほどねぇ。ラルム君のお名前もフランス語、だよね?好きなの?」

「大学で、専攻しようと思ってました。両親が死んだので、諦めましたけど」

「そっかぁ」

「…先生は?」

「およ?」

「夢とか、あったんですか?」

「……夢はね、一応は叶ったよ」


小野寺の唇が少し寂しそうに笑む。


ああ。やっぱり、何かを抱えているのだ。


小野寺も、真田も、桑野も、月島も、紺も。

それから、自分も紗音も。


ラルムは、堪えるように空を仰ぐ。

天を照らす月に祈るように、目を伏せる。


月よ。どうか自分たちにも光を分けてください。足掻く汚れた人間にも。



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