祝
「パウンドケーキは爆弾、フルーツ入りは殺傷能力を高める混ぜ物入りだ」
頬杖を付いた桑野がにやりと笑む。
「チョコレートは弾丸の事です。ブラックチョコは、月島さん愛用のブラックタロンというホローポイント弾…でしたよね?」
注文していた紅茶を受け取りながら、確認する真田に夫人はにっこりと頷く。
「それって、つまり…」
ラルムは、頬を引きつらせる。
「そだよ!ルークはね、ウチ専門の武器屋さんなの。此処の地下はお宝いっぱいだよ?」
秀サマもキャンディ買おうかなぁ、なんて言う小野寺の頭を桑野が小突く。脈絡からして、そのキャンディも食べたら死ぬ物体なのだろう。ちらり、と真田を見ると「劇薬毒薬の類です」とさらっと教えてくれた。
劇薬毒薬なんて単語を吐きながら、紅茶を味わっている真田。
予算がかかると唸っている桑野。
楽し気な小野寺。
皆、武器が何に使われて誰を殺すかは気にしない。矢張り感覚が何処か普通とは違うのだろう。
今更だけれど、此処はやはり世界の≪裏≫なのだ。忘れかける現実と、ふと対面したよう心地になる。
こんなにも、居心地の良い喫茶店で。こんなにも素晴らしい仲間がいるのに。
くん、と袖を引かれて視線を落とす。
紗音が、何処か心配げにラルムを見上げていた。
髪を梳いてやると、小さく頷く。
その姿に、少しだけ、心が軽くなった。
「すいません、お待たせしました!」
「やっと買い付けが終わった」
気付けば、紺と月島が傍まできていた。
「およ、きたの?」
「僕はてっきり二人はずっと向こうかと…」
小野寺と真田が少し驚く。月島と紺は、周りと離れた席で過ごす事が多いらしい。
「今日は祝いだからな」
二人が席についたのを見計らったように、マスターがやってくる。
その手には大きなケーキ。
「紗音ちゃんが、きてくれたお祝いだよ」
紺が微笑んで、紗音の手を取る。
目の前に置かれたケーキに、紗音は眼を真ん丸にして。
余程嬉しかったのか、彼女の瞳から涙がぽろり、と零れ落ちた。




