車
小野寺が走り回ったり、見本のベッドにダイブしたり、万引きを捕まえたり、なんやかんや大騒ぎしてやっと買い物が終わった。必要な物を全部買えたのは奇跡だと思う。本当に、よく抓み出されなかったな、とラルムは頭を抱えながら、次々荷物をバンに積んでいく。
「およ、ミミ君!ちょっと急がないと!」
車内の時計を見た小野寺が声を上げる。
「まずいな」
月島も腕時計に目を落とす。いつの間にか時計は11時45分。桑野との待ち合わせまで時間がない。
「しょうがないですね…かっ飛ばしますか」
真田の宣言に、紺が小さく悲鳴を上げた。
「あ、ラルムさんも紗音さんも…舌噛まないでくださいね?」
運転席に滑り込む背中に恐怖を覚えたのは、多分生存本能が危機を知らせていたんだと思う。
※
バンの車体が駐車スペースに滑り込む。滑らかさの比喩でなく、文字通りスライディングしたのだ。
「ぎゃあぁぁぁあああああああ!!!」
視界一杯に隣の車が迫って思わず悲鳴を上げる。けたたましくブレーキが軋む。ぎりぎりで、ぴたりと止まった。
「はい、到着です!」
ラルムは、この10分程生きた心地がしなかったが、運転していた真田はにこやかな物だ。
紗音に至ってはもう放心している。紺は月島の腕にしがみついて震えている。だが、小野寺や月島はけろり、としているので、屹度急ぐ時は毎度こんな運転なのだろう。
なんとか車から降りると、桑野が駐車場でにやにやしながら待っていた。
「どうだった、真田の運転は?」
「…死ぬかと思いました」
素直に感想を言うと腹を抱えて笑われた。
「真田はあれで元ヤンだからな。気性が荒ぇんだよ」
「誰が、元ヤンですか?」
振りむけば、真田が貼り付けたみたいな微笑みで立っていた。
「間違ってないよぉ?」
「もう、小野寺先生まで!
僕は少しやんちゃしてただけです!」
真田が眉間に皺を寄せる。
後から降りてきた紺が「まぁまぁ」と宥めて、7人で入り口へ向かう。
一見、店舗と分からない、落ち着いた外見。木製の扉に嵌った擦り硝子に金文字で【喫茶ルーク】と書かれているのが、店舗である唯一の証だ。その他メニューなども一切無い。
「さ、行くか」
月島に勧められて、ラルムは重い扉を押した。




