買
店内の空気が変わった。ラルムは、うっと息を飲むが、他の面々は全く気にしていないようだ。
現在地は、車で暫く行ったショッピングモール。その中の、婦人服店である。
当たり前だが、紺は普通に場に馴染んでいる。紗音も…笑顔ではないがぎりぎりセーフだ。
問題は後の4人。特に小野寺と真田。
「ミミ君、此れどうやって着るの?」
「こうじゃありませんか?」
「おお!似合う?」
試着した紫色の頭がくるり、と回ってみせる。
たしかに、小野寺は性別が良く分からないし、身長(前に167cmと聞いたことがある)的には着られるだろう。でも!その髪型で女性物の服を試着するのはシュールでしかない!!
何故か真田も止めないどころか他の色を勧めている。だが、店員さんは「お似合いですよ」と声をかけるべきか悩んで固まったまま動かない。
月島は月島で、紺に似合う服は無いかと真剣そのもの。
あの集団はなんだ?そんな好機の眼が突き刺さるようで居た堪れない。
「あの皆さん!」
「どったの、ラルム君?」
小野寺が代表で問うてくる。
「と、隣に紳士服も婦人服も扱っているお店ありますけど…いきません?」
反対意見が出なかった事に、ラルムは心底ほっとした。
※
隣の店でも、各々浮いていたけれど、さっきよりは随分マシだ。
ラルムはふぅ、と息をつく。その時。ちょいちょい、と袖を引かれた。
振り返ると紗音が後ろを指していた。
視線を向けると、男女のマネキンが、揃いのパーカーを着ているのが目に入った。
「あのパーカー、好き?」
「着たい、ラルムと…だめ?」
「僕と、お揃いで!?」
驚いて目を見張る。すると、紗音がまた別の方向を指さした。
月島と紺が、揃いのカーディガンを試着している。なるほど。少し羨ましいらしい。
「うん、じゃぁちょっと試着してみようか?」
紗音の眼がキラキラ輝く。
同じ色、同じデザインのパーカーを羽織って二人鏡の前に立つ。
着心地を確かめるように小さく動き回る姿が、年相応に愛らしくて。
ラルムは、このパーカーの購入を決めた。




