頼
その日一日は大騒ぎだった。
紗音は何も持っていない。服も靴も、全て購入しなくてはいけないのだ。
一緒に暮らす事になれば、彼女の寝具から何から全て、揃えなければならない。
だが、残念ながら其処までの蓄えは無い。ラルムも、身一つでこの組織に流れてきて、まだ数か月なのだ。
恥を捨てて、
「給料前借できませんか!?」
と、桑野に泣きついたら、思い切り笑われた。
「紗音を新人にカウントすれば、それくらいは予算でなんとかなる」
にぃ、と口角を上げる桑野が初めて仏に見えて、ラルムは心の中で手を合わせた。
さて、当座の資金を入手して、ここでまた問題が持ち上がった。
ラルムは男である。未婚で子もいない。当然、女性の下着やなんやの知識はない。
何を買っていいやら、サイズがいかほどか、全く見当が付かない。困り果てて、此処は矢張り同じ女性にお願いすべきだと判断した。
「紺さん、あの…紗音の買い物、付き合って頂けませんか?」
「喜んで!!わぁ、妹ができたみたい!」
ラルムと一緒に頭を下げる紗音の頭を撫でながら快諾してくれた紺に、ほっとしたのもつかの間。
「紺が行くなら、私も行く」
月島が奥の仮眠室から顔を出したのだ。
紗音は体の大きな月島に驚いて、ラルムの後ろに隠れてしまった。
「紫!寝なくて良いの?」
「大丈夫だ」
目を瞑って体を伸ばす。珍しく下ろしている髪がさらり、と揺れる。
「紺、髪を結ってくれ…ん?」
ラルムの背からそっと覗いていた紗音。急に目を開いた月島。
ばちり、と目が合う。
「…っ!」
「その子、名前を決めてやったのか?」
怯える少女からラルムに視線を移して問いかける月島。
その目線を受けて、ラルムは微笑む。
「紗音です。ほら、月島さんは怖くないから」
手を握ってやると、ほんの少し出てきた彼女がぺこり、と頭を下げる。
この時点で買い物に向かう人数は4人。
其処に、休憩にやってきた小野寺が「秀サマも行く!」と駄々をこね、結局真田が車を出す事になった。一気に団体客だ。あまりの騒がしさに、紗音も目を真ん丸にしている。
「ねね、買い物の後、ルーク行かない?」
「おい、俺だけ除け者か!?」
エレベーターホールで小野寺が発した提案に、留守番役の桑野が噛みつく。
「じゃ…12時ルークで待ち合わせは如何ですか!?」
紺の提案に賛同が集まる。
だが、ラルムは【ルーク】という名前に覚えが無かった。
「あの真田さん…ルークって?」
「僕たちの行きつけの喫茶店です。寛げますよ」
何処か意味深な笑みを浮かべるだけで説明は無い。そんな真田の後ろには。
「桑野、ルークで買い物もしたいが、良いか?」
「良くはねぇが…上限900だぞ!?」
謎の会話をする月島と桑野。ラルムは紗音と顔を見合わせ、首を傾げた。




