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Dark moon  作者: chocolatier
裏警察へようこそ
19/48

「う…」


ラルムは思わず、痛む頭を撫でた。昨夜の歓迎会は凄まじかった。色々な意味で。


だが、今目の前にいるメンバーは誰一人二日酔いを訴えていない。化け物だ。肝機能どうなってるんだろう。


1時間以内には試験を開始すると言われている。早めに治すべきだ。

小野寺に渡された薬を飲んで安静にしよう。


「大丈夫か?」


声をかけられて顔を上げる。月島がラルムの転がったソファを見下ろしていた。

月島は背も高いし、筋肉質だし、見下ろされると、かなり圧迫感がある。おまけに目つきがキツい。思わず身を起こして、少し下がる。


「怯えるな。取って食ったりしない」

「あ、いや…」

「紫、真顔じゃ怖い!」


横から月島の腕を掴む黒髪の少女。ラルムは暫く考えて。


「紺さんですか!?」

「あ!おはようございます!」


ぺこん、と頭を下げる紺の姿は何処から見ても人間だ。

昨日の話は、やはり現実だったのか…。なんだか妙に納得してしまった。


紺がコーヒーを淹れてくれるというので、ありがたく貰う。


そうこうしている間に時は経った。


「試験を始める」


飲み会とは、がらりと雰囲気の違う桑野の宣言に、ラルムも背筋を伸ばす。

渡された紙には3人の名前が書かれていた。


「これは?」

「リストだ」


桑野が手元のパソコンを操作する。ラルムの目の前にあるモニターに映像が写し出された。

3ヶ所の風景と、真っ黒な銃を抱えた人影が、それぞれ1人ずつ。


「今から、その中で有罪だと思う人間を1人選べ。

それによって、待機している狙撃手が対象を殺す」

「そんな…」


嘘だと言って欲しい。他のメンバーに視線を移す。誰も、目を合わせない。つまり。これは真実なのだ。


「頼む、ラルム。

お前さんの腕を試す為だ」


ぽん、と肩を叩かれパソコンの前に座る。ハッキングによる多量の情報処理に耐えうるスペック。


断る理由(にげみち)は何処にも無かった。


ラルムは何度か荒く、呼吸をしてキーボードに指を乗せた。

与えられた人名を手がかりに、深く情報の海に潜る。

独自のルートから、上澄みの検索リストを排除する。

深く、深く。このご時世、ネットになんの痕跡もなく人間は動けない。

それは、深層心理にこびり付いた感情にも似ている。


もっと、もっと奥へ。

電脳世界を掻き分ける。


そして、ラルムは動きを止めた。


「…桑野さん」

「どうした?決まったか?」


そう問われて、ラルムは首を横に振った。


「駄目です…」


その目は泣きそうだった。


「1人目は、政治家と癒着して暴利を貪ってます。

2人目は、詐欺で多くの人を傷つけています。

3人目は…小児性愛者で、売春の常習犯です」

「そうか。なら、誰を殺す?」


桑野の問いに、ラルムは大きく首を振る。


「決められません!」

「じゃぁ、仕方ねぇな。全員殺すか」


桑野の手が通信機を取る。


さっ、とラルムの顔から血の気が引いた。首が、小刻みに左右に振れる。

額にじっとりと、汗が浮かんだ。唇はわなわなと震える。関節が馬鹿になったみたいに歯がガチガチと音を立てた。


止めてくれ!そう言いたい。けれど、言葉が出ない。

上手く、呼吸ができない。肺が酸素で膨れて苦しいのに、ひぃ、ひゅっ、と変な音を立てて空気が流れ込んで、また肺が膨らむ。


談話室内に、ぱん、と短く、乾いた音が響いた。


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