就
小野寺と桑野が内線で二言三言会話した結果、試験は明日と決まったらしい。
「今日は、ラルム君も疲れたモンねぇ」
エレベーターで小野寺はくすくす笑う。
人間の適応力は恐ろしい。もうこの派手な髪色に慣れ始めていた。
「あ。それとね」
地下1階から21階まで、長い道のりの中で小野寺がラルムを見上げる。
「もう一人帰ってきてるの、談話室に」
「そうなんですか?」
「でも、驚かないであげてね」
謎の言葉に、ラルムは首を傾げる。エレベーターが到着を告げた。なんだか懐かしい談話室の光景。そこに、彼にとっては、見覚えの無い人影があった。
銀色に輝く長い髪。黄金色の瞳。
細身の少女が、月島の腕に甘えるように身を預けていた。幸せなのか三角形のとんがり耳はへちゃんと垂れ、時々、髪と同じ色の尻尾がふりふりと動いている。
「…え?」
ラルムは思わず、目を擦る。見間違いか?疲れているのか?
しかし、何度見直しても、確かに少女の体に犬のような耳とふわふわ尻尾がついているのだ。
「な、何!?」
「おい、小野寺ちゃんと説明しろって言っただろ!?」
固まるラルムの姿に桑野が頭を抱える。
「驚かないでって秀サマ言ったよ?」
小野寺は首を傾げてみせる。そんな遣り取りに苦笑しながら
「大丈夫です、驚いて当たり前ですから」
そう言って少女が身を起こした。
「はじめまして、ラルムさん!星野紺です!」
笑った彼女の唇の端から、犬歯が覗く。
「彼女は私の恋人だ。見ての通り…人間ではない」
その華奢な肩を抱いて離さないまま、月島はラルムを見やる。
「狼憑き…人狼の一種だ」
「今日は満月なので、御見苦しくてすいません。明日には人間の見た目に戻るので」
紺は礼儀正しく頭を下げる。
ラルムはその姿を呆然と、ただ見つめる。
それを目に、桑野が「よっしゃ!今日はラルムの歓迎会するか!」なんて言い出して。小野寺は大喜びで大賛成。小躍りする上司二人に「仕方ない」と肩を竦めて場所提供を申し出て。ここまでくれば、月島と紺も喜々として参加を表明する。
歓迎される当人抜きで、話がどんどん進んでいく。
そんな様子を未だ遠い目で見つめたまま、ラルムはぼんやりと思った。
――天国のお父さん、お母さん。僕はなんだかとんでもない処に就職するみたいです。




