休
「たっだいま!!」
拠点に帰った小野寺は上機嫌でソファにダイブしようとする。
それを、青年を抱えたままの真田が首根っこを掴んで止める。
「まずは、返り血を落としてください」
「はぁい」
とぼとぼ小野寺はシャワールームへ脚を向ける。
まるで、外遊びした子と親みたいなやり取りだが、汚れの内容があまりに物騒だ。
「で、上手くいったか?」
「小野寺先生が投げたせいで失神してますが、無傷です」
「そりゃ良かった」
桑野と言葉を交わしながら、ラルムをそっとソファに下ろす。
「ん―」と小さく唸ったが、まだ起きる気配はない。
「資料より幼く見えるなぁ、こう寝てると」
ちょいちょい、と彼の顔にかかった髪を整えながら桑野が小さく笑う。
「確かに、そうですね」
「可哀想になぁ」
この若さでハッカーなぞしている事か。
裏に目を付けられたことか。
其れとも此処で働く事か。
恐らくその全てだろう。
この世界は不条理だらけだ。
真田は僅かに眼を伏せてシャワー室に脚を向けた。
自分の汚れを落とすのはもちろんだが、小野寺の世話をしないといけない。
※
エレベーターが着いて、月島が顔を出した。
「片づけてきたぞ」
土産に、と情報が入ったUSBを左手で摘まんでいる。
小野寺と真田とは別の任務を任せていたが、上手く片付いたのだろう。
「さんきゅ」
受け取った桑野が笑う。
「なんだ、小野寺たちも帰ったのか」
月島はソファの上のラルムを見やる。
「ついさっきな」
「そうか」
今、シャワーだよ、と桑野は風呂場を指す。
「それより、紺ちゃんどうした?」
「今日は、満月だからな。もう直ぐ来る」
「ああ、そうか」
桑野は、ラルムを見た時と同じように、笑った。




