守
ああ、いる。真田との通信を切ってから小野寺はゆっくりと臨戦態勢を整える。
だが相手は見張りと、移動拠点の壊滅を、知らない。一歩リードだ。
今回の任務は保護であって壊滅ではない。ラルムと名乗る青年を黒いバンに乗せればいい。
なら、周りの清掃は気にせずまっすぐ彼の家に向かうのが、ベスト。
扉を蹴り開ける。パソコン前で目を真ん丸にしている青年。間違いない。
「ラルム君、だよね?ちょっと時間が無いから一緒にきて」
これで、来てくれたら仕事は終わり。だが、残念ながら人間は疑問の生き物。
誰?何?時間?イミガワカラナイと青年の顔に書いてある。まったく困ったものだ。
自分の見た目の怪しさは棚の上にぽい、と放り投げて小野寺は苦笑する。
「急がないと、キミ、死んじゃうから…やっぱ、伏せて!姿勢は低く!!」
小野寺は叫びながら、両脇に手を潜らせてメスを引っ掴む。
同時に武装した男がドカドカと部屋に踏み込んでくる。
だが、ここは屋内。
狭い間口で縦列を強いられた男達の列に躍りかかり、撫でるように首筋を裂く。切れ味は保証書付き。確実に死なせてあげる。
噴水じみた鮮血が、生温い鉄の臭いを玄関に撒き散らす。
『先生!?』
耳元のインカムが真田の声を拾う。
「ミミ君、今2階3号室、対象パラシュートするよ!!」
『了解しました!配置、OKです』
「あんがと」
屈む。足首のホルスター。月島から借りたままの小型ワルサー。
窓の向こうの青空を狙って、発砲。
砕けた安い硝子に向けて、駆け出す。
「ちょいと、ごめんよ?」
完全に腰を抜かしているラルムの首根っこを掴んで。
窓の向こうに放り投げた。
「え…えあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「二階ぐらいで大袈裟だよ!ミミ君!」
「先生早く!!」
「ほいよ!」
放り出したラルムを肩で受け止めた真田に促され小野寺も窓枠から飛び降りる。さすが、慣れているだけあって、静かに着地した小野寺はそのまま真田からラルムを受け取り、黒いバンに押し込む。真田は運転席に回り込んでエンジンをかける。小野寺が乗りこむと同時にアクセルを踏んだ。




