資
「それで、今日の仕事は?」
ティーカップを置いた月島が桑野に視線を投げる。
「ああ、調査班が出してきた資料が…クソ、部屋か。
取ってくるから待ってろ」
とてもじゃないが軽やかとは言えない足取りで歩き出す。桑野は、ほぼこの組織の仮眠室を私物化して寝起きしている。部屋の片づけ具合にもよるだろうが、そうかからず戻るだろう。
今のうちに、と真田は各々の前から使用済みのカップをキッチンに下げる。
そうこうしていると、桑野が資料を持って戻ってきた。
「あった、あった。今日はちょっとコイツを探してほしい」
「誰?」
小野寺がひょい、と資料をのぞき込む。
氏名:本名不明
ハンドルネーム:ラルム
職業:ハッカー
明るい茶髪を短く揃えた好青年が写真の中で笑っている。
「こいつが、どうした?」
月島は眉根を寄せる。
「どうも、なんか目的があるみたいで、ダークなエリアを荒らしまわってんだと。
警察関連のハッキングだけなら、まぁ良かったんだが…裏の連中のヤバいネタ触ったらしくてな」
「保護する必要があるんですか?」
真田は首を傾げる。確かに、裏の連中に目を付けられたのは気の毒な話だが、わざわざ≪裏警察≫が出向くほどのことは無い。恨むべきは無鉄砲に世界の闇を覗いた自分自身だ。
「それが厄介なんだが…まぁ、あれだ。
第一に、ソイツが怒らせた奴は周辺巻き込むことを気にしない。もっと言や、テロになって結局ウチの案件になる。
第二に、どうもこの国にテロを仕掛けそうなグループのネタを多数持ってるらしい。
第三に、とにかく腕が良い」
そういうことか、と紺以外は頷く。
「どういうこと、紫?」
「その男を生け捕りにしてスカウトするという話だ。だろ?」
月島の言葉に桑野は一つ頷く。
「ま、簡単に言うとそういう話だ。荒事になるかもしれねぇし、小野寺と真田で行ってくれ」
「りょーかい」
小野寺はニッと笑う。その背で白衣から重い金属音がした。白衣の裏に、武器として隠されたメスの音だと、ここにいる面々は知っている。




