44(終) これから
「ほう……グラストミアを下すとは、見込み以上だ。
私も決着した。早くやるとしよう」
「! リリィ!」
グラストミアとの戦闘のせいで気づかなかった……
リリィは地面に倒れ、身動きをとらない。
まさか……!
「殺してはいないよ。君が勝たねば死ぬがね。
そういう呪いだ。よくある手だろう?」
こいつ……どこまで人の神経逆撫ですれば気が済むんだ……!
「僕を失望させないでくれ。折角招待したんだ。
交通費分くらいは頑張ってくれよ」
ディレインの周囲にいくつもの魔法陣が現れる。
火と雷が轟音と共に飛来する。魔法陣の方向を見れば避けるのは容易い。が、攻撃が止まないのがうぜえ。当たりゃしねえが攻撃に転じられない。それに、今は好き勝手動けない。今は……
「この程度で防戦一方か?
君はもっと動けると思ったが」
更に魔法を増やしてきた……! ちくしょうめんどくせえ!
あとちょっと……走れ、跳べ、勝つ為に逃げ続けろ。
「少し飽きてきたな」
「うっ……! がはっ!!」
1発もらった……! 火で助かった。雷だったら流石に動き止まってたからな。
あと1本……!
「やはり1撃では死なないか。
…………どうした、諦めてしまったのか?」
「違えよ。お前を確実に潰す準備ができただけだ」
準備は整った。
反撃開始だ。
「! 速い……手を抜いていたのか。
ははは、いいぞ、その調子だ」
また魔法を撃ってくる。学習しねえな、もう2度とその攻撃はあたんねえよ。
魔法を最小限の動きでかわしつつ、ディレインに接近する。蹴りを放つが、回避される。案外動けるな。
「愚直だな。つまらない戦い方だ。
大方、接近戦に持ち込めば有利とでも思ったか」
そうだよ。俺は魔法のことはわかんねえし、肉弾戦以外のことはできねえ。
だったら、俺の特技を最大限に生かすだけだ。
「!? 空中で方向転換だと!?
そんな馬鹿な……! まさか魔法が……」
壁に到達する前に空中で止まり、さっきよりも速く肉薄する。残念だがはずれだ。俺は相変わらず魔法はからきし。どういう仕組みなのかすらわからん。
「うっ! 私の鎧にヒビを……!」
「気にしてる場合かよ!!!」
もう1発拳を見舞う。今度は顔面に直撃だ。
後ろによろめくが、まだ倒れない。
「くっ……
………………これは……ワイヤー……?」
気づかれたか。
<暗殺者>専用装備の1つ。あらゆる場所に張ることのできるワイヤー。仕組みはやっぱりわからん。
非常に細く丈夫で、肉眼で捉えることができるのは暗殺者くらいのものだ。
普通にやったら勝つのは厳しい。だから、不意打ちの準備が欲しかった。1撃入ればこっちのもんだ。
あとはもう、俺のペース。
「小細工を……! 最初の動きはこのワイヤーを張っていたのか!」
「正解だ。卑怯者とか思ってんのか?
お前にだけは言われたくねえよ!!!」
物理的に距離が狭まった上、ワイヤーの弾性を利用して更に加速できる。ディレインが魔法を使う前に俺が攻撃できる。
主人公らしい戦いじゃないが、室内ならこれが最善。
「本当に物理攻撃しか使えないんだな。
魔法の知識が足りていないようだ」
不敵に笑うディレイン。床に手を当て、何か呟いた。
「……!? 壁動かすとかありか!?」
壁が広がっていき、ワイヤーを引きちぎる。めちゃくちゃ丈夫なんだぞアレ。
「これで"切り札"は使えないな」
「くそっ……てめえはてめえで姑息だな……
しゃーない、お前は拳で1000回殴ろうと思ったが」
短刀を抜く。今までの経験からして、こいつが魔法を切れるのはわかった。
これはこれでせこいから控えてたが、そんな場合でもないな。
「そろそろ終わりにしよう。<聖黒点>」
「同感だな」
空気がビリビリと震えるほどの炎。それを凝縮し、小さな球のようになっている魔法。
助かる。形がはっきりしてた方が……
「切りやすい!!」
「! その短刀も特殊なアイテムか……
くそっ! ならばこの部屋ごと……」
「<時空崩壊>!!」
ディレインが手を掲げ、部屋中に仕込まれていたらしい魔法陣を輝かせた直後、後方からの声とともに魔法陣がどんどん歪んでいく。
こんな広範囲を……流石!
「最高だリリィ!!」
「魔法使い!? いつの間に意識が……!
しまっ……」
1振り。
鎧を砕き、肉を切り裂く。
鮮血を噴き出し、倒れ伏す魔王。
俺たちの、勝ち。
「ユウタさん!」
「やったなリリィ! お前のおかげだ!」
っと、喜ぶのはちょっと後だ。
ディレインに聞かなきゃならねえことがある。
「……ゴホッ……期待通り、だな……」
「沙由里の魂は」
「私は、やはり卑怯者、だな……はは……
……ッ! ゲホッ!」
「答えろ。お前も辛いだろ」
「そう、だな……教え……よう………………
神原沙由里の、魂は、今はグラストミアという名で、生を営んでいる……ははははは……本当に、私は救えない、下道だ……君はもう、グラストミアを……」
「うっ…………」
グラストミアが体を起こす。しばらく周囲を見回していたが、状況を掴んだらしく、黙ってこちらを見ている。
「な、どうして……!」
「あんな手を使わなきゃ俺と戦えなかった卑怯者のお前が、普通に沙由里を返すとは思えねえ。
どっかで俺をはめにくる。絶望させにくる。
だから、保険だな。それに、単純にグラストミアに会った時に違和感はあったんだ。それが何かわかるまでは殺すつもりは毛頭無かった。
そんだけだ」
しばらく目を見開いた後、細く、弱々しい声で笑うディレイン。ひとしきり笑い、再び口を開く。
「なんて、愚かなんだろうな……私は…………
生涯の、恥だ…………だが、何故かな……
悪くない、悪くないんだよ、桜田……勇…………」
笑顔で、魔王は逝った。清々しい表情で。
「……満足そうな顔しやがって。悪いリリィ、懺悔はさせられなかった」
「そ、そんな、仇は討てましたから……」
終わった。本当に。
「グラストミア」
「……何」
「お前が良かったらさ、俺たちと来ないか?
特別魔王を慕ってたわけじゃないみたいだし。
これからは、普通に暮らしてみる、ってのもいいんじゃないか?」
「そうですね。グラストミアさん、悪い人には見えませんし! ちょっと言葉遣いが乱暴ですけど……」
「あ?」
「ひぃっ、ご、ごめんなさい……」
今のはリリィが悪いかな……
まあ、即決できるようなことでもないか。ゆっくりでいいさ。もう、世界を縛る魔王はいないんだから。
『よおゴミクズどもお!!!
この前は世話んなったなあ!!!』
「ひゃあっ!? こ、これって、一斉伝達魔法……?」
「グラストミア、この声……」
「うん、犬っころだ……」
頭上から降り注ぐ声は、ぼんやりとしか覚えていないが、確かケルベロスとかいう奴の声だ。
巨人の森でグラストミアに捕獲されてたが……
『テメェらがドンパチやってる間に独房から出させてもらったぜえ!!<鍵>も4つ全部頂いた!!!
しかも魔王ももういねえときた!
ありがとよ、感謝してるぜクソグラストミア!
オレはこれから<鍵>の力でこの世界を手に入れる!
そん時は、テメェら奴隷としてこき使ってやるから覚悟しろお!!! オレはこっから出ていくぜ!!!
ガッハッハッハッハッハ!!!』
高笑いのまま声は途絶え、辺りが静寂に包まれる。
ムカつく。非常おおおおにムカつく。
徹底的に痛い目見ないとわかんねえみたいだな……
「んで、一緒に来てくれるか、グラストミア」
「もちろん。全力で協力するよ」
「あ、あはは……」
さて、犬っころはどこに逃げたかな。
覚悟しろ。愛する人と一緒の俺は、半端ねえぞ。
こんにちは
小夜寝草多と申します。
この話で、「世界最高の暗殺者」は完結となります。
1話1話は短いですが、44話で全部です。
全話通して、楽しく書けたように思います。最終話だけ少し悩みましたが、その悩みすら楽しめました。
更に、読んでくださっている方がいるということで、より小説を書くことを楽しいと思えました。
本当にありがとうございます。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
これからも「世界最高の暗殺者」をよろしくお願いします。




