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飛び降りマンション

 始まりは肝試しからだった。

 3人で「飛び降りマンション」と言われる12階建てのマンションに行った。


 そのマンションは横に階段があり、なぜか屋上からではなく10階の階段から人が飛び降りるという現役のマンションなのだ。

 12階建てなので当然エレベーターはある。

 しかし、飛び降りる人はなぜか階段を使って登り、10階のところで手すりを乗り越え、飛び降りるのだ。

 噂では、そのマンションの住人は誰ひとりとして死んでいない。

 飛び降りるのは、そのマンションに縁もゆかりもない人が階段を上り飛び降りるらしい。


 若い俺たちは好奇心でそのマンションの階段を上がって行った。

 いくら高校生といえど10階を足で登るのはなかなかにこたえる。


 A「もし飛び降りようとしたら、お前ら引きとめてくれよ」

 B「大丈夫。3人だから怖くない」

 A「万が一ってことがあるだろ。噂が本当だったら、空中を歩く女が出るらしいからな」

 B「幽霊なんていない」

 俺「ビビってんのか?ってかあと3階もあるのか……」

 A「ビビっちゃいねーよ。ただ、お化けに引っ張られるかもしれないだろ。そうしたら3対1だ。人数では勝てる」

 B「居ないものと引っ張り合いでもするつもりか?だったら計算が間違っている」

 俺「でも、ここで4人は飛んでいるって話だぜ」

 A「だったら3対4じゃねーか」

 B「だから、そもそも居ない物を計算にいれるなよ」

 俺「じゃあ、Bはこの飛び降り率の高さをどう説明すんだよ」

 B「うっ」


 俺たちは口ではそう言っていても、結局、内心はビビりなのである。

 ビビりだから夜のマンションに一人で来ることはできなかった。

 だからAとBと俺の3人で来たのだ。


 そんな話をしながらとうとう10階まで来た。


 10階から夜景が見える。


 特に何も起こらない。


 幽霊が出るということも、誰かが手すりを乗り越えようとすることもないまま、その日の肝試しは終わった。

 帰りは疲れるのでエレベーターを利用させてもらった。


 翌日、学校で昨日のことを話題にして過ごした。

 別に何も変わらない日常だった。


 家に帰り、ボーっとしているとなぜか散歩に行きたくなり、ふらふらと外に出ていた。

 親に「こんな時間にどこ行くの?」と言われたが、「コンビニ」とそっけなく返して出てきた。

 別にコンビニに行きたいわけではない。

 そして、特別散歩をしたい気分でもない。

 しかし、なぜか足が勝手に動き、気が付いたら昨日行ったマンションの10階に立っていた。

 その間どこを歩いてきたか記憶がない。

 気が付いたらマンションの10階の手すりに手を掛けていたのだ。


「少年、どうした? 飛び降りか」


 ハッとして声を掛けられたところを見ると、一人の青年が立っていた。

 見ると、夜の夜景を見ながら煙草を吸っていた。


「え? え? どうしてここに」


「俺とあんたは初対面のはずだが?」


「いえ、そうじゃなく、どうやってここまで来たか覚えてなくて」

「そうか。ここはなんて言われているか知っているか?」

「……飛び降りマンション」

「そうだ。俺が煙草を吸っていると、階段を上ってきた兄ちゃんがいたから、まさかと思って声をかけたんだ」

「俺は飛び降りようとしていたんですか?」

「それは知らない。こっちが聞いているんだ」

「俺はわからないまま、ここまで歩いて来たらしいです。まるで自分が操られているかのように、自分の意思で来たんじゃないと思います」

「そうか、なら気をつけるこったな」


 そのとき、また意識がフッと遠のくような感じがした。

 そして意識が戻ったとき俺は床に倒れていた。


「おうおう! この悪霊が! こいつに取り付き、俺の前で飛び降りようとするとはな! いい度胸だ!」


 どうやら俺は意識がない間に手すりを乗り越え飛び降りようとしていたらしい。

 そして、青年に抑えられ、投げられて床に転がっていたようだ。


「正体を見せやがれ!」


 青年はそう言うと俺の胸倉を掴んできた。

 そう思ったら、俺の胸から女の顔がにゅるりと生えてきた。

 女は生気がなく青い顔をしていて、目はくぼみ、白眼がなくただ黒く闇になっていた。


「ひっ」


 青年は女の髪を掴むとそのまま俺の体から女を引きずりだした。


「こんなところに隠れていやがったか」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 なんて汚い声だろう。

 女は叫びながら手すりを飛び越えようとしたが、青年は足を掴んで引っ張った。

 女はしたたかに腹部を手すりに打ちつけ、それでも這って逃げようとする。

 逃げようとしている女を青年は担ぎあげ、背負い投げをして壁に叩きつけた。


「柔よく剛を制す! 急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう! 悪・霊・退・散!!」


 青年の手が青白く光り、女の体を殴った。

 そうすると、女の体は青い炎に焼かれ、次第に消えていった。


 女を投げたときの音を確認するためか、玄関のドアが開き、外の様子を見るために住人が顔を出した。


「ヤバイ!逃げるぞ!」


 青年は短く言うと、俺の手を引きエレベーターに乗り下階へ降りた。


 地上に戻った俺は今見た光景の説明を求めた。


「あれがこのマンションの幽霊の正体だ。もう4人も殺している」

「俺は憑かれていたってことですか?」

「そうだ。危うく5人目になるところだったな。二度と肝試しなんかするんじゃないぞ」

「あ、あの、ありがとうございます。あの、お名前は?」

「陰陽師のJだ」


 陰陽師ってすげぇ。俺は感動を覚えずにいられなかった。

「柔よく剛を制す」とは弱い者が、かえって強い者を負かすこと。

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