不幸の手紙
手紙が来た。
メールではなく手紙だ。
このケータイがコミュニケーションツールとなって久しい時代に、わざわざ手紙でメッセージが送られて来た。
『この手紙を7日以内に同じ文面で、4人の知り合いに渡さないとあなたは死ぬ』
いわゆる不幸の手紙だ。
携帯電話が普及し始めたときに不幸のメールというのがあったが、今時手書きの手紙とはどんな時代錯誤だよ。
今はガラケーより進化したスマホの時代だ。
LINEというメールより便利なアプリもあるのに、手紙だとは。
あまりの古典ぶりに逆に笑えてきた。
思わず写真に撮り、LINEで友達に見せびらかしてみた。
「不幸の手紙がきたww うけるww」
「まじかよww おまえ死ぬんじゃねww」
「ネタだよなwww」
「死ぬまで一週間かよwww うまいもん食いに行こうぜ。おまえの奢りでなwww」
仲間内でかなり盛り上がってくれたので、おいしいと思ったのは、手紙が来て3日目の夜までだった。
夢を見た。
机の上に置いてある手紙から4人の小人が湧き出てきて、枕元に来た。
「こいつ書く気ないよ。殺しちゃおうよ」
「まてよ、契約だから。そこら辺はちゃんとしないと」
「今でも、後でも別に構わないじゃん」
「チャンスを与えてあげて裏切られると悲しいし、殺しちゃおう」
「契約は契約だって言ってるだろ。あと4日」
そこで目が覚めた。
ただの夢かと思っていたのだが、次の日も同じ夢を見た。
ゴミ箱に捨てて無くなったはずの手紙が、夢の中ではなぜか机の上にあり、そこから小人が湧きだしてくる。
そして枕元まで来て囁く。
「こいつ書く気ないよ。殺しちゃおうよ」
「まてよ、契約だから。そこら辺はちゃんとしないと」
「今でも、後でも別に構わないじゃん」
「チャンスを与えてあげて裏切られると悲しいし、殺しちゃおう」
「契約は契約だって言ってるだろ。あと3日」
俺は金縛りにあって動けない。
夢の中で金縛りにあっているのか、現実で金縛りになっているのか分らないまま気が遠のいていく。
朝になり机の上を見てみると、やはりというか、当然というか、不幸の手紙は無い。
不幸の手紙の文面など覚えていない。
そこで写真を撮ったのを思い出した。
ところがその写真はなぜか壊れていて開くことができなくなっていた。
LINEの方もエラーが出ていて開くことができない。
八方塞がりになり、俺は呆然と机の前に立ちつくしていた。
どうしよう。どうしよう。あれは本物の不幸の手紙だったんだ。
今更になって事態が悪い方へいっているのがわかった。
LINEを送った友人にこのことを話すと、お祓いに行けとか、寺に行けと言われたが、具体的にどこに行けば解決できるかまでは言ってくれなかった。
結局のところ他人事なのだ。
いくらあれが本物の不幸の手紙だったかと説明しても本気で心配してくれる友人はいなかった。
一人を除いて。
その友人は送られて来たLINEを翌日開こうとしてエラーになっていることに気が付いた。
そこで神主の息子のJにそれを相談した。
そのJは、もしその手紙が本物なら持って来い、と言っていたそうだ。
そして、俺からの話で不幸の手紙が本物であると確信した。
手紙の期限まで時間が少ない。
そこでJさんに直接合うことになった。
Jさんは陰陽師だと名乗り、「このお札を机の上に置いて寝ろ」ということを言って去って行った。
俺は言われるままに机の上にお札を置いて床に就いた。
そして、またしても同じ夢を見た。
「こいつ書く気ないよ。殺しちゃおうよ」
「まてよ、契約だから。そこら辺はちゃんとしないと」
「今でも、後でも別に構わないじゃん」
「チャンスを与えてあげて裏切られると悲しいし、殺しちゃおう」
「契約は契約だって言ってるだろ。あと2日」
ただ違うのは小人の一人がナイフを取り出して首筋に当ててきたことだ。
当然、俺は金縛りにあっていて動かせるのは目だけだった。
そしていつものように気を失うと朝になっていた。
結局、お札の効果はなく、小人がカウントダウンをしに来たのだ。
夜寝るのが怖い。
きっと寝たら小人が出てきて、今度こそ殺される。
夢の中で殺されたら本当に死ぬのかという疑問はあるが、しかしあれは現実感を伴う夢だ。
首筋に刃物が当る感触があったのだ。
最後の夜、俺は友人宅に泊めてもらうことにした。
そして、寝ないでおこうと頑張っていたが、酒を飲んだため、ついうとうとと眠ってしまった。
友人宅にいたはずなのに、やはり夢の中では自室で寝ていた。
そして完全に金縛り状態で動かせるのは眼球だけ。
また机の上の手紙から小人が湧きでてきた。
怖い怖い怖い、死にたくない死にたくない死にたくない!
ごめんなさい、ごめんなさい、手紙でも何でも書きますから!
俺は心の中で謝り、必死に命乞いをした。
しかし、無情にも声は出ず、小人は枕元まで来て、楽しそうにニタニタと笑って言う。
「さあ、約束の時だ。死ぬんだよ」
「やっと殺せるね。うっひっひっひっひっ」
「けきゃきゃきゃきゃ!自業自得だよね。けきゃきゃきゃ!」
「楽しいなー。楽しみだなー。死ぬときの顔はどんなんだろうかー!ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!」
「なるほど、こうやって自分たちのテリトリーを広げていたのか」
なんとそこには神主姿のJさんがベッドの横に立っていた。
「なんだお前はー!」
いきなりナイフを持った小人がJさんに襲い掛かった。
Jさんは右手に持った御幣束を振り払った。
小人は勢いよく壁に叩きつけられ、小人のナイフは壁に突き刺さり、小人はそのまま落下した。
「小鬼ごときがこの俺に勝てると思っているのか」
脇で見ていた残り3人の小人が一気にJさんに飛びかかる。
それをJさんは御幣束を振り抜き、足で蹴りつけ、そして投げつけた。
小人達はことごとく壁に叩きつけられ倒れた。
最初に飛び掛っていった小人が、のそのそと起き上がると、またJさんに向かって飛び付いた。
Jさんは小人の首を掴むと、机に近寄り、机の上にある不幸の手紙を手に取る。
「これがお前らの依り代か」
「ぐ、ぎ、やめろ」
「ペンは剣より強し! 急々如律令! 悪・霊・退・散!!」
Jさんの手の中で手紙が青白い炎を上げて燃えだした。
「ぎゅあああぁぁぁぁぁ!」
同時に小人達も青白い炎を纏って消えていった。
そこまで見て俺は気を失ってしまった。
朝、目が覚めると友人宅のソファーで横になっていた。
自宅に帰り机の上のお札を見ると、所々(ところどころ)黒く焦げていた。
そして壁を見るとナイフが突き刺さった跡が残っていた。
あれが、夢だったのか、はたまた現実だったのかはよく分からない。
しかし、俺は救われたと確信できた。
陰陽師ってすごい。俺は感謝せずにはいられなかった。
「ペンは剣より強し」とは言論の力は武力よりも大きい力を持っているということ。




