前編
誤字脱字報告してくれるとうれしいです。
家にはいつもお母さん。
お父さんは、いない。
よく風邪とかひいちゃう鴇羽は、悪い子。
お母さんはそうおもってるみたい。
お母さんは、最近私と目を合わさなくなっていた。
家が近くて仲良くしてくれる女の子。
元気でかわいい女の子。
あの子は今日もお見舞いに来てくれる。
大好きな給食のプリンを持って。
あの子は今日も笑顔。
あの子の家はあったかいんだろうな。
いつもお母さんと、お父さんと。
笑いあって。
鴇羽だって。
______たいよ。
目が覚めると、いつも机の上には冷たくなったご飯。
それが今日はない。
お母さんの姿も、
ない。
玄関のドアのカギは、開いていた。
靴を履いて出かける。
火照った体。
今にも倒れそう。
大きな交差点。
人が大勢行きかう中、信号が点滅する。
その先に、大きなカバンを持ったお母さんの姿。
「…っっ!」
叫んだって振り向いてもらえない。
きっと聞こえてる。
あの時みたいに。
『―——――—って!!』
『離してくれ!』
(おかあさん…おとうさん…?)
『鴇羽っ…あっ、』
(おとうさん…?おとうさん!!)
お父さんは振り向かないまま重たい玄関から出ていく。
お母さんも振り返らないまま。
赤になって、車と人に紛れ、消えていった。
家に帰る。
冷たいごはんが今は恋しい。
『とんとんっ』
ああ、今日もあの子が来てくれた。
笑顔のあの子が。
体はもう冷たくなっていた。




