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神様と遊ぶRPG  作者: Yuma
2/2

・アーシェ

 

 花の匂いが漂う街だなと思った。

 それもそのはず、窓から街並みを眺めてみると、どこを見ても花だらけなのだ。

 狭い通路には必ず両脇に様々な種類の花が植えられていて、レンガの壁にはツタが伸びている。まるでフラワーガーデンにでもいるような、そんな街だった。

 大通りの方を見てみると、商店がずらっと並んでいるのも見える。その商店の前を大勢の人が歩き、賑わっている様子を見ると、後で自分も行ってみようという気持ちになった。

 だが、その前に。


 ――まずは今の状況を整理しよう。

 そう思い、窓を閉めて化粧台の前に座った。鏡で自分の姿を確認をする。鏡には、元の世界の自分の顔には似つかない凛とした顔の少女の姿が映った。歳は十四あたりだろうか、ショートカットの赤色な髪の色をしている。

 まあ、つまり――どういう訳か俺は女の姿でいるということだ。

 

「お姉ちゃん、ご飯出来たってお母さんが呼んでるよ!」


 階段の方から不意に声が聞こえたのでそちらに視線を移すと、俺の姿とは対称的な長い髪に華奢な身体をした妹――ノイエが顔をひょっこりと出して、俺を呼びに来ていた。どうやら俺は、このノイエという子の姉という設定らしい。


「うん、すぐ行く」


 ノイエにはそう返し、腰を上げた。

 俺の目的は単純明快で一つだけ、この異世界のラスボスとやらを倒すことだ。だが、まさか女の子になっているなんて予測不可能だ。それに、この街だけ見てると平和すぎて魔王のような敵などいそうにないんだけど……これから何か起きるってことか?

 そう、あれこれ考えていると。


「もう、お姉ちゃん早く―!」


 ノイエは待ちきれないといった様子で手をブンブン振っている。――可愛い。

 もう待たせるのも悪いので、食卓に行くことにした。


 階段を降りてみると、赤毛の女性がニコニコとした顔で座って待っていた。多分、母親だろう。


「アーシャ、遅かったじゃない。ノイエがもう待ちくたびれてるわよ?」


 アーシャ、というのは俺の名前らしい。


「ごめんなさい」


 正直に謝ると、母親は首を傾げこちらを凝視してきた。

 ……俺、何かマズイことでも言ったか?


「今日は随分と、素直なのねぇ」


「やっぱりおかしいよね!? お姉ちゃん、森で木にぶつかってから何か変だよ。いつもなら五月蠅いわね! って怒鳴ってくるのに」


 ノイエもここぞとばかりに便乗してくる。妹の言葉を聞いて母親は「まあ!」と声を上げた。


「頭でもぶつけたのかしらぁ、大丈夫?」


 そんな反抗する子だったなんて知らないよ! 心の中で悲鳴声を上げた。というかどういうことだ? 前の設定があるってことは、アーシェっていうキャラは俺用に作られたキャラじゃないってことか?


(うん、大正解!)


 は? 今、あの自称神様の声がしたような……。しかし、ノイエや母親が気にしている様子はない。


(ゴメンねえ、貴方の身体と魂を間違って別々の場所に飛ばしちゃったの。で、魂の行き着いた先がこのアーシェって子というわけ)


 気のせいではなかった……心の声ってやつか、というか衝撃的真実を告げられた気がする!


(ふっざけんな! じゃあ俺の元の身体はどこだよ!?)


(わかりません)


(はぁ!?)


 何言ってんだコイツ!?


(なーんかこのまま放置してたら一生話が進みそうになかったので、一応クエストを発注しまーす。題して俺の身体を探せ!)


(言われなくても探すわ馬鹿野郎! じゃあこのアーシェって子は何なんだよ?)


(今は勝手に別の魂が入ってきて眠っちゃってるけどいずれ目を覚ますでしょうー。そうなったらアーシェちゃんパニックだね!)


 声からコイツ、楽しんでいることがわかる。


(絶対わざとだろ、このアーシェって子に魂を入れたの……そういえば、お前仕返しとか言って木にぶつけさせたもんな! 確信した、絶対わざとだろ!!)


(あーこれ以上ゲームの邪魔するの悪いので、私消えますね)


(おい待て、いらん気をつかうな!)


「どうしたの? 黙っちゃって、やっぱり調子が悪いの?」


 母親が心配そうに声をかけてくる。何かいい言い訳はないか……。少し考え、閃いた。


「……実はさ、頭ぶつけちゃって。記憶喪失なんだよね」


 我ながらいい言い訳なんじゃないだろうかと自画自賛をする。二人は口をポカンと口を開けて、閉じる気配がない。


「あ、アーシャ。それ、本当なの?」 


 オロオロとした感じで母親は聞いてくる。


「う、うん」


「じゃあ、女の子なのに騎士団に入りたいって言ってたのも」


「わ、忘れたね……」


 騎士団って何だそりゃ。


「よかった……、そんな馬鹿なことはしない方がいいわ。命がいくつあっても足りやしない」


 あの笑顔が絶えなかった母親が顔つきを変え、表情が険しかった。


「えっと、騎士団っていうのは……」


「知らなくてよろしい! またなりたいだなんて言い始めたら堪ったもんじゃない!」


 その後、重苦しい雰囲気が続いたのは言うまでもない。


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