第1章 7
目的地に着いたようだが、どうやら閉まっているようで、蒼が憤慨している。
「嘉永生の誇り、講釈館が閉まってるだと?今開けずしていつ開けるんだ!」
騒ぐ蒼の斜め前で蕾は熱心に講釈館の説明文を読んでいる。私は蕾の隣に行き、説明文をざっと読んで講釈館がなんたるかの大まかな理解をした。
そんな私たちを後ろから見つつ、蒼は次の目的地を定め始めたようで、ぴたりと騒ぐのをやめた。
「へえ…創立者は最期までこの講釈館に立ちたいと言い続けたんだ」
斜め読みをした私はそのような情報を得なかったが、蕾はしっかり読んで確かに知識を得たらしい。その蕾の呟きを聞いて蒼が顔を上げた。
「決めた。二人とも少し歩くけど良いかな?」
もう既に三十分近く歩いている。蒼の「少し」は全然「少し」ではない。元陸上部だから、四十分くらいなら平気で走って移動する。高校時代に蒼に「少し」と言われて大変な目に遭ったことを私はすっかり忘れていたのだ。嘉永のキャンパス周辺はオフィス街だが、今歩いている場所はザ・住宅地だ。ちらりと蕾を見ると、疲労と不安が混ざった表情を浮かべている。
「蒼、まだ着かないの?」
「いや、今度は本当にすぐそこだから…はい着いた。」
住宅地にはそぐわない、立派な洋館が忽然と姿を現した。呆然とする私の頭の中で、いつかの大庭とのやり取りが再生された。