第3章 10
なぜ、こういうことになっているのか。
目の前の祭壇には、サックスを持ち笑顔の律子の写真が飾られている。式場には事故当日に録音されたという吹奏楽曲が流されていて、十分に一度回って来るサックスのソロは律子が吹いたものだそうだ。
「りっちゃん、ねぇ、聞いて欲しいことがあるから起きてよ、りっちゃん」
茉子はずっと律子の傍から離れない。
日誌を書き終えた律子はそれを職員室に届け、そのまま音楽室に向かい、いつも通りに練習に参加していた。練習が終わり、これもまたいつも通りに学校の近所の公園に移動してその日の反省を共有して帰った。事故があったのは律子が他の部員と別れてから五分後。大型トラックに律子と、律子の自転車は撥ねられた。原因はトラックの信号無視で、律子はほぼ即死との検分だそうだ。自転車を見たが、ひしゃげて酷い有様だった。
不思議と涙は出てこず、感情を伴わない事実のみが自身の中に積もっていく。
「楽器は持っていけないみたいだけど、リードとストラップは持っていけるんだって。律子持っていくよね」
吹奏楽部の同期だろうか、穏やかそうな男子が律子に語りかけているのが遠くに聞こえる。俺はまだ、律子の傍に一度も行っていない。




