第3章 1
その日も俺は、ぼんやりと廊下でパンをかじっていた。俺の高校では予鈴は鳴らない。だから、授業開始時間の二分前に教室に戻った。
教室に戻ると、誰もいなかった。いや、正確には一人残っていて校庭を眺めている。確か初前さんだ。彼女の自己紹介は強烈な印象を残した。
人の気配を察したのか、彼女が振り返る。
「あれ…」
既に皆がいなくなっていることに気が付いていなかったらしい。
「次、教室移動だったっけ?」
「俺この前あんま聞いてなかったから分からない」
彼女はノートを取り出し、目もがないか確認している。
「図書室だ、やば。もう始まっちゃうね」
そう言いながらも急ぐ様子はない。
「何してたの?」
廊下を歩きながら尋ねてみる。
「外見てた。りっちゃん、私が外見てると何も聞こえなくなるの知ってるから置いてかれた」
そう言いながらくすくす笑う。その笑い方に既視感を覚え、目を逸らしたから、彼女の問いを一度聞き逃した。
「……たの?」
「うん? ごめん」
「いいよ、安川くんは何してたのかなって」
「俺も、外見てた」
「そかー」
図書室に到着して、会話はそこで終わった。先生にまとめて怒られたのは、言うまでもない。




