第2章 17
店の外には既に何人かが集まっていた。電車で来たのであろう黒岩もいて、俺と茉子ちゃんが並んでいるのを見て意味ありげに見てくるから無視して背を向けた。
先ほどから茉子ちゃんが鞄を重そうに何度も持ち替えている。少し覗いたら分厚い『萬葉集』とこれまた分厚い『平家物語』が見え、今日が茉子ちゃんは演習が多い曜日であることを思い出した。
「茉子ちゃん、鞄重そうだね」
と言い、半ば強引に鞄を取り上げた。俺でもこんなに重いものは持ち歩きたいとは思わない。
「有難う」
肩を回してしかめ面をする茉子ちゃんを笑わせようと考えを巡らす。茉子ちゃんの鞄の重さを確かめるように何回か鞄を上げ下げする。これくらいの重さがあれば簡単に出来そうだ。
「器用だねー」
いきなりパントマイムを始めた俺に、茉子ちゃんは呆れ顔だ。
「そこらへんでパントマイムやったら今日のコンパ代稼げないかなぁ」
と言うと、
「やって来ても良いけど、私の鞄はここに置いていってね」
「五百円くらいなら稼げそうですが、全額回収はちょっと…」
いつの間にか俺たちの傍に来ていた黒岩の声が、茉子ちゃんの声と重なる。その時ちょうど店が開き、俺は黒岩の影を振り払うように階段を上る。茉子ちゃんが「鞄…」と呟いて、追い掛けて来る気配がした。




