第1章 2
アルバイトが終わると、もうすっかり日が暮れて真っ暗になっている。大庭が来てから、私の店と大庭の店の間の乗り換え駅まで二人で歩くのが日課だ。
文学部国文学コースの大庭と教育学部日本語日本文学科の私。馬が合わないはずがなく、のんびりと歩いて帰る。
「あ、そうだ、大庭に見せたい写真が…」
立ち止まり、スマホの写真フォルダを探す。すると、前を歩いていた大庭が辺りを見回し、私の姿を認めてほっとしたような顔をしているのが見えた。
「どうしたの?」
私が追いつくのを待ち、尋ねてくる。
「これ見て」
何も言わずに見せた写真はこの間行った母の実家がある鳥取で撮ってきた、白兎神社の砂像の写真。
「イナバノシロウサギ?」
やっぱり分かるんだ、と言う代わりににこりと笑んでスマホを鞄にしまおうと立ち止まると、大庭は五歩先でまた辺りを見回していた。
駅までのたかだか二十分強の間に、私は大庭に五回探された。
「ちょくちょくいなくなるよね」
と、五回目に見付けられた時に言われた。私は大庭のことが見える範囲でしか動いていないのだが、どうも時々彼の死角に入るようだ。
金曜の駅は人が多い。地下鉄の改札へ向かう階段前で立ち止まると、サラリーマンに怪訝な顔をされた。
「じゃあ、また…次はえーと?」
「月曜日だね」
別れ際に次のアルバイトの日を確認するのも習慣だ。
「月曜か…うん、それじゃ」
大庭が手を挙げ歩いていく。私も階段を降りようとしたが、ふと大庭の去った方を見ると大庭と目が合った。
二駅で私鉄に乗り継ぎだ。電車を待ちながらスマホを確認すると、メールが届いていることに気が付く。「疲れた」と一言。大庭からだった。