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第1章 12

 ゴールデンウィーク明けのアルバイトの日。授業を終え、店に向かう途中で大庭と出会う。大庭は丁度電話を取ったところで、私に気付いて手を挙げた。

「どがんしたと?」

大庭は普段、普通に標準語を話すから忘れていたが、そういえば長崎出身だった。話す雰囲気からしてお母様か。なんだかんだとやり取りをしている大庭の隣を歩いているうちに、店に着いた。大庭の話が切れそうにないので、先に事務所に入ることにする。

 数分後、大庭が事務所に入ってきた。

「斎藤茂吉が『赤光』を書いた時の気分はこんな感じだったのかな」

と開口一番に言う。

「もうちょっと分かり易く言おうか。多分私以外誰も理解出来てないよ」

後輩たちに文学関係の学部学科の子はいないから、皆変な顔をしている。

「それより、今日の夜、皆宜しくね」

『赤光』について解説する気は全くないらしい。「今日の夜」とは、慣れてきた新人たちとの懇親会(という名のコンパ)で、なぜか応援の大庭が企画した。

「渋谷だっけ?私地図読めないから大庭連れてって」

「オッケーオッケー。茉子ちゃんならどこへでも連れってってあげるー」

また適当なことを…非難しようと胡乱な目で大庭を見ると、笑っているように見えるが目は笑っていない。しかも大庭の視線は私の視線を捉えて離さない。

「『赤光』…斎藤茂吉の処女歌集…」

「あ、知ってる。高校の時文学史でやったやつだ」

このままじゃマズい…そう思った時、忍くんの読み上げる声と、それに対する感想が聞こえた。忍くんは新人の一人で、かなり勉強熱心な子だ。仕事のみならず、私と大庭の謎な会話の端々をも拾ってくる。

「でも『赤光』引いた意味よく分かりませんよ」

そう言われ、大庭が体ごと忍くんの方を向いた。

取りあえず、今の大庭からは逃げるのが得策だ、大庭が熱弁を振るい、沸いている事務所に背を向け売り場へ出て行った。


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