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第1章 9
やっぱりどこに向かっているのか先に聞き出すべきだった。蒼がどこに向かうか決めた時、心なしかにやりとしたのを放置すべきではなかったのだ。
蒼はホラーが好きだ。そして私は苦手。大庭は私のホラー嫌いを知らないはずだから、何の気もなしに誘ったのだと思うが、蒼は完全に確信犯だ。
恐らく青ざめているであろうが、必死に頭を働かせてなんとか蕾の様子を確認すると、ここにも立てられている説明文を読んでいる。
「旧幸坂邸。晩年の幸坂賢京が過ごした。…」
何か言っていると思ったら、音読していただけだった。蕾の声で落ち着いてきたものの、まだ普段通りとは言えない。
「その様子だと、この建物が持つ噂を知っているみたいだね」
蒼が不穏な笑みを浮かべている。蕾は音読をやめ、不思議そうな表情を向けたが、私の様子を見て思い当たったようだ。
結局、旧幸坂邸は通常時は一般公開しておらず、入らずに済んだ。その後、嘉永のキャンパスに戻り、学食で遅い昼食を摂って蒼と別れた。蕾は私の家の最寄り駅では電車を降りず、そのまま静岡へと帰って行った。




