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序章

 渋谷は私の鬼門だ。それでも、そこに行かなければならない用事が山ほどある。

 因みに、鬼門になった理由は思い当たる節があるけれども、「理由」となった「彼」が「何も覚えていない」というのだから、対処のしようがないのだ。

 ずっとずっと鬼門のままで、ずっとずっとこの胸のつかえから逃れることは出来ないのだろう。そう思い、人知れずため息をつくのだった。


 朝早くの大学は眠そうだ。学生は勿論、教授も眠そうだし、何よりもキャンパスが眠そうだ。ゼミの教授に呼び出されたものの、教授の用は一時間で済んだ。今日の残りのイベントは夕方のアルバイトだ。アルバイト先は自宅と大学の中間。わざわざ帰るのも億劫だし、今は家の最寄り駅から家近くまで行くバスの定期が切れている。

仕方なく学生ラウンジで時間を潰すことにしたのだが、油断するともう三か月前になるあのことに思考がいきそうになる。下らない、忘れてしまおう、と何度も思ったが、そう思う毎に鮮明に記憶が蘇るのは何かの嫌がらせか。

 こんな時は本を読むのが一番なのだが、あいにく持ち歩いている本はたった今、読み終わったばかり。隣駅まで行けば遊べるし、一、二年生の時ならばそうしただろうが、最早そのような気力もない。

 どうしたものかなあ、と蝉の声が降る外を眺めていた。


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