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第12話 変神! ホワイトラビット

 



 巨大な鋼鉄の蜘蛛……機械神将、アトラク=ナクアは、器用に八本の脚を使って方向転換。その顔が閃太郎を捉え、口が開いた。


(――いけない、高出力理力砲撃、来ます!!)


 サイファーの突然の檄が閃太郎に飛んだ。

 閃太郎にはわからない何かを、サイファーが察知したのだ


(狙いは閃太郎さんです、上へ跳んで! 今の閃太郎さんでは防ぎきれません、モモさんたちを巻き込みます!!)


 サイファーの切羽詰った声に、事態の重大さを悟る閃太郎。


「モモを連れて、離れろ……!」


「センタ君……!」


「モモ、行くわよ!」


 自分にとっては最大限の声で、閃太郎はエリナリーゼに向かって指示を飛ばすと、自身は上空へ向かって跳躍した。 

 

「…………!」


 気味の悪い鳴き声をとどろかせて、蜘蛛の照準が上空の閃太郎に向いた。


(腕を前にかざして!)


 サイファーの言われたとおりに閃太郎は両腕を蜘蛛の口……サイファーが言うところの砲撃の発射口に向けた。


(出力全開!!)


「…………!!」


 赤い閃光が蜘蛛の口から迸った。


「くう……っ!!」


 直撃は、避けられた。閃太郎が展開した錬気法の障壁が閃光を食い止めていた。

 だが閃太郎の体全てを覆いつくす大きさの閃光は、徐々に障壁を侵食していく。


(破られるのは、時間の問題……閃太郎さん!)


「わかってる……!」


 閃太郎は障壁の展開角度を徐々にずらし、閃光の指向性をずらした。

 だが、 


「はぁ、はぁ、はぁ……」 

 

 無傷でとは行かなかった。閃太郎の腕は黒ずんでいた。

 障壁を侵食した閃光は、既に閃太郎の腕を焼き、腕の先先は半ば炭化させられていた。


「…………!」


 蜘蛛の閃光を放った口から、今度は白い何かが吐き出された。

 

(反転して、空を蹴って!)


「おおっ……!」


 サイファーの言葉に、考えるよりも先に体が反応した。

 閃太郎は落ち行く中でくるりと体勢を変え、空を壁として地面へと加速した。

 錬気法の応用で錬気と反発する空気中の魔力エーテルを蹴ったのだ。

 先ほどまで閃太郎がいた場所を、蜘蛛が吐き出した白い何かが通り過ぎた。

 

(間一髪……あれ、多分溶解液です)


 つまり、直撃はなんとしても避けねばならない攻撃……いや、この巨体から繰り出される全ては、当たってはならないものだ。


「…………!」


 地面へ着地した閃太郎へ、容赦なく蜘蛛の次の一手が迫る。

 蜘蛛が8本の足が鈍重そうな巨体に超高速と形容できるだけの機動力をもたらしていた。

 20メートルクラスの蜘蛛が、超高速で迫るのは、いっそホラーの領域に足をつっこんでいると、閃太郎は思った。

 そしてその脚は先端が蜘蛛のそれと同じく尖っていて、同時になんらかの金属で出来ているのだからソレそのものが武器となる。

 蜘蛛が前の足を、槍の如く閃太郎に向かって突き出した。


「ふっ……!」



 腕が使い物にならない状況、そうでなくとも受け止めることが出来ない一撃。

 閃太郎は、横へ跳んで避ける。


「がはっ……!」


 自重を支えるだけならば、8本も脚は要らない。故に攻撃に回せる脚は一本ではないのだ。

 避けて起き上がりに重ねるように、蜘蛛の脚が薙ぎ払われた。

 とっさに腕で庇うこともできずに、胴体に鋼鉄の塊が叩きつけられ、閃太郎は弾き飛ばされた。

 

(閃太郎さん……っ、貴方はこの程度でやられる人ではないはずです!)


 サイファーの檄が飛んだ。一人なら容易く意識を刈り取られそうになるところをサイファーが引き止めた。  

 本格的な展開ではなくとも、閃太郎の身体には極彩色の錬気のヴェールが薄く膜を作っている。

 これが、蜘蛛の一撃の威力をわずかばかり軽減した。

 それでも今の一撃で、閃太郎の骨は何本かは確実に折れていることだろう。

 だが、これほどの相手に一撃を受けても尚生きていること自体が僥倖。

 死ななきゃどんな攻撃だろうと安い。これはそういう種類の相手だ。


(その精神強度は流石です。でも、それでは足りませんね。彼我の戦力差は明らかです)


 無常なサイファーの言葉が、頭に響く。

 だが、現実は直視しなければならない。

 

(やられる前に、やるだけだ)


 あの巨体はそれそのものが武器だが、同時に弱点でもある。

 懐に入り込むことが出来れば、攻撃はやりたい放題だ。

 どのみち今の康太郎に遠距離攻撃の手段が乏しい以上、超至近戦闘を挑まざるを得ないのだ。

 

「ふん、他愛ないな!」


 蜘蛛の後方、愉悦に浸っているニンジャが閃太郎を嘲笑った。

 よほど閃太郎がいたぶられているのが愉快らしい。


「……サイファー、こういう場合召喚主を倒すのがセオリーだが」


 目立ちたがり屋の自惚れのニンジャ。ニンジャとしては失格だろうその男だけを倒すだけなら、今の閃太郎でも――


(……漫画草子の見すぎです。この場合はそれでは済まないでしょう。あの蜘蛛……アトラク=ナクアのスペックは、敵ニンジャを遥かに越えています。つまり、扱いきれていない可能性があります。しかも道具を補助に……いえ、道具で力任せに召喚したふしもあるのが、それを裏付けています。故に、あのニンジャを倒したところで、この蜘蛛がスタンドアローンで活動を続ける可能性が高い。そうなれば、この里は、破壊しつくされます)


「……ふう。まったく、なんて難儀な」


(珍しい、弱音を吐くなんて)


「そうでもない。僕はいつも弱音ばかりだ。けど――」


 閃太郎は腕をだらりと下げ、中腰になる。

 錬気法の力配分を足へと集中。防御に回す分さえもつぎ込んで速力と破壊力に特化させる。

 どのみち、生半可な防御が通じないのなら、はじめから当たらないことを前提に動けばいい。


「この世界に記憶も無く放り出されたことに比べれば、蜘蛛退治なんて全然……楽勝だ」

  

 閃太郎らしくない軽口。だが、不意に口からこぼれ出た言葉に、閃太郎は自然と顔がほころんだ。


(うわ、なにそのオリジナルスマイル……ちょっとシャレになってないですよ)


 サイファーが両手で口元を押さえて、信じられない、とでも言いたげな顔をしていた。

 なに、その年収が安すぎることに驚愕したOLみたいな反応は? ぶっ飛ばすぞ。


(まあまあ。ネガティブの塊のような閃太郎さんが軽口を言うものですから、きっと気負ってるんだなと思って、支援ユニットジョークで気分を和ませたかっただけですよ)


 ……まあそうなら、いいけど。


(チョロイなあ……不安だなあ、この人)


 知らん。もうおふざけはここまでだ。


「害虫駆除だ……!」


 閃太郎が鋼鉄の蜘蛛に向かって飛び出した。



***



「しぶとい……!」


 レリウスは、アトラク=ナクアと凶相の青年の対決を後方から見ていた。

 青年が、蜘蛛の足による攻撃を紙一重で見切って避ける。アトラク=ナクアの突きは瞬間的な速度では、熟練のニンジャでも避けるのは困難を極めるというのに。

 アトラク=ナクアが払う足も、青年は足の裏で受け止め、その力を利用することで距離をとり、威力を殺して見せる。


「チェストーーー!」


 青年が懐に飛び込み、その剛脚をアトラク=ナクアの胴体に叩き込んだ。


「……!」


 苦悶の鳴き声を上げるアトラク=ナクア。

 

「その程度で!!」


 レリウスは印を組んで指令を送る。

 アトラク=ナクアには常に自己修復が掛かっている。あの程度の蹴りでは、損傷を与えたところで焼け石に水。すぐに回復する。

 故に、アトラク=ナクアには少々無茶をさせる。

 攻撃を受けても止まるな、相手から攻撃を受けた瞬間こそがチャンスだと。


「チェイサアアアアアアア!!」


 

 何度目かの蹴りが、アトラク=ナクアを直撃する。


「やれ、アトラク=ナクア!」


 アトラク=ナクアは胴体の中央と先端から糸を発射した。

 糸は青年に絡みつき一時的に動きを止めることに成功する。そしてそれは、このアトラク=ナクアの前では致命的な隙だ。

 アトラク=ナクアは急制動、急旋回を行い、青年の身体を回し蹴りのように脚で薙ぎ払って、空中に打ち上げ、無防備を晒す青年に赤い閃光を発射した。

  

 



***


――やばいやばいやばいやばいやばい!!

 

 蜘蛛の脚の一撃が、閃太郎の身体に致命傷とも言えるダメージを与えた。

 骨は折れて破片が内側に刺さっている。内蔵はインパクトの瞬間に破裂した。

 それでも体が原型を保っていられるのは、とっさに 錬気法による強化配分を全身に切り替えたから。

 それでも防御とするには不十分で、無様にも打ち上げられていた。


「くっ……がぁ……」


 空中に身を投げ出されたに等しく、閃太郎も空を自由に移動できるわけではないから、地上から赤い輝きを感じても、指先一つも動かない。

 終わる。

 ちょっと粋がってみたが、それもここまで。そもそも人間一人が、巨大な多脚の機動兵器と戦うのなんて無理な話。

 どんな作品でも、敵と味方は同じ舞台に立つことがセオリーだ。閃太郎は、どこまで超人じみていても所詮はただの人間でしかない。しかも己の出自もわからないほど曖昧なやつで。


 赤い閃光が蜘蛛の口から解き放たれた。

 ここで終わり。もとより、結果など――。





***





 …………。


 ………………?


「なんで?」


 閃太郎の意識は、まだ健在であった。

 赤い閃光は、今にも閃太郎を飲み込まんとしていたが、何故か空中で静止していた。

 それだけではない。ニンジャも、閃太郎自身も、何もかもが静止していたのだ。


(何だコレ……?)


「いわゆる、走馬灯状態ですよ、閃太郎さん」


 サイファーが、空中で静止したままの閃太郎の顔を上から覗き込むようにして見ていた。

 閃太郎は口を開いていないのに、


(走馬灯……?)


「人間が死ぬ間際に見るという、今までの人生の総括。死ぬ間際に脳の全機能を解放することによって実現する究極の集中力が見せる、刹那の奇跡。今のこの状況は、私が閃太郎さんの精神にハックをかけることで、実現しています」


 つまり、コレは時が止まっているとか、そんな都合のいいものではなく、閃太郎の意識だけが加速しているだけ。今までの、仮想時間圧縮と同じ。ただの脳内の出来事。


「……そうか。僕はもう終わりか」


「はい、残念ですが。ですので、最後にお別れを、と思いまして――今まで、ありがとうございました、閃太郎さん」


 閃太郎は、表情もなにも動かせないが、内心ではとても驚いていた。


(言っている意味がよく、わからないな。正直、そんな殊勝な君は気持ち悪い)


「き、きも……よりにもよって貴方にそれを言われるとは……少ない私の稼働時間の中でも最大の屈辱……って茶化さないでください。本当に感謝しているのです」


(だから、本当にわからん。君が何を感謝する必要がある。感謝するのは、むしろ――僕のほうだろう? 君がいなければ、僕は強くなれなかった。一時でもこの蜘蛛相手に戦いになったこと自体が、本来ならありえないこと。体の扱いや錬気法は、君の協力が無ければ身に付かなかったのだから、だから……本当にありがとう)


 閃太郎は、本心を語った。これが心の中の、思考がダイレクトに伝わる場所だからか、言葉はスムーズに出た。これも究極の集中力がなせる業かもしれない。

 だというのに、サイファーはまるで鳩が豆鉄砲を喰らったかのように、目を点にして固まっていた。


「いえ……やはり、お礼を言うべきは、私でしょう。貴方は私は、目的を与えてくれました」


 語るサイファーは神妙な面持ちで。とても、普段のサイファーからは考えられない静謐な雰囲気があった。


「私は道具。多次元原生生物殲滅用アサルトフォース、その装着者支援ユニット。ただそれだけの存在。本来、全てが忘却の彼方にある今のこの世界に、私の居場所はありませんでした。でも、貴方が言ってくれました。私は自由であると。自我があると」


 サイファーが語る。己の胸の内を。これが、サイファーの内面に明かす、初めてのこと。


「最初は何を言っているんだこのスカタン、と思っていました。今でも半分くらいはそう思っています。でも……」

 

 サイファーは目を瞑り、両手を重ね、胸を押さえた。

 

「貴方の意志が私を再び目覚めさせた。飽くなき渇望、強く純粋な願い、迷いながらそれでもぶれない芯、燻った熱い魂……私は、その熱によってセミスリープから再起動しました。それからずっと、私は貴方と共にありました。貴方との日々は、私が道具で、ただ使われるだけの存在であることを忘れさせるだけの何かがあって……楽しかったです。楽しいという感情を学びました。そして同時に、この瞬間に至るまで、閃太郎さんの補助をするのは、楽しかった。頼られるのは、嬉しかった。私の本質は、やはり道具なのです。使われて、頼られて、その性能を引き出されることに、どうして喜びを感じてしまいます……」


 そこまで言って、くわっと、サイファーの目が見開かれた。

 先ほどまでの静謐な雰囲気を一変させた、熱意ある視線で閃太郎を見ていた。


「だから! こんなところで終わるなど、納得できません! 私が、本来の性能を発揮したのなら!     貴方が、私を使いこなしてくれるのなら! あんなデカブツなどに後れを取ることはないのです!」


 がしっと拳を握って熱弁をふるうサイファー。

 先ほどまでの、ちょっとしおらしいサイファーは何処に消えたのだろうか!


「閃太郎さん、悔しくないですか? ここでゲームオーバーなんて、ありえないですよね? 今ここで閃太郎さんが倒れれば、里はあのデカブツ、アトラク=ナクアによって壊滅し、なにより……」


 サイファーは一拍間を空けて、次の言葉を――


「モモさんがどうなることでしょう」


「……っ」


 サイファーの言葉に、閃太郎の思考は一瞬停止した。何も考えられないほどの熱がカッとなって閃太郎の心をはしったのだ。

 腕が動けば、頭をかきむしらずにはいられないほどの、叫ばずにはいられないほどの……怒りが。

 

「モモさんの出自はわかりません。ですが、どんな形であれ、彼女が今以上に幸せになることはありません。今ある全てを壊されるのですから。それがどれだけの心的外傷になるでしょうか」


 ああ……心優しい彼女のことだ。それは心が壊れてしまうほどの衝撃ではないのか? 

 

「いいのですか? それを黙って見過ごすと?」


 馬鹿な。何をほざくサイファー。そんなの許していいはず無いだろう……!!


「どうすれば、いい」


――どうすれば、このくそったれ(・・・・・)な今を、変えることが出来る!!

 

 閃太郎の心の慟哭、怒りが、熱風となってサイファーの髪を掻き上げた。


「承認を」


「承認?」


 閃太郎は、何のことだかわからない。


「多次元原生生物殲滅用アサルトフォースの、装着者になることを。私、装着者支援ユニット、サイファーのマスターとなることを」


「……」


 物騒な、名前だ。多次元原生生物殲滅用? つまりサイファーは、もとは何かしらの侵略兵器。それも殲滅用途なら、よほど残酷かつ恐ろしい役目だ。


「僕は、本来の君の役割を知らない。聞く気も無い。ただその力を、僕は、僕が正しいと思うことに、僕の守りたいものを、守るために使う。……そんな僕でも良いと言うなら」


 サイファーが呆れたような、苦笑を浮かべた。


「なんで、こんなときに微妙にヘタれたことを……」


 まあ、待て。最後まで言わせて欲しい。


「僕が、お前を使ってやる。本来の用途など知らん。僕は、僕の望みのために、お前を使いつぶす。お前は僕の所有物で、僕が今、この瞬間から、お前のマスターだ、サイファー……!」 


 閃太郎の傲慢な宣言に、サイファーは満面の感極まった笑顔を浮べ、胸に手をあて、頭を垂れた。


「イエス、マイマスター」


 瞬間、時が動き出して、閃太郎は、赤い閃光に飲み込まれた。


  

***



「……な、なんだと」


 レリウスは、目の前の光景を疑った。

 凶相も青年は、アトラク=ナクアの赤い閃光の直撃を受けたはず。

 本来、跡形も無く、塵一つ残らないはずなのに、青年は、変わらず五体満足でアトラク=ナクアと対峙していたのだ。


「ありえん……至高天より賜りしアトラク=ナクアでも倒しきれんというのか……? 一体奴は、なんなのだ!?」


 レリウスが慟哭する。未知のものへの恐怖をレリウスは抱いた。

 それは、至高天に抱いたものと同種のものであり……そして青年は、敵であった。




***



 

 何事かを喚くニンジャはさておき、サイファーのマスターとなったことで、アサルトフォースのオートガードが機能し、閃太郎は一命をとりとめた。

 それだけにとどまらず、アサルトフォースのナノマシンユニットが、閃太郎の全身に行き渡り、細胞を上書きし、閃太郎は完全回復を果たしたのだ。

 そして、マスター権限を獲得したことで、次々と情報が頭の中に入ってくる。

 もっとも今は戦闘中。すでにサイファーが情報の選別を行い、戦闘の阻害にならない必要最低限のものだけが、閃太郎の脳に焼き付けられていく。


(では、マスター、装着のキーワードを)


 心の内で、サイファーが催促した。

 決まっている。そんなものは、遥か古より様式美として、決意の表れとして、宣誓として叫ばれていたもの。

 だが、ほんの少しだけアレンジを加えさせてもらう。

 かつて、いつかのどこかで、自分は鬼神と称された。

 ならばそれに習い、今この瞬間は、それそのものになろう。鬼神になってやるのだ。


「行くぞ、サイファー」

 

 右腕に今まで無かった腕がつけられていた。それを見せ付けるように、斜め上へと閃太郎は突き出した。




変神へんしん!!!」





 宣誓の後、胸の中央よりやや下に腕輪を当てた。

 すると、腕輪から白い光があふれ出し、閃太郎を包み込んだ。

 

「……!」


 アトラク=ナクアが無防備ともいえる閃太郎に赤い閃光を浴びせた。

 だが、白い光が赤い閃光を完全に遮断していた。

 

(無駄です。トランスフェイズにおける理力変性遮断領域オーダートランスディフレクトフィールドは、その程度(・・・・)の砲撃では貫けません)


 閃太郎の全身に、白い金属鎧が装着されていく。粒子レベルに封印されたアームドフォースが、閃太郎の身体に最適化しているのだ。

 肥大化したブースターユニットつきの脚部、筋張ったブレストアーマー、頭部より突き出したツインアンテナ、その下にある緑色のツインアイと、排気口が付いたフェイスガードが合わさって、その様相はまさに、


「白い鬼……だと?」


 閃太郎の変神、その一部始終を見ていたレリウスが思わず呟いた。


(失敬な。コードネームはホワイトラビット。兎さんですよ)


 そう今の閃太郎は、鬼神にしてただ一匹の兎。戦場を無尽に駆ける最強の兎。


「閃きの記憶……その身に刻め、デカブツ」


 脚部のブースターユニットが点火し、閃太郎の身体が、アトラク=ナクアに一瞬で肉薄する。

 

「……!」


「まずはその脚、一本……!」


 アトラク=ナクアの脚の刺突が閃太郎に向かって放たれた。

 閃太郎は、それを正面から迎え撃ち、蹴りに合わせてインパクトの瞬間にブースターユニットを再噴射、轟音を響かせてアトラク=ナクアの脚を破壊した。


「……!?」


「馬鹿な!?」


 バランスが一瞬崩れる。それは今の閃太郎にとっては致命的な隙に他ならない。


「もう一つ……!」


 閃太郎の足刀が、アトラク=ナクアの脚を鎌の如く刈り取った。


「……!?」


 アトラク=ナクアは苦し紛れに赤い閃光を撃つが、今の閃太郎の機動力は、閃光の速度を易々と上回る。

 難なく回避し、更に一つを蹴り飛ばす。


「……!?!?」

 

 アトラク=ナクアの高速の機動力が見る影も無い。

 いまや自重を支えるだけで精一杯のようだ。


「やるなら、徹底的にだ」


 機動力を失ったアトラク=ナクアの残りの脚を、閃太郎は全て蹴り裂いた。

 

「……!!」


 アトラク=ナクアは完全に動けなくなってしまった。

 もはやただの固定砲台とおなじだ。


「……!」


 アトラク=ナクアは、胴体から糸を二本射出した。それを閃太郎に巻きつけた。


「それを待っていた」


 閃太郎は糸を持つと、それを力任せに引っ張った。

 アトラク=ナクアの糸は、蜘蛛のそれが巨大化したもの、その強度は推して知るべし、アトラク=ナクア自身でも引きちぎるのが困難なほどに。

 閃太郎はアトラク=ナクアが繋がった糸を自分を中心に、アトラク=ナクアごとスイングした。


「…………!?」


「そぉい!」


 遠心力をつけて、閃太郎はアトラク=ナクアを空高く投げ飛ばした。

 

「……!?」


 閃太郎は自身に絡み付いていた糸を力任せに引きちぎると、中腰に構えた。


「決めるぞ、サイファー」


(了解、イクシードドライブ、レディ)


 アームドフォース、閃太郎の全身鎧の各部が展開し、そこから白い光があふれ出す。


「おおっ……!」


 閃太郎が、天高く飛び上がった。


(脚部、オーダーユニット、バーストアップ)


 脚部が白銀の光を放ち始める。

 あふれ出した光の粒子は、星のきらめきにも似ていた。

 閃太郎は、空中で姿勢を変え天に向かって足を向けた。

 脚部のフレキシブルブースターが点火、閃太郎はさらなる加速を得る。


(Rapid Rabbit Straighter――Discharge!!)


「チェイサアアアアアア!!!」


 閃太郎の渾身のとび蹴り――ラピッド・ラビット・ストレイター――が、アトラク=ナクアを貫通し、命中と同時にアトラク=ナクアに浸透した閃太郎の錬気法……アームドフォースにより変換増幅された理力がアトラク=ナクアを爆発、粉砕させた。




***




 これが【閃きの鬼神】、風間閃太郎の初陣であり、伝説の第一歩であった。






おまけ:ステータス


 風間閃太郎


 身長:195cm

 体重:81kg

 パワー:B+ 

 スピード:B+ 

 テクニック:C 

 タフネス:A 

 マジック(魔力):F 

 タスク(錬気法):A+

 オーダー(理力):??? 


 F、E,D、C、B,A、S、EX、∞の順にランクが上がる。またそれぞれに、ー、+の段階評価ありEXは規格外、特殊な場合 ∞は測定不可


 スキル:【底力】逆境に発たされるほど、力を発揮する。全能力に+補正

     :【精神耐性(鬼)】いかなる苦境、窮地に陥るとも、精神を十全に維持できる。

     :【変神】アームドフォースを装着できる。装着時、感情合わせてに全能力に補正が掛かる。

      補正に上限なし。

     :【地球人(純粋種)】アームドフォースを装着するための絶対条件。隠し要素アリ

     :【記憶喪失】極稀に精神耐性(鬼)の効果を無効にする。


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