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第11話 逆襲の閃太郎、ニンジャ絶体絶命

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「せ、センタ君……」


 涙で顔をぐしょぐしょに濡らしたモモが、閃太郎を見ていた。


「モモ」


 閃太郎は、モモが生きて、そこにいることに安堵した。


「お願い……センタ君……助けて!!」 


 モモの魂からの叫びが、閃太郎の耳朶を打つ。


「任せろ」


 閃太郎は自分が出来る精一杯の笑みをモモに見せてやった。

 羅刹と称される閃太郎の笑み。だがそれでも――


「うん!」


 モモは泣き腫らした顔で、笑顔を作って閃太郎に応えた。

 

「ふう……」


 目を閉じ閃太郎は大きく息を吐いた。


「サイファー……行くぞ」


(いつでも……貴方を止める者は誰もいません)


 閃太郎の錬気が、視覚化されるほどの極彩色の闘気となって、閃太郎の体からあふれ出す。


「……もうずっと、わからないことばかりだ。この里のことも、この世界ことも、サイファーのことも、今のこの状況も……自分のことさえ」


 閃太郎が歩き出すと、あふれ出た錬気に空気中の魔力エーテルが干渉してスパークが起きる。


「だけど、たった一つだけ、わかっていることある」


 閃太郎の、鋭いといわれた目つきが、より一層険しくなって、


「お前たちが、モモを泣かせたということだ。外道ども」

  



***




 閃太郎の声音も態度も平時のそれと変わらない。

 だが、サイファーにははっきりとわかる。隠された真の感情を。例え表に出ていなくとも、伊達に閃太郎の内部に住み着き、時間圧縮空間で数十年分を付き合っていたわけではないのだ。

 閃太郎は、怒っている。

 それは、この異世界ディーにやってきて……記憶を失ってから初めてのこと。

 里の住人から後ろ指を指されようが、仕方ないことだと悟り。

 指南役のシンたちから無理難題を言われても素直に従い。

 サイファーとの仮想時間圧縮空間……体感的に引き延ばされた時間の中での累計数十年に及ぶ鍛錬に気が触れることも無く、泣き言一つ言わなかった男が、遂に感情を大きく振るわせた。


(まったく。出力制御するこっちの身にもなってくださいよ)


 呆れ交じりのセリフを吐きながらも、サイファーの心は弾んでいた。

 今のサイファーに、生来の本来の役割を果たす意志は無い。

 だが、自身の能力を十二分に発揮するのは単純に気持ちがいいのだ。

 閃太郎の錬気法は発動こそ本人の意志だが、細かな調整はサイファーが行っていた。

 そもそも閃太郎に錬気法を扱えるようになったのは、サイファーが閃太郎の身体を一時的に操り、錬気法の感覚を覚えさせたからできた芸当だったのだ。

 

――閃太郎の激情は気持ちがいい。この熱さは、気持ちのいい熱さ。

 

 故にサイファーは、閃太郎を止めることはしない。

 閃太郎の並外れた強度を持つ精神が怒りに振り切った時のこの熱さは、彼女が作られた感情の根幹にあるものだったのだから。




***



 突如として空から降ってきたやけに目つきの悪い青年が、ぶつぶつと何事かをつぶやきながら、こちらに向かって歩いてきた。


「なんだ、貴様――」


 エリナリーゼを足蹴にし、モモに脅しをかけ精神的に陵辱したニンジャ――イガ・ニンジャレギオン副頭領のレリウスは、分け身を動かして青年を包囲した。


「情報にはない男だな。……そうか、貴様が陽動部隊を」


 レリウスは理解を得た。いかに老人ばかりの里ととはいえ、このような異分子が一人や二人いてもおかしくは無いだろう。

 そして陽動部隊は油断を誘うべく使い捨ての未熟者で構成されている。

 ならば、この里で薫陶を得ているこの青年が陽動部隊をあしらうのも頷けるというもの。


「ふん、貴様一人で何が出来る。果てろ」


 レリウス()は一斉に手裏剣を投擲した。


「なに……?」


 だが手裏剣は、青年に届く前に、見えない何かに弾かれ、地に落ちた。


「……?」


 青年は手裏剣を前に微動だにしなかった。小首をかしげるその様は、レリウスを小馬鹿にしているように見える。

 そう、青年は反応できなかったわけではない。

 自分に届かないことがわかっていて、この程度かと挑発しているのだ。


(錬気法……か。それも体外放出による擬似障壁だと?)

 

 内心でレリウスは舌打ちした。

 錬気法の基本は、体内操作の世界法則。

 体内で練り上げた錬気を体外へ出すのは高難易度を誇り、資質にも左右される。

 だが、仮に放出を可能とするならば、その効果は絶大。巨大な純エネルギーである錬気は、絶大な威力を発揮するに留まらず、人体の治療にも転用可能とされる。

 目の前の青年が行った錬気法による障壁は、エネルギーである錬気法に質量を乗せたもの。つまりは物質化の一種であり、これも言わずもがな超高難易度を誇る。

 それを汗の一つもなく、軽々と発動させた青年は、間違いなく脅威。

 レリウスは目の前の青年への認識を改めた。

 春日井エリナリーゼ以上に厄介な障害であると。


「ならば」

 

 レリウスは、自身は逃走のタイミングを見計らいつつ、分け身を操って焙烙ほうろく球を空中に投げ放ち、を結んで詠唱を呟いた。


「オン・インダラヤ・ソワカ……はしれ、雷遁!!」


 雷の召喚が成立した瞬間、青年を巨大な爆発が包み込んだ。


「センタ君!」


「口を開くな小娘。舌をかむぞ」


 爆発に合わせてレリウスは素早く距離を置いた。

 里で起きた爆発の正体が、この焙烙球と雷のニンジュツの合わせ業。

 過剰なまでに火薬を詰め込んだ特製の焙烙球を雷で点火させることで瞬間的に爆発を生みだす。

 これぞニンジュツ・瞬塵エクスプロージョン。


 レリウスは標的たる【果実】すなわち、暁モモの搬出を最優先に、里からの離脱を選択した。

 里の殲滅はこれからじっくり行えばいいのだから。

 

 そう思って、爆風で舞い上がった煙に背を向けた。


「――っ! なんだ」


 レリウスは背中を押す風圧を感じて、一瞬バランスを崩した。

 振り返ると、先ほどまでもくもくと舞い上がった煙が、綺麗に晴れていたのだ。


「……」


「……怪物か、あれは」


 鋭い眼差しで、レリウスたちを見る青年は瞬塵エクスプロージョンの中心にいたというのに傷どころか、服に汚れも見当たらなかった。


「……モモを放せ、外道」


 青年がやや中腰に身をかがめると、レリウスに向かって跳躍する。

 空中を駆ける砲弾のごとく、青年は一歩の踏み込みでレリウスに肉薄した。


「疾っ!!」


 ほぼ同時と見紛う5発の拳がレリウスの腕を、足を、顔を破壊し、標的がレリウスの手から離れた。


「きゃあっ!!」


 青年は、悲鳴をあげる標的を難なく受け止め、地面に降り立った。


「く、き、貴様……」


 完膚なきまでに肉体は破壊され、もはやこの【分け身】は駄目だと悟ったレリウスは、分け身に接続していた自身の意識を切った。



***   


 

「センタ君、センタ君、センタ君!」


 救い出したモモが、何度も閃太郎の名を呼びながらしがみ付いて放さない。

 

「……モモ、落ち着け。もう大丈夫」


 閃太郎はモモの背中をなだめるためにさすりながら、モモの体の柔らかさに内心「ぐへへ役得じゃのう」などと思いながらも決して顔には出さないよう努めていた。


(前から思ってましたけど、閃太郎さんって割りと最低ですよね。このムッツリスケベ)


「……っ」


 言い返せない。銀髪貧乳少女の言葉はまったく閃太郎には言い返す資格が無かった。

 ああ、そういえば心の内に同居人がいましたねと、閃太郎は一気に冷めた。


「あっ……センタ君、エリナさんが……!」


「皆まで言うな、わかっている」


 モモを抱えながら、閃太郎たちは冷静の状況を見た。

 視界の隅にクナイをその身に受けたエリナリーゼが横たわっていた。

 そして、周囲には無数の同じ顔をしたニンジャが閃太郎たちを包囲していた。

 わかっていたことだが、先ほど殴り飛ばして光の粒子になって消えたニンジャは本体ではないらしい。


「エリナリーゼさんを助けて、ここを抜ける」


「で、でも大丈夫なの? こんなにいっぱい……」


「大丈夫」


 閃太郎は不安に揺れるモモに力強く応えた。


「僕を、信じて」


「……」


 モモは、閃太郎をまじまじと、呆気に取られたような表情で見て、それを神妙なものへと直し、


「うん。センタ君を信じるよ。エリナさんをお願い」


「……任せろ」


 モモにお願いされたのであれば、不可能も可能にしなければならない。

 巨乳美少女にして女神の、閃太郎を信じるという言葉が、閃太郎のモチベーションを最高潮クライマックスまで引き上げた。


(現金な人)


(ああ……まったくだ)


 心の内でサイファーの呆れを肯定すると、閃太郎はモモをしっかりと抱えた。


「しっかり掴まっていて」


 モモの熱を、柔らかさをさらなるモチベーションに変えて、閃太郎は駆け出した。

 人一人を抱えていることなど、なんら閃太郎の動きを制限するものではない。

 

「おのれ、この雑兵がーー!!」


 

 モモがいるのも構わず、ニンジャたちは手裏剣を投擲した。


「外道が」


 つくづく救えない連中である。大方、腕の一本や二本、部位の欠損程度は構わないとでも命じられているのだろう。

 だがそれにしたって、この女神のようなモモの柔肌を傷つけようとするだけで極刑は確定ものなのに、すでにモモの顔が少し赤く腫れているではないか。

 このニンジャ全員、後でたわしで死ぬまで殴りつけてやらねば気がすまない。

 

(うわ女神とか! その無駄な持ち上げが気持ち悪い! きもいとかそういうレベルじゃなくて、気持ち悪い!!)


 ぎゃーぎゃー銀髪貧乳が頭の中でうるさい。少し黙れ。

 閃太郎は、錬気法で錬気を放出。

 光の加減でほんの僅かに見える、極彩色の錬気のヴェールが閃太郎たちを包み込み、それがニンジャの手裏剣を弾き飛ばした。


「ふ……っ!」


 閃太郎はモモを抱えたまま疾駆する。

 ニンジャたちは手裏剣だけでなく、炎や雷を撃ってきたり、刀で切りかかってきたりしたが、


「しゃらくさい」


 閃太郎の剛脚が、炎を吹き飛ばし、雷をものともせず、刀を折って、そのままニンジャの身体を奈落に沈める。

 ニンジャの集団につっこんだ閃太郎は、一撃一殺で、次々とニンジャたちを消し飛ばしていく。

 ニンジャの戦闘速度にも、モモを抱えた状態でさえ閃太郎はそれを上回っているのだ。


(閃太郎さん、ルート算出できました。エリナリーゼさんのところへ向かいましょう)


 サイファーのナビゲーションと閃太郎の技量が合わさり、エリナリーゼ救出のプランがスムーズに進む。

 周囲のニンジャをあらかた倒した閃太郎は、すっかりフリーとなったエリナリーゼに駆け寄りモモを降ろした。


「エリナリーゼさん、すぐにケガを治します」


 サイファーの補助を合わせることで、閃太郎の動作はより精密になる。

 寸分のブレも無くエリナリーゼの肢体に刺さったクナイを抜き取ると、極彩色の錬気の光をエリナに向かって放った。

 障壁に使用したものより幾分柔らかな印象を与える光は、エリナリーゼの傷を見る見るうちに修復していった。


「あなた……こんなことまで出来るの?」


 エリナリーゼは疲労の色は濃かったが、一命をとりとめたのだ。


「エリナさん、よかった~~」


 ふにゃりと顔を歪ませたモモがエリナリーゼに抱きついた。


「よしよし、心配かけたわね、モモ。それに閃太郎、ありがとう」


「いえ」


 閃太郎は柔らかく笑みを浮かべたエリナリーゼに小さく頭を下げた。指南役である彼女にお礼を言われるとは、閃太郎も恐れ多いのだ。


「とんだ誤算だ。まさか、春日井エリナリーゼクラスより、遥かに高い戦闘力の持ち主がいるとは」


 安堵も束の間、先ほどまでのニンジャが、閃太郎たちの背後からゆったりと近づいてきた。

 モモとエリナリーゼを後ろに庇いながら、閃太郎はニンジャと相対した。


「……お前が本体か」


「ああ。分け身では、貴様の前では時間稼ぎにもなりはしないとわかったからな」


 ニンジャは、余裕の態度を崩さない。


「気を引き締めなさい、閃太郎。アレだけの分け身を出現させておきながら、奴はいささかの疲労を見せていない。何かのからくり(・・・・)があるのは明らかよ」


 エリナリーゼの忠告はもっともだ。

 閃太郎の知る限りではニンジャのニンジュツとは、体術に道具術、それにニンジャ用のオンミョウマジックをあわせたものの総称である。

 あの分け身というニンジュツは、オンミョウマジックの類、つまり魔導法の一種だ。

 魔導法は主として外界の魔力エーテルを使用するのだが、その操作のために呼び水として体内に極僅かに存在する体内魔力エーテルを使う必要があるのだ。

 そして分け身は、多量の魔力を必要とするため、とても大人数作れるものではない。また多く作れば作るほど、操作も難易度を増すから、単純作業しか出来なくなっていく。 

 ところが目の前のニンジャは、何十体もの分け身を作りながらも平然としている上に、その操作も細やかだった。


「コレを、このタイミングで使うのは少々予定違いだが、それもただ早まっただけのことだ」

 

 ニンジャは懐から小さな赤い珠を取り出して、見せ付けた。


「……それが?」


 にんまりとニンジャの笑みが深くなった。

 殴りたい、この笑顔。


「無尽のエーテルを与える至高天より賜りし、賢者の宝珠よ! その真の力を我に示せ! ――オン・アロマヤ・テング・スマンキ・ソワカ。オン・ヒラヒラケン・ヒラケンノウ・ソワカ!!」


 赤い雷光がニンジャの周囲を奔り、強い風がニンジャを中心に巻き起こって、その頭上の天には暗雲が集まりだした。


「いけない! 閃太郎、彼を止めなさい! あの呪はクチヨセよ! 何かを召喚する気だわ!! それも普通じゃない!!」


 エリナリーゼの言葉に、反射的に閃太郎は飛び出した。

 詠唱し、手で印を組んでいるニンジャは無防備に身体を晒している。

 閃太郎は容赦なくニンジャに拳を叩き込んだが、


「くっ……」


 見えない壁が閃太郎の拳を阻み、赤い雷光が閃太郎の拳を焼いた。


(次元湾曲障壁!?)


「あっはははは、無駄無駄無駄ぁ!! ――完成せし神威、ここに照覧あれ!!」


 赤い光が、空中に円と五芒星を組み合わせた陣を描き、そこから何かが現れる。


「……」


(なんて出力……)


 サイファーから驚きの言葉が漏れた。

 閃太郎はイマイチその凄さがわからないが、派手で、角ばっていて、何より、


「でかい……」


 陣より現れたのは、鋼鉄の身体を持つ、巨大な蜘蛛……の形をした起動兵器であった。

 その大きさ、概算で全長20メートルオーバー。

 

「行け、機械神将・アトラク=ナクア! その凶相を葬り去れ!!」




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