表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

プロローグ 白い鬼



「僕の名前は風間かざま) 閃太郎(せんたろう)。十二の至高天を征し、天帝を頂く男だ」


 立てば修羅、笑えば羅刹、歩く姿は鬼神の如く。

 いつかのどこかでそう形容された男が、高らかに語った夢の形。

 愚かを通り越して思わず笑ってしまうほどで……故にその夢は、数千年で築きあがった秩序をひっくり返す、口にするのもはばかられる大・下克上、大覇道である。




***





「僕の名前は風間 閃太郎。十二の至高天を征し、天帝を頂く男だ」


 至高天、獅子堂メルカに臆することなく、男は名乗りを上げた。


――馬鹿だ、愚者だ、かぶき者だ。とんでもない大うつけだ。というか、だ。


「目つき、悪っ!」


 メルカが思わず滑らせた言葉に、男は少々むっとした。気にはしているらしい。 


 それはともかく、至高天が事実上の頂点であるジャポン大陸において、その至高天相手に正面切って啖呵たんかを吐くなど、正気の沙汰ではない。

 至高天とは、文字通りの至高。

 有象無象は切って捨てるだけの力量を持つ一騎当千。

 至高天ただ一人の存在が、一国の価値を持つ。大陸にどれだけ領地を持つ大名がいて、軍備を整えようとも、大陸の勢力図は結局十二に分けられる。

 何千、何万の軍勢も至高天の前では無力だから。至高天は、至高天でしか拮抗できないが故に。

 

 そんな至高天に性差は存在しない。ただ、純然たる強さのみがそこにある。

 故に、この風間センタロウなる男は馬鹿の極致だ。

 そんな至高天に啖呵を切れば、絶命は必至。綺麗に命を絶たれるだけなら僥倖で、最悪都合のいい実験体として、死よりも残酷な生を与えられるだろう。


 だが、一瞬だけ。メルカは、こう思ったのだ。


――この世に二人といない、勇気ある益荒男ますらおだ。


 城に単身乗り込み、この天守閣まで乗り込んできた。

 それは至高天であれば容易いが、それ以外では至難の業だろう。

 この城だけでも、千を越える兵が構えている。

 それを突破しただけでも褒めてやりたいところだが、それくらいならば、大陸を探せばある程度は見つかるだろう。

 自らを最強だと勘違いした【イの中のカワズ】は、珍しくは無い。


 だが、この男は違う。190cmを越えるだろう長身に、それに見合う丁寧に鍛え上げた体躯は、大樹のごとき安定感がある。

 立ち姿だけでも風格があるが、何より断固たる決意の元、ただするという意志だけで、ここに居るという心意気がすばらしい。そこによこしまな気持ちは無く、曇りも無い。


 それがわかるからこそ、メルカは久方ぶりに自分の中の女を自覚して胸を高鳴らせ、すぐさまそれを否定してみせる。

 

 心意気は見事、だがそれに力が伴わなければ話にならぬ。それは、至高天うんぬんではなく、人としての矜持である。

 心の無い力は、唾棄すべき暴力。

 だが力の無い信念は、妄執と変わりない。

 少なくともメルカはそう思っている。

 というか、この男、顔がマジで怖い。目つきが鋭すぎる。 


「天装、形成――」


 メルカは手の内に紅い柄の薙刀を出現させた。

 得物をとるのは何時振りか。

 あの一瞬の高鳴りが嘘でなければといいと、思考の片隅にメルカは思う。

 でなければ、何時まで経っても自分は飽いてばかりだから――。


 メルカは自身の長く赤い髪に手をかけるとそれを梳いて払った。


「さあ、きなさい下郎。先手は譲ってあげる。大言壮語を吐くだけの実力があるのか見せて御覧なさい」


「……いくそ、サイファー(・・・・・)


 この天守閣には、メルカと男の二人だけ。にもかかわらず、男は別の人間の名前を口にした。

 そして拳を作った右腕を自らの斜め上に掲げるようにして構えを取った。

 その腕につけられていたのは、宝玉のついた白銀の腕輪。


「――変神へんしん!!」


 そう、男は宣誓して、掲げた腕を、作った拳を胸に当てた。

 するとどうだ、宝玉から白い光の粒が溢れだし、男を覆い隠したではないか。

 そこからの変化は一瞬だ。

 だが、メルカは見切った。

 光の粒が男の身体に合わせて白い装甲になるのを。


「白い鬼……」


 光が収まり現れたのは白い鬼だ。

 そう形容せずにはいられない姿に、風間センタロウは変化したのだ。

 全身を覆う白亜の装甲。

 肥大化し、噴射口のついた脚部。

 そして鬼と見紛う二本角の生えた頭部。

 なるほど、至高天に挑むのなら、そんな常識外れが出てきてもおかしくは無いなとメルカは思った。


「違う」


 男が否定の言葉を口にした。

 何に対する否定だ?

 男は、頭の二本の角を指し、 


「これは耳だ。兎さんの耳。鬼じゃない」


 男は大真面目に言った。見当違いもはなはだしい。怒るポイントはそこなのか。


――やっぱり大馬鹿者じゃないか!

 

 瞬間、白い鬼の掻き消えかと思うと次の瞬間には、鬼の剛脚がメルカの薙刀を破壊するに留まらず、メルカの身体を直撃した。


「言うだけはあるわね、白い鬼!」


「鬼じゃない、兎! 白  兎(ホワイトラビット)だ!」


 メルカは身体を貫いた衝撃に血を吐きながらも心を震わせた。





***




 これより先は超越者たちの宴。

 前人未到の覇業の一幕だ。

 この覇業、物語をつづるのならば、そろそろ語らねばなるまい。知らねばなるまい。

 天に挑む愚か者のことを。

 風間閃太郎――閃きの鬼神と称されることになる異邦人のことを。 



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ