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一人一人の運命

 「俺の名はカイン。俗に言う死神ってヤツだ。明日野日出志さん、アンタを迎えに来たぜ。」

ここまで言うと、男の体から力が抜ける。男の顔はカインを向いているがカインとは違う場所を見ているようにぼんやりと中空を見つめている。空中に佇む二人。明日野の霊体はその場にへたり込んでしまった。

・・・すると・・・。

「・・・ゃだ・・・ぃやだ!いやだ嫌だ!死にたくない!何で!?何で俺が死ぬんだ?なんで死ななきゃいけないんだ!?俺は死ぬわけにはいかないんだ!!俺が死んだら誰が・・・。」

そういって男は急に何かに気づいたように下のバイクを見る。が下に動いた頭はそのままバイクを通り過ぎライトバン方向へ、そしてそのままあの運転手へと移動する。

『霊体には考える脳がない。そのため思ったことが直接行動となる。明日野の霊体は自分の体を見ようとしたがそまま視界に入ったライトバンを見て再び怨念が生まれ、そのまま運転手に目が行った。という所だろう。となると次の行動は・・・あ!』

カインがそんな事を考えている間に予想通り、明日野の霊体は体の中心から前以上に赤黒い色を滲み出しながら憤怒の形相のまますごい勢いで下へと降りていった。

「あ!バカ!!」

カインが慌てて手を伸ばす。が、素早く降りていく明日野の霊体からつられて下がる{魂の緒}にその手は届かず、カインの手は空しく空気しか掴めなかった。

「悪いのは、俺を殺したあいつじゃないのか!あいつなのに!!あいつ・・・あいつ!!!」

霊体が物理的な世界への干渉はできないが、怨念のようにそこに留まり、またその人物に固執しようとすると、その負の感情によって生まれたものは引き合うように集まり次第に大きくなってはその人物には[呪い]として、場所には[心霊現象]として二次災害的に影響を与えてしまう。なにより死神の仕事として、その人物の魂を怨念などに劣化させてしまうと仕事を終了した際に、報告から査定された報酬が極端に下がってしまう。カインの心配は概ね後者だがめんどうなのも嫌なので急いで追う。自分の体の上(体に影響のない位置)に魔力の爆発を起して一気に降下する。カインは主に火を起す力と念動力に長けており念動力で大気中の空気を圧縮させてソコに火種を起し爆発させてその力を加速に使うことが多い。爆発そのものは微弱でも、その瞬間の爆発を魔力で増幅させて移動する。という芸達者な部分も持っている。凄い速さで明日野に追いつこうとするが、『そもそもそんなに離れていたわけでもない位置から怒り(?)で我を忘れて突進するリード(魂の緒)付きではある猪(明日野の霊体)を壁(恨まれている運転手)にぶつかる前に止めろというのは酷な話だよな。』追いかけながらフとそんな例え話が浮かんだカインだった。が、『どういう経緯であれ怨念になってしまった魂は人間に憑りついてしまう前に強引に引き離すしかないな。』そう結論付けてカインは降りながら腰のベルトの後ろにしまっている得物に左手を伸ばす。めくる指が得物にかかった時にはカインは明日野に追いついた。しかし明日野は運転手に襲い掛かってはいなかった・・・。

明日野は真下に降りていた。運転手に向かっていた訳ではなかったようで足元には自分の体の形がまだ残る元の自分の位置に立っていた。その霊体には不思議と、さっきまでの赤黒い怨念の色はなく今までの半透明な体で、それでもやはり運転手を見ていた。カインは明日野の背後に立ち、もう逃げられないように一応右手で明日野の頭の{魂の緒}に手を伸ばす。明日野はそのまま運転手を見つめている。


「すいませんごめんなさいごめんなさいすいませんごめんなさいすいませんごめんなさいごめんなさいごめんなさいすいませんごめんなさいごめんなさいすいませんごめんなさいすいませんごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。」

運転手はもう言葉にならない声で何度も何度も、明日野の体のあった場所に手を合わせて謝っていた。その顔は、汗だか涙だか鼻水だかよだれだか解らないほどビチョビチョで、ただひたすら明日野に謝り続けていた。今も目の前にその男(の霊体)がいるのも知らずに・・・。明日野の見つめる運転手の両手には銀色に輝く重そうな手錠が光っていた。運転手の周りには少し他の野次馬達とは違う感じの男たちが取り囲むようにいるのに気づいた。刑事達だった。


 カインと明日野のやり取りの最中の事、地上では救急車が来た時、次いで警察が来ていた。ライトバンの運転手は真摯に状況を受け止め、轢いてしまった明日野の事でいろいろと聞かれていたが、明日野を病院に運ぶ段になって、ついていこうとしたが、即死と判断され、緊急逮捕となったのである。ライトバンの後ろには様々な野菜や雑貨がほどよい間隔で積まれていた。市場からの帰り、信号機手前で自分の進行方向が赤ではあったが、横方向が赤に変わりそうでそのまま行こうとアクセルを調節しながらも進んでいき、停止線にかかった辺りから青になった事を確認して加速をした途端に右から何かがぶつかってきて・・・。というのが運転手の視点だった。

運転手に不備はない・・・。だが起こってしまった事態は遥かに深刻だった。

運転手にとってはいつもの帰り道、普通に帰っていたその道で、その日、形として人を殺してしまったのだから・・・。その証拠が、運転手の両腕に鈍く輝く銀色の手錠なのだ・・・。


― 一人一人が持つ「運命」だが、その一つが動くということは、たくさんの「運命」も動いている。ということなのだ―

 カインは、明日野の霊体にひたすら謝り続ける運転手と、その運転手をただ何も言わず見つめている明日野の二人を見て再び「運命」というものを考える・・・。

だが、それも「運命」なのである。


本当なら一気に最終回といきたかったんですが

少し補完しときたかった事を書いたら、

いい長さになったのでついw

次回で終わります。

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