明日野 日出志 運命の日
今、九時四十分弱。このままなら間に合いそうだ。病院の面会時間は九時前からでも良いそうだが、なんとなく十時を越えないと、なんか会い辛いんだよな・・・。二週間前に買ったプレゼント。あいつ・・・喜んでくれるかな・・・?その為に、この十日間、電話もせず耐えてきたんだ。昔からなにかしら決意めいた事をする際、それをするために好きなもの、好きな事を我慢する。子供時代に培ってきた事だけに習慣付いた事だ。だが、企画も踏まえ任された仕事を終わらせるだけに十日もかかった。でもそれが好都合だったな。焦ってニアミスもしたがチョロっと修正してなんとかなったし、部長や木下達との飲みも断ってまで内緒にした事、部長には言うべきかもしれないが事情が事情だったからな。自分で課した事だけに忙しすぎた。でも、きっと祝ってくれるだろう。この日のためだけに頑張ってきたんだから。あいつの誕生日・・・。用意した二つのプレゼント。もうすぐ、もうすぐだ!ん?赤か。いや、大丈夫だろう。すまない急ぐんだ!あ・・・!
・・・ドッ!ガシャァァ――ン!!ザリザリザリザリ
・・・ズキンッ!
痛みで我に返る。何が起こったのか、朦朧としている意識、体全体が痛い、横になっているのか横たわる半身に冷たい感覚。雑踏と騒音、喧騒と排気ガスが俺を包んでいる・・・。痛みの中、何かに怯えるように閉じている目を開ける。先に見えたのは・・・真っ直ぐ見つめ返すひび割れたヘッドランプ。その奥に曲がった電柱・・・。うぐ!ダメだ、何も考えられない。半身に感じていた液体の感覚もない。頭が中心からガンガンする。
痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・・。
誰か助けてくれ。助けて助けて助けて助けて・・・真・・・由子・・・。
今・・・一つの魂が「不慮の事故」という形の運命によって終わりを告げようとしている・・・。
それを見る中空に止まるカイン。「この男に何があったのだろう?」カインの心の中にはこの疑問がひしめいていた。カインの開く手帳には事故の予定、この交差点の場所が記されていた。
男は予定通り、の時間、場所で予定通りの運命を迎えた・・・。だが、なぜ、カインが担当となってからだが、今まで通った事もなかった場所だったこの交差点にこの男は来たのか。手帳には死の運命以外記されてなく、その理由を知る術はなかった。今になってカインはこの男に身勝手な興味を持ちはじめた、が、もう後の祭りである。深いため息の後、カインはゆっくりと降りてゆく、雑踏と喧騒、野次馬の人だかりの中心にある血の池に浮かぶ離島のように横たわる明日野に向かって・・・。




