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―運命― というもの

 カインが明日野 日出志の担当になって・・・一週間が経とうとしている・・・。

そう、明日野の死亡予定期限がこの日、カインはこの日までほぼ付きっ切りで明日野を監視してきた。

一週間前、カインは明日野を始めてみた印象を[単なる典型的な仕事人間]と思った、第一印象は上司に

平謝りを繰り返すあんまり仕事ができない人間なのか、と思っていたが、その後の彼の勤務態度、

部下への指示等を見ていると、ちょっとしたミスでの叱咤を受けていただけのようだった。仕事が終わって、部下や上司に誘われる事も多いようだが、彼はそれらを丁寧に断るだけだった。「奢りますよ」との声でさえ彼を動かす事はなかった。カインならホイホイついていった所だ。

こんなに誘われるのに、全くついて行かないということは、彼個人的なところでよほど楽しい事を

しているのか?ともカインは思ったのだが帰ってからの彼は・・・。


「ふわあぁ・・・。」

カインが目を覚ます。そこは都会的な町並みの中のマンションの屋上。時間は八時、を少し過ぎていた。

予定者である明日野のマンションである。彼はあの日から今日まで、ただの一度も寄り道、道草を食うこともなく自宅から職場までの往復だけだった。それも見事なまでに。帰ってからの彼も、夕飯、くつろいでは十一時には寝て、六時に起きて朝食、支度して九時には職場に間に合うように出発。そして仕事。である。帰ってからの彼を見ていたカインが、今日までに解った事があるとすれば彼はバラエティ番組よりドキュメンタリー番組が好きな事と、野菜の摂取は野菜ジュースで済ませるタイプだ。という事くらいなほど、なんにもなかった。ただ時折、ベランダから遠くを見る事があった。たいてい夜なので、夜空を見るのが趣味なのか?とも思えたが、空を見ているわけではなく、かと言ってどこぞの窓でも覗いてるのか?というわけでもなかった。ともかく、たった一週間、ではあったが、それでも一週間だった。七日間は短いようで結構な期間である。人として、何かちょっとした他人には言えないような秘密を持っていても不思議はない、ハズなのに、この七日間はカインにとって安全に離陸して、安全に着陸するような、むしろエスカレーターで、右足から乗って左足で降りるような、最後のたとえはどうかと思うが、要するになんの変哲もなかった。『こういう人間もいるんだな。』この一週間を振り返り、ふとそう。思うカイン

「大変だったな、三十年間・・・。今度生まれ変わるとしたらよ。楽しくやれよな・・・。」

そう呟きながら階下の明日野の部屋、の明日野の霊気に目を向ける。見る訳でもなく向ける。

すると地上が目に入ったカイン。少しの間の後、なにかの違和感に気づくや腕時計を見る。

『八時半?あれ?なんか変だな?』

いつもなら、明日野は既に自宅を出ている時間だった。八時十分前後に出て、八時半に駅、二十分で降りてすぐ側の仕事場へ。というのが日常だった。が、「休みなのかな」と、すぐ勘付くカイン。そういえば、という事もないが、カインが見てきたこのマンションの周囲の感じからして、いつもより人の出も少ない。

『そうか、今日は休みか。・・・でも待てよ?明日野は今日が予定日だったハズ。そういやどうやって死ぬんだっけ?』

おおよそ人の言葉ではない不謹慎な言葉を考えながらカインは手帳を探り出す。ページをめくり文字の書いてある最後のページ。最後の行。その文字はただの黒い文字ではあったが、ほかの文字よりも、明らかに暗さのようなものが違っていた。明日野 日出志の行である。

『明日野 日出志。確かに今日だな・・・あと一時間ちょっとか・・・。事故?でも今日休みみたいだけど・・・どっか行くのか?場所は・・・ここはドコだ?この男に一週間ついて回っていたが知らない場所だ』

カインは住所の書いてある文字をなぞりながら、その文字から伝わってくる魔力で現された場所のイメージを思い浮かべながら不思議に思った。だが、男は必ずその場所を通る。それがその男の最期の運命だからだ。


―運命―。カインはこの言葉を思うとき、予定者のことを考えるとき、自分と重ねながら掴み所のない、もどかしくも切ない不思議な気持ちになる。カインには死神を始める前の記憶がない。生命の宝石「マリア」に会う前の記憶。自分はどんな悪魔だったのか?なぜ自分は今こういう形をしているのか?そんなことを考えるときが、このカインという男にもある。そんな時よぎるのがこの「運命」という言葉だった。決まっている事、決められた事。それは誰にだろう?どういう理由で?今の自分も決められた事なのか?そんな暗闇の中を手探りで何かを探すような事を考えていると、決まって「マリア」が慰めてくれるように輝く。その暖かく輝くマリアに気づき、『沈むのはよくないな』と元気を取り戻す。


―「それ」が「そう」ある時、「そう」なるべきなのだ。―


死神を始めるとき、主任のヘカーテより聞いた言葉だ。自分が人にどういう干渉をしようとも、その人間の運命に差し障れる事などありえはしない。だが運命を知る死神はその人間の運命を知っている。以前カインのしてしまった事はそのあり得ないことをしてしまったという事だった。

それは自分のように、自分ではない誰かに、自分をいいように変えられたと思い込んでいたカインが決められた運命を変えてやろうとした一種の反抗の現われであったのかもしれない。この時は最終的にその人間の寿命は延びたがカインは百年の幽閉。別の人間の魂が百人分、大型の天災という形で奪われる事となったという。カインはその時、自分が幽閉された事より、その時の運命の代償を痛感したという。マリアはこの主任の言葉も思い出させてくれる。

今も輝くマリアに沈んでいたカインも苦笑しながら撫ぜて言う。

「いつもいつもすまないな。こういうの考えるたびに甘えちゃってるな、俺、ははは。」

と、マリアを撫でていた手の腕時計に目が止まり、

「!!やばい!もう九時半過ぎてるぞ!!」

ドッキリにひっかかったような声で叫びや、ここでようやくマリアはその輝きを止めた。どうやらマリアはカインに時間を知らせたいだけだったのかもしれない。しかも、焦っているカインにダブルパンチ!予定者の明日野の霊気が周囲から消えていた。テンパっていたカインだったが、一先ず明日野の霊気を追うことにした。マンションから仕事場とは逆方向に進んでいる予定者。

妙に早く、何かに乗っているようだ。追いついたほうが良いと判断してカインも明日野の後を追う。

運命は刻一刻と近づいている・・・。

作者は生粋の運命論者です。が、基本的に自論の信者なようなもので「運命は誰でもすでに決められている。だが、それを確かめられるのは自分自身だけである。今、現時点で思い悩むのも、その後の決断も運命に他ならない。だったらできるだけ後悔しない運命にしたい!」ってのが自論です。「運命に基づいた死」としたものが主体の物語ですが、こんな考えした人間の書いてる事なんで気楽に読んでください。

なお、登場人物、団体名、その他の事柄は全てフィクションです。

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