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予定者とカイン

 目の前には壁・・・よりもガラスの割合が多いビル・・・高さは六階建て。カインはその三階の位置にいる。

手帳を片手に中空で神妙な顔立ちのまま佇むカイン。

「いたな・・・。」

カインの目の先、照り返すガラスの奥、机の群れの中で蠢くように働く人々・・・コピーをとっっている人。

PCとにらみ合いながらキーボードを叩く人。少しスペースのあるあたりにある机の人に怒られているのであろう頭をペコペコ下げている人。

『典型的なサラリーマンか・・・なんかつまんねぇな・・・。』

カインはその風景を見ながら思った。カインは自分が特別な存在な上に特別な立場でいる事を自覚している嫌いがある。

実際、元々は単なる悪魔であったのに、経緯は不明だが[マリア]という体を復元してくれる宝石を手に入れてからは、

その宝石に幾度となく危機を救われ、また、人間に興味を持ち始めたキッカケも[マリア]を手に入れてから

[マリア]とおなじ力を宿す人間というものを知りたい、という気持ちからで、そんな気持ちは精神世界で

固定概念のまま創られた悪魔、天使や神々さえも持ち得ない物でそれを持っている自分はすごい!

と有頂天になるのも当然だった。上司(冥王ハーデス)に胸を借りる(ケンカを売る)などの無謀も

[マリア]有りきであって、ちょくちょく人間界で、無意味に具現化し人間界でのどうでもいい干渉も

自分にしかできない。と変な方向での自慢を持っているのもそのせいである。しかも人間への干渉は

プライベートに限った事ではない。死神として死の予定を決定された人間(予定者)を任された時、

その人間が、自分の気に入った人間だと、

『どうせこいつ死ぬんだ。だったらそれまで好きな事させてやろう!』

そう考えて具現化してはその人間を(死神であることを告げるかどうかは人間次第だが)手伝ったり、

助けたりして。死の予定の時間を延ばしたり、最悪、その人間の運命を変えてしまい、冥界を混乱させて

しまった事もある。(後者でよほど懲りたのか自粛はしている。そのしわ寄せがプライベートでの具現化。

という訳)カインの気に入る人間の基準は、「人間らしく」らしい。この「人間らしく」というのもかなりいい加減で、

[生まれて死ぬまでが短い人間はその中で、自分の生まれてきた目標を自分の中で作り、

その目標に向かって必死になって輝くように生きている人間]

ということだが、どんな漫画を見たんだ?とツッコまずにいられない基準だ。が、

これくらい極端に基準を作った上で、そうそういないそんな人間とめぐり合うのも死神の醍醐味だ。

と考えてるようで実際滅多に会えないので、ここ最近の死神の仕事中は特に支障はない。そして今回も、

どうやらこの人物はカインの基準には達していなかったようで、『つまんねぇな・・・』はこういう心境から来ている。

すると何かに気づいたように振り返るカイン。ついさっきまでゲームをしていた大型電気店が上の看板が

指先くらいの大きさでしか見えないほど他のビル群に埋もれてしまっていた。どうやらのんびりウトウトと

霊気を辿ってきたせいで町から離れた事に気づかなかったようだ。カインは仕事の仕方を計画たてることがある。

今回はせっかく電気店が近いんだから予定者に威嚇のための攻撃的な妖気を帯びさせ(死神特有の能力で、

周りの悪魔に死相の出ている予定者に死神個人の力の妖気を人間に含ませ、その妖気より弱い悪魔などを

よせつけないようにする。有効範囲は狭い)その間に遊ぶ。という予定を組みかけたがその距離を見るに、

『無理そうだ』と判断し落胆する。

『まあ・・・仕事だもんな。一週間の我慢、か・・・』

カインは今回はハズレだな。的なことを思いながら体全体で気持ちを表現するように

うな垂れながら目の前のガラスに埋もれるように入っていった。


プルルルルルル!プルルルルルル!

「おーい!企画書どうなってんだ!もう来てていいハズだろ!」

「木下ぁ!木下ぁ!経理行って報告書だしてくれえ」


「へえぇ、結構盛り上がってるじゃないか」

カインは思わず呟いた。外から見ていた雰囲気も、仕切りだらけの机の渓谷を縫うように走ってたり、

大きな荷物を抱えながら、はしゃいでるのかニヤけながら転んでたり、怒られてたり、と、

見た目にも忙しない職場だな。とは思ってたが、中に入り、騒がしさを体験して、こういう現場は

たいがい陰気で静かなもんだというカインの固定観念は崩れ去った。

「でも、まあ・・・スーツマンってのは・・・あんま期待できないな。」

何を期待してるのかは知るところではないが、頭を一掻きして再び手帳の文字に指を這わせて

予定者の霊気を探り人物を特定する。窓際直前、目の前におそらくこの部署で一番偉いのだろう、

今もまだその目の前でヘコヘコ平謝りを繰り返す男に叱咤するふくよか過ぎる男性。

「こいつ・・・じゃないな。」

目の前であんまりうるさかったので、この男か?と期待に近い気持ちで確認したが違った、が、

予定者はその直後に見つかった。

「こいつか・・・。」

カインは叱っている男越しに見える謝り男を見つめている。カインの手帳の文字にはその男の名が記されている・・・。

彼の名は明日野  日出志。死を決定付けられた運命の人間の名である・・・。

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