幕間~鬼の賑やかし
幕間が二つほど続きます。
こうやって賑やかに宴会を開くことも、最近までは殆ど無かったわけで。少し前までは、宴会などは幻想郷でも数少ない、妖怪と人間が対等になれる娯楽の一つとしてそれなりにわいわいと盛り上がっていたのだが。
まぁ、ブームなどという言葉もあるように、流行り廃りというものも存在はすることは確かではある。しかし、いかんせん娯楽の少ない隔絶地、幻想郷である。そう簡単に、昔から続いている(ある意味伝統的な)娯楽が途絶えるわけもない。かと言って、宴会自体が減少したのは紛れもない事実である。などとごたごた申し上げたが、特に深い理由があって宴会が無かったわけでもなく、ただこの間の春節異変によって妖怪、人間、共に宴会どころの騒ぎではなかったという至極単純明快な理由である。
それが、最近までの話である。あくまで最近の。ここ一ヶ月の話なら、それはまた別だ。一ヶ月ほど前から、三日ごとに宴会が開かれ、今まで騒がなかった分を騒いでいるのかと思うほどに各地で頻繁に宴が開催されている。
そして晴嵐も例に漏れず、三日ごとにさまざまな宴会に出席していた。晴嵐(とその家族安倍家)は、里では有名な妖怪退治屋である。そのためか、人間たちの宴会に呼ばれることも多い。割と連日酒浸りである。さらに、中堅レベル以下の妖怪たちに関してはそこまでの知名度はないが、超強力妖怪たちに地味に名の通っている晴嵐は、そこらあたりの連中に呼ばれることもしばしばあった。もちろん宴会であるので、それなりに楽しいものがある。偉い人が集まる宴会では女を侍らせたり、旧友たちが集まる宴会では本来の自分を出すことが出来たり、霊夢たちが集まる宴会では霊夢がいたりした。楽しいのは良いのだが、晴嵐には気になることもあった。
なんというか、不思議な力が働いて、皆が騒ぎたくなってくるのだ。ほとんどのひとは「宴会なのだから遊びたい気分になるのは自然だろう」などとのんきなことを言っているが、宴会が終わっても、皆がずっと遊びたい気分でウキウキなのである。不自然なこと極まりない。そのうえ、宴会の時には妖気をまとった霧がかかっていることが判明している。明らかにこれが原因の一つとして怪しい。言うまでもなく。つまり、何者かの意思によって晴嵐たちは宴会をさせられているのである。
と、なんのかんの考えてはみても、結局開かれる宴会の魔の手から逃れることは出来ず、ただまぁそれなりに楽しく酒と飯を摂取できるので本当は嫌でもない。今日も今日とて宴会に参加するのであった。
「といっても、今日の宴会はさすがにこたえるものがあるな」
最近の幻想郷酒ブームはビールである。やはりこれは神主的存在が影響した結果なのだろう。木のジョッキなら意外と簡単に作れるものなので、そこになみなみと継がれたビールを皆がごくごくとあおっている。晴嵐もこれまた例に漏れず飲んでいた。あまり進まない気分ながらも。
「あらら、楽しくないのかしら。残念ね。私は楽しんでいるのだけれど」
そう言って晴嵐の隣に座ったのは、晴嵐と同じくこの宴会に呼ばれた、とある大妖怪である。とある大妖怪などと形容するとたくさんいる大妖怪のうちの一人だとも取れるが、このひとに限ってはそんなものではない。幻想郷でも最強を謳われる妖怪の賢者、スキマ妖怪八雲紫そのひとである。
この八雲紫を筆頭に、大妖怪と呼ばれる幻想郷中の強者が集まっているのがこの宴会なのである。人間で呼ばれているのは、博麗の巫女博麗霊夢と、晴嵐だけである。霊夢はそういったことを気に留めない人物なのでさきほどから向こうのほうで暴れているようだ。しかし晴嵐は気にすることもある人である。それどころか、この宴会に集まっている妖怪たちは全員晴嵐より格上の存在ばかりなので余計に晴嵐の肩身は狭い。
「ほんとにどうしたの? 調子でも悪いの?」
紫が少し心配そうに晴嵐の顔を覗き込む。
「いえいえ、大丈夫です。大丈夫ですよ」
「そう? なら飲みましょう? あんまりすすんでいないようだけれど。ビールは苦手なのかしら」
「そういうわけでもないんですが。今日は八雲様みたいなひとがたくさんなので緊張しているといいますか」
ぐるりと見渡すだけでも、強い妖気の塊がうじゃうじゃとしている。押しつぶされそうな感覚に、うんざりとしていた。
「もっと肩の力を抜きなさい。楽しまないと損でしょう?」
「まぁそれはそうなんですけどねぇ……八雲様。肩をさわさわ触らないでください。くすぐったいです」
「骨があったから……」
「そりゃ人間ですから骨はありますよ」
「最近宴会が多いみたいだし、疲れてない? さぁ、飲みなさい」
「その流れはおかしいです」
「楽しんでもらわないと困るのよね。そうしないと……」
そこで言い淀んだゆかりは、何故か気まずそうに目をそらした。目線の先を見ると、頭に日本の立派な角を生やした少女が立っていた。
「私が困るんだよ」
角少女(角を生やした少女の略)は、そう言うと紫の隣へと座り込んだ。
「なんなんだい。昔に比べて、みんなあんまり酒を飲まなくなったみたいだねぇ」
「あなたたちが飲み過ぎなのよ。大体、少しの間っていうから見逃してあげてるのに、いつまでこんなこと続けるつもり?」
「地上がもっと地下みたいに毎日宴会すりゃあやめてもいいよ」
「一生やめるつもりはないってことね。ほどほどにしてもらわないと、地下に戻ってもらうわよ」
「あそこは毎日酒が飲めていいんだけど、いかんせんそれだけなんだよねぇ。やっぱりある程度刺激がないとね」
紫と親しげに話すこの角少女、どうやら昔は地下に住んでいたらしい。そして、地下の生活に飽きて地上へと出てきた、ということらしい。しかし、地下に住んでいる角の生えた妖怪といえば、晴嵐には思い当たる節が会った(というか角を見た時点で思い当たっていた)。
「なぜ鬼がこんなところに……」
「さっき言っただろう? 地下は刺激が少なくてね」
「いえ、出てきた理由はわかっているんですが、鬼は地下に封印されたという話では……」
「封印? どうやって鬼を封印するんだい。私たちは自分から地下へ降りていったのに」
「晴嵐が言っているのは人里に伝わっている伝説ね。昔、人間が鬼を封印したという話が本に残っていたはずよ」
紫が補足する。紫の言うとおりで、人里では『鬼は地下へと封じ込められた』というふうに思われている。それは誰かによって言い伝えられているわけではない。しかし、歴史を保存する一族で里一番の名家、稗田家(という名の図書館)に置いてある資料に記されている。晴嵐は友達がいなかったので、幼い頃からたびたび稗田家にお世話になっていたのである。友達がいなかったので。友達がいなかったので。
「そりゃおおかたどっかの人間が妄想で捏造したんだろう。ほんと人間って陰湿になったよねぇ」
「すいませんね」
「あ、いや、君のことじゃないんだけど」
「そうなんですか」
「うん。昔は一対一でのタイマン勝負で決着をつけてたのに、だんだんと数に頼るようになっちまって、本当人間は臆病になったもんだよ」
「ごめんなさい」
「あ、いや、君のことじゃないんだけどね」
「そうなんですか」
「剣とか、正々堂々たる近接武器で真っ向から力と技と速さで戦うのが好きだったのに、弓矢だの鉄砲だの使い始めてさぁ」
「マジすいません」
「いやいや、決して君のことじゃないよ。君とは初対面なのにそんなひどいこと言うわけ無いじゃないか。ははは」
「そうですか」
「そういや、君が紫のお気に入りかい。割と普通の人間に見えるけどなぁ」
そういうと角少女は、晴嵐の顔と体をじろじろと舐め回すように見た。どうやら、紫にいつの間にやらどこかで紹介されていたらしい。
「普通の人間ですよ。安倍晴嵐と申します」
「ああ、一時期巫女の代わりをしてたってやつか。君、結構有名だよ」
「やっぱりそうなんですか」
霊夢が幼少の頃、晴嵐が妖怪退治をしていたことがある。晴嵐は、幼い霊夢の代役として頑張っていたつもりだったが、あとで聞けばそれは余計なお節介だったらしい。だが、博麗に優しいその態度は紫に気に入られることとなった。
「私は鬼の四天王の一人、伊吹萃香だよ。よろしくね。まぁ今はただの酔っ払いだけどね」
にかっ、と満面の笑みで握手を求める萃香。それに対して、真顔で握り返す晴嵐。
「よろしくお願いします、伊吹様」
「お前は天狗か!」
「いえ、人間ですが」
「いや、そうじゃなくて、天狗とか山の妖怪たちは私を様づけで呼ぶもんだから。もっと気軽に萃香ちゃんとでも呼んでくれりゃあいいのに」
「遥か格上の相手をちゃんづけで呼んだら違和感なんて代物じゃなくなりますよ」
「まぁ呼び方なんてどうでもいいか。呼び方なんて気持ちによっちゃいくらでも形骸化するし」
「いくらでも形骸化って変な感じですね」
「うるさい」
細かいことを指摘され、ふくれっ面で酒を飲む萃香。先程からずっと、手に持った瓢箪の酒を飲んでいるようだが、なくなる気配がない。もしや、噂に聞く鬼の道具とやらなのか。というかどうやればふくれっ面のままで酒を飲めるのだろうか。
「ふん、まあいいさ。とにかく私はこうやってみんなでわいわいやりたいだけだよ。みんなでね」
そう言った萃香の顔を見ると、何かを企んでいるように見えた。なにか悪いことでも起こすのではないかと思った晴嵐は、紫を見る。すると、紫は首を振って困った顔をしてみせた。何を示唆しているのかよくはわからないが、とりあえず萃香に関しては大丈夫そうだった。
「それじゃ、向こうのやつにも宴会の良さを伝えてくるとするよ~」
向こうのやつとは誰のことかと思ったが、萃香が向かっていく方向にいるのは花を操る妖怪だった。静かに一人で飲み食いしているようなので、賑やかしにでも行くのだろう。萃香が去ると、紫が少し声を細めて言った。
「萃香はなんだかんだいって大妖怪、暴れだしたらなんだかんだでまずいかもしれないわ。なんだかんだいって。だからほんとに危険そうだったら私が出るから。なんだかんだいいつつ」
「八雲様が? 直々に?」
「ええ。だからそんなに不安そうな顔しなくてもいいのよ」
「そんなに不安そうな顔してました?」
「いいえ? してなかったわよ」
紫はこの幻想郷でも最強クラスの妖怪である。その紫がわざわざそう言うということは、萃香は紫にも認められるほどの強大な妖怪であることがわかる。晴嵐が不安そうな顔をするのも無理はない(してないけど)。
萃香はその後も、騒ぎっぷりが足りない妖怪のところへ行っては話をし、宴会に参加するよう誘っていた。その理由を晴嵐は、鬼の宴会好きによるものだと考えていたが、実はとある目的があったことが明かされる。具体的には次のエピソードぐらいで。
萃香の宴会です。
黄昏はプレイしてないというのもあり、どうしようか悩んでいたのですが、幕間にて適当に流すことにしました。萃香と関係を持たせたかったのが最大の理由です。萃香は強いキャラにしては晴嵐を気にしてません。あんまり深く絡むイメージが出来なかった。あと紫と晴嵐が結構仲いいことをどっかで見せておきたかった。今回と次回にて仲良しです。
というか、短編は割と組み上げていく形で作っていたのに、長編を書こうとするとできないんですよね。組むように作っていくと、細かいとこまで突き詰めないと気がすまないので、伏線とかも張りきっておかないと完成した感がなくて完全に書き上げるまで上げたくなくなります(つまりできない)。その点イメージで書くと文章を書いてる感じがして楽しいですね。でもイメージだけだと説明不足になるので最終的には構成を考えてみるんです。でも構成を考えると、ここにこういうの入れたいなとかいろいろ考えてしまうので、考え始めるとイメージでまとめちゃいます。要は適当に作ってます。