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東の方の眠らない日常  作者: 火河雪斗
第一章 我々が恋した幻想郷
15/15

男と東風谷と神々しき神々

自分の遅筆っぷりが面白くなってきました。

 つるべを落とすように日が落ちるようになったころ。幻想郷の山の様子は少しだけ違っていた。

 その日の妖怪の山は異常だった。端から見ていた魔法使いは「山じゅうに天狗が飛び交ってた。地震でも起こるのかと思った」らしい。

 原因は山の上のほうにあった。


 妖怪の山に神社と湖がやってきたのだ。その神社にはよく分からない神様のおまけ付きである。このおまけが、山の妖怪たちにとっては意外に厄介だった。

 やってきた神様は、早々に山を牛耳ろうとした。妖怪の山というだけあって妖怪ばかり住む山である。突然やってきた新参者の神様に山を簡単に渡すはずがない。

 妖怪たちは、我が物顔で振る舞う神様に反発したが、神様はまさに我関せず。着々と信仰の根ざす範囲を広げていった。


 神様の目的は山の支配ではなかった。山の妖怪たちからの信仰を集めることだった。

 もちろんそれは間接的に支配することに繋がりかねないが、主目的ではなかった。

 その神様は外の世界で信仰を集められず、幻想郷へやってきた。外の世界の幻想がいよいよ失われてきている証拠なのかもしれない。


 山のざわめきは、博麗の巫女の耳に入る。噂としてではない。その神社の巫女が、直接喧嘩を売りに来たのである。売られたものは買うしかない(金銭が発生しない限り)。霊夢は、新参者にお灸をすえることにした。

 霊夢や、興味本位で首を突っ込んできた普通の魔法使いの活躍によって山は静かになった。しかし結果として、妖怪たちから信仰されるようになってしまった山の神様に対し、霊夢が複雑な感情を抱くことになるのは時間の問題だった(商売敵)。


「っていう異変だったわ」


 肩をぐるぐると回しながら、霊夢が呟く。なかなか気合を入れて説明したので疲れてしまったようだ。

 今日も幻想郷は晴れ。博麗神社は絶好の日光浴日和である。しかし、秋の日差しで日焼けをすると非常に痛い。程々が一番である。


「大変だったな。せんべいでも食べるか?」

「ええ。それはうちのせんべいだけどね」


 自分のせんべいなので遠慮せずもぐもぐ食べる。もっとも、他人のせんべいであっても遠慮せず食べるのが博麗霊夢という人物である。


 博麗神社には参拝客がいない。御利益とかそういう話以前に参拝客が来ることのできない立地だからだ。もちろん不可能というわけではないが、普段からその危険な道を通って信仰するほどではない。毎年正月には、一年間参拝しなかったお詫びに初詣へと来る人が後をたたない。最初から月一ぐらいで来ればよいのに。

 人が来ない。人は来ないが妖怪は来る。なので妖怪神社などと呼ばれている。


 そんな神社に日々通う晴嵐は、ほとんど妖怪だと思われている節がある。主に妖怪に。


「でも、さっきから聞いてるとそれ異変なのか」」

「幻想郷を脅かす異変では無かったかもしれないけど、妖怪の山を守ったのは事実よ」

「妖怪退治が仕事なのに妖怪を守ったのか」

「うぐ」


 自覚はあったようで、ばつが悪そうな顔をしている。


「そ、それで、その巫女もどきが無駄に張り切っちゃってね。もしかして人里にも迷惑かけてない?」

「もしかしなくてもかけてる。あの緑の子だろ? 最近人里で騒いでるよ。守矢神社を信仰しませんかってさ。この間は街頭演説しはじめたから僕が出張って帰らせたよ」


 里の公共の場所で演説をするには、政を司っている人たちや自警団の許可がいる。それなしで勝手なことをすれば外の世界と同様注意を受ける(もちろん度が過ぎれば捕まる)。


「面倒な奴が来たわねえ。ま、正直どうでもいいわ」

「おいおい。信仰を取られたらどうするんだ」

「うちの神社はもともと大して信仰されてないわよ。昔からの人ばかりだし、今更浮気するような人はいないわよ」

「そんなこと言ってると足下すくわれるぞ」

「もう救われてるわよ」


 霊夢は吐き捨てるように呟いた。今はそういう気分じゃないらしい。


 山の新参者の話をすると霊夢の機嫌が悪くなることが判明したので、その後は他愛ない世間話をして帰ることにした。いたずらに霊夢をいじめる趣味はない。晴嵐は親ばかだった。






 博麗神社で昼食をとったあと、晴嵐は人里に戻ってきていた。今日は休みなので、あとは家に帰って寝ようかと考えていた。

 しかし、噂をすればなんとやら、だ。偶然、蕎麦屋で蕎麦をすすっている緑髪の巫女と目が合ってしまった。ただ、窓越しに目が合っただけなので、会釈だけしてその場を立ち去ることにした。飯の邪魔をしても悪いだろう。


「晴嵐さーん! おーい! こっちですよー! あれ? おーいおーい」


 その大声に、道行く人々の注目が集まる。緑の巫女は思ったよりうるさかった。


 最初は無視しようかとも考えたが、大声で名前を呼ばれてしまっているので聞こえなかったことにも出来ない。晴嵐は仕方なく、巫女がぶんぶんと手を振る蕎麦屋に入った。


 蕎麦屋に入り、緑の巫女、東風谷早苗の向かいの席に座る。天ぷら蕎麦を食べていたようだ。高い物を食べているあたり、金には困っていないのだろうか。


「いやー。晴嵐さんと会えて良かったですー。今日は晴嵐さんに会いに来たんですよ。でも、午前中に会えなかったので今日はいったん帰ろうか悩んでたところなんです」

「僕に会いに来た? そりゃまたなんで」


 晴嵐に会いに来る人は珍しくない。それは晴嵐が人気というわけではなく、職業柄である(妖怪退治屋と里の自警団)。

 自警団は警察のような存在なので、唯一の常勤である晴嵐にはちょくちょく面倒ごとが舞い込む(他のメンバーは非常時のみ参加の非常勤団員)。

 もっとも、それで儲けているのだから晴嵐としては仕事をしているだけである。


「俺に会いに来たってことは妖怪退治かなにかか? でもそれなら君のとこの神様が直々にやった方がいいんじゃ」

「いえいえ。晴嵐さんのお仕事とは直接関係ないんですけどねー」


 えへへ、と笑って少し困った顔をする。こうやって見ると、大人しめの可愛らしい女の子にしか見えない(もちろん女の子には違いない)。この娘が、問題児だなどと誰が思うだろうか。


「じゃあなにを」


 早苗の、少しずれた価値観には慣れつつある。早苗が里で問題を起こすたびに対応しているのだから無理もない。


「うちの神社って山の上にありますから、人間の皆さんは参拝できないでしょう?」


 早苗が上を指さしながら言う。晴嵐はその指の方向を目で追い、じっと見つめるというボケを敢行した。早苗は気づかなかったようで、不思議な顔をするばかりだ。


「まぁそれは博麗神社も一緒だけどな」


 それっぽい話で誤魔化すことにした。


「で、それが?」

「だから、里のどこか外れたところにでも分社を建てたいと思いました」

「思いましたか」

「いかがですかね」


 いかがですかと言われても、晴嵐はまだ二十半ば。里の中でも若い方に入り、比較的年功序列の考え方で染まっている人里の中で特別発言力が強いというわけでは無い(人望もそれなり)。ましてや、建築関係の相談などお門違いにもほどがある。そう早苗に伝えると、驚いた顔をしていた。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」

「だって、私がこっちに来たときはいつも晴嵐さんがいらっしゃいますから、偉い人なのかと」

「それは君が里にとって迷惑だから自警団として討伐対象なのだよ。大体、偉い人は後ろでふんぞり返ってるもんだ。せかせか働いてるやつはたいてい下っ端だよ」

「それに、誰に聞いても晴嵐さんのことは知っておられますし」

「そりゃ里の警官だぞ。知らなかったら迷惑するのは里の人たちだ」


 どうやら早苗は、里で発言力の高そうな晴嵐に取り入り、分社を建てる手伝いをさせようとしていたようだ。なかなかの悪女である。

 晴嵐はそもそもそういうことに引っかかるタイプですらないのだが、まだ知り合ってから幾分もたっていない早苗にはわからなかった。


「なんだー。じゃあどういう人に頼んだ方がいいんですかね」

「普通に、長老とか大工の棟梁とか。発言力って意味なら自警団の団長とか、あとは慧音先生とか」

「うーん」


 早苗は誰とも知り合いでなかったようで、あごに手を当てて考え込む。それを、ぼーっと眺める晴嵐。

 晴嵐から見つめられていることに気づくと、わたわたと慌てて蕎麦をすすりはじめた。途中で、ズルズルとすするのが良くないとでも思ったのか、つるつるとすすりはじめた。晴嵐は何も気にしていなかったが。


「あの、長老さんってどんな人です?」


 蕎麦を半分ぐらい片付けると、早苗がなぜか気まずそうにそう聞く。

 どちらかと言えば、仲が良かろうが初対面だろうが大して反応を変えない早苗より、そんなに仲良くないと考えている晴嵐の方がよっぽど気まずいと感じているのだが。もちろんそんなことを早苗が知るはずもない。


「長老か……あの人は、まぁ普通の爺さんだよ。普通のリーダーシップのある爺さん」

「普通のお爺さんにリーダーシップがあるんでしょうか……」

「まぁいい人だよ。割と若者の気持ちを理解してくれるしな」

「おお。それはいいお爺さんですね」


 やはり若者としては、自分たちの意見も聞いてくれるリーダーというのに好感を得るものらしい。晴嵐はやはり若者側の立場として、そういう部分を評価していた。

 実はそこを狙って長老がそういう演技をしているのだが、晴嵐にはまだその老獪さを見抜けなかった。見抜く必要もない。


「では棟梁さんは」

「まぁ普通の凄腕の職人さんだよ」

「凄腕なら普通じゃないんじゃ」

「最終的には棟梁に頼めばいいけど、どこでも建てられるわけじゃないからな」


 早苗は、外の世界の常識と照らし合わせつつ考えた。幻想郷のルールは分かりづらいものも多いが、こうした普通のルールもある。普通のルールがあるからこそ、人は安心して生活することが可能なのだ。


「じゃあ団長さんは?」

「団長は逆に融通きかない人だな。規則と自分の経験以外のことだとあんまり柔軟に考えられない人だ。団長より副団長とかのが適職だと思う」

「上司なのに辛辣ですね」

「上司つったって里の協議会に入るために団長になったような人だぞ。まぁ本人は里の平和を守るためとか言ってるし、別にそれを信じないわけじゃないが。まず間違いなく家族と里の人間なら家族を取る人だな」

「晴嵐さんは?」

「僕は家族を取る」

「即答ですね」

「僕は……まぁ事情があって自警団に入っただけで、里の平和の為に働いてるわけじゃないしな」

「ふむう」


 ちょっと嘘をついた。

 早苗は、晴嵐の答えにいまいち納得がいかないのか、変な顔をしながら蕎麦を掻き込む。

 晴嵐は妖怪退治屋だからスカウトされただけで、特に思い入れがあって自警団に所属しているわけではない。しかし彼の家族は根っからの里の人なので、里を守ることは家族を守ることなのである。前言撤回。きっと嘘はついていない。


「じゃあ慧音先生は?」

「先生も割と頭固い人だなぁ。里の不利益にならなきゃいいんだけど、里のためにならないと判断したら是が非でも押しとどめてくるタイプ」

「うひゃー。一番面倒な人じゃないですか」

「そうか? 割と褒め殺しに弱いから、僕は普段褒めて殺してる」

「ちょ、まさか晴嵐さんが女の敵とは」

「誰が」


 実際褒められるのになれていないらしく、褒められるとたじたじになってしまうのだ。これは霊夢もそうである。頑張って耐えているようだが。


「いやー。でも、意外と晴嵐さん話せる人ですね。もっと取っつきづらい人かとばかり」


 普通ならとてつもなく失礼な言葉だが(普通じゃ無くても失礼)晴嵐なら大丈夫だと思ったのだろう。晴嵐はそれほど気にした様子も無かったが、少々口を尖らせて文句を言った。形式的なものである。


「だってなんかあんまり表情変わらないし、お固い人なのかと。笑った方が良いですよ。笑うとモテますよ」

「早苗ちゃんはよく笑うからきっとモテるんだろうね」

「えっ、あっ。いや、モテますよ。ははは。荷物なんか持ちまくりですよ」

「そういえば。君んとこの神様とは会ってみたいと思ってたんだ。簡単に会えるもんなの?」

「(無視された)用事がなかったらいつでもいいと思いますよ。なんだったら今日でも」


 予定と言っても幻想郷なので人に会う予定ぐらいしか存在しないが。


「じゃあ会ってみたいな。なんだかんだ言って、神様と話す機会なんてそうそうないし」

「うーん……わかりました。多分あってくださると思いますし……」

「よし決まり。そうなったら、早苗ちゃんが食べ終わったら行こうか」

「ふぁい」


 急いでもぐもぐと咀嚼を始める早苗。急いで食べるとあまりいいことはない。しかし、他人の食事スピードにいちいちケチをつけるほどではなかった。


「ヴァ!?」


 会計を済ませようとすると、早苗が奇声を上げた。


「どうした」

「お、お金足りない……です……」


 泣きそうな目で晴嵐を見上げる早苗。金持ちかと思っていたら、案外そうでもないようである。

 晴嵐は恩を押し付けるようにしておごってやった。


 二人連れ立って蕎麦屋を出る。太陽はそろそろ頂上を越しただろうか。

 空はいつの間にか、雨を降らしそうにない雲が増えてきていた。まさに絶好の登山日和である。






 山を登るのにそう時間はかからなかった。飛んでいればたいていそうなる。

 普段は侵入者がいると騒がしくなる山だったが、今日は早苗が一緒だからか見張りの一人も寄ってこない。寄ってきて欲しいわけではないので好都合である。


 守矢神社は山の頂上付近に位置している。人口は一人。他には神様が二人住んでいるだけのようだ。

 ここの祭神、八坂神奈子と洩矢諏訪子は、外の世界では割と有名な神様だったらしい。かくいう晴嵐も、名前だけは聞いたことがあった。

 以前稗田邸の書庫で古書を漁っていたとき(文字通りに漁っていたので、あとで猛烈に怒られた)見かけたことのある名前だった。詳しいことまでは知らなかったが。


「神奈子様、諏訪子様、ただいま帰りました」


 自宅に帰ったように気楽に挨拶する。それはもちろん、ここが早苗の自宅に他ならないからだが。


 一体どんな神社かと身構えていた晴嵐だったが、改めて見回してみると特別変わったようなところはなかった。神様の数で勝るせいか、広さは博麗神社よりも一回り二回り広かった。


 早苗はててて、と居住区らしき方へ晴嵐を案内した。内部はごく一般的な日本家屋で、廊下の左右には襖が並んでいた。早苗は、何番目かの襖を開けて、こちらへどうぞ。と言った。

 客間なのか居間なのかは判別がつかなかったが、そこに座っていて、いきなり入ってきたこの男は何者だ、という目で見ている女性が神様なのはすぐに判別がついた。


「神奈子様、こちら以前お話しした里の自警団の方で、安倍晴嵐さんです」


 どうやらこの神奈子様には既に名前は知られていたらしく、納得したような顔で軽く頷いた。


「安倍晴嵐です。新しく幻想入りした神様がどのような方なのか興味がありまして」

「ああ、博麗の巫女から聞いていたけど、本当にそれであちこち旅してるのね」


 晴嵐の放浪癖は、早苗どころか霊夢にまで噂されていたらしい。巫女に噂される程度の能力だろうか。


「私は八坂神奈子。ここで神様をしてるよ」


 随分とフランクな神様もいたものだ。とはいえ、考えてみれば晴嵐の知っている神様なんてほとんど軽い奴ばかりだった。


「私も里の人の話を少し聞きたいと思っていたところだ。是非話をしましょう」

「あ、私、お茶淹れてきますね」


 早苗はそういうと、ばたばたと奥へ引っ込んでいった。

 神奈子は、晴嵐の様子をじろじろと見ていた。見た目を見ているのか、何か普通では感じ取れない力でも探しているのか。晴嵐には分からなかったので、甘んじて見つめられるがままにしていた。そのうち座布団を進められたので、うやうやしく座った。


「妖怪退治やってるんだって」

「ええ。まぁ小遣い稼ぎ程度にですが」


 実際小遣い稼ぎのようなものである。生活していくだけの給金は、自警団からもらっている。

 しかし、事件がなければこの仕事は暇だし、かといって仕事中にあまり里から離れるのは良くない(ちょくちょく離れているのは内緒である)。

 そこで、本業と副業を一緒にするというぶっ飛んだことをしているのである。晴嵐が里を襲う妖怪を退治すれば、自警団としての業務も果たせるし、人から依頼金を貰うこともできる。もちろん仕事量は変わらずである。

 もっとも、最近は里の人たちも学習してしまい、あまり依頼が来ることはない。むしろ便利屋かなにかと勘違いして雑用を依頼するものまでいる始末なのだが(それを律儀にこなすので余計に勘違いが広まる)。


「妖怪退治には少し興味があるのよ」

「それはどういった趣向で」

「人を脅かす妖怪を退治できれば、それに信仰は集まるだろう」

「力を見せられれば畏怖の対象にはなりそうですね」


 博麗の巫女、普通の魔法使い、里の退治屋らが既にそれで信仰を受けられていないのだが。しかし確かに、人には信仰は集まりづらいのかもしれない。


「信仰を得るには圧倒的神格、カリスマだけでは足りない。言ってみれば、生産者と消費者のような利益が一致する関係でなくてはならない」

「なんだか、神様がやることっぽくはないですね」

「そうじゃない。昔から利害が一致していたから信仰されていたことには変わりない。ただ、昔は神の存在があって、人間の信仰があり、神の恵みがあった。今は神の恵みに大して人間が信仰するかたちになっている。随分ビジネスライクになったものよ」


 晴嵐にはビジネスライクという言葉の意味は分からなかったが、神奈子は悲しそうに言った(神奈子だけに)。豊かな生活に慣れると、そういった考えになるのだろうか。

 物があって、お金と引き替えにそれを手に入れるのか。それとも、お金を出すから物をもらえるのか。心構えの問題で、実際の人間が生活していく上で困ることはないが、信仰の話となれば大問題だった。


 この神様、なにか昔、人と一悶着あったらしい。難しい顔をしてうんうんと唸る。神様も唸るのだ。


「神様なんですから、もっと堂々としましょうよ」

「……すまない。なんだか変な話をしてしまったわね」


 暗い話が一段落ついたところで、ちょうど早苗がお茶を持ってきた。お茶請けはかりんとうである。

 早速ばくばくごくごくと遠慮なく頂く。神奈子はその様子を面白そうに眺めていた。


「ところで、諏訪子はどうした」


 神奈子が早苗に聞く。


「そういえばどうされたんでしょう。見かけませんでしたが」

「外でなにかしていたと思ったが」

「外は見ていませんでした。お呼びしてきますね」


 早苗が諏訪子という人を探しに行く。下っ端は大変である。


「早苗ちゃんはパシリかなにかで?」

「馬鹿言うんじゃないよ。早苗はうちの巫女さん。その上、うちの神様も兼任してるんだ」

「ええっ、人の癖に神様なんですか。おこがましい奴ですね」

「身内の前でよくそんなことが言えるね」


 早苗は現人神である。現人神とは、神に代わって奇跡を起こせるようになってしまった人のことである。つまり神様の力を使えるだけの人間なのである。


 外の世界では、既に神の奇跡は信用を失っているらしい。

 力はまだあるにもかかわらず、信用を失い、それに伴い力をも失い始めた。普通とは逆の廃れかたである。

 古いものが健在でも、人の心は新しいほうへと移り変わって行ってしまうらしい。


 しばらく神奈子と談笑していると、早苗が戻ってきたようだ。後ろには幼女を伴っている。


「君が晴嵐くん? よろしくね」

「よろしくお願いします」


 一瞬まさかとは思ったが、本当にこの幼女がもう一人の神様らしい。気さくなもんである。

 気さくな神様には、気さくに返すしかあるまい。晴嵐も、ごく普通に頭を下げた。

 

「諏訪子様は神奈子様と一緒にこの守谷神社を経営なさってます」


 早苗が自分のことのように自慢げに話す。


「神様が直接経営に携わる必要があるんですか」

「あるある。だってここに住んでるの、これで全員だよ。協力していかないと」

「まぁ霊夢なんかはなんだかんだ言って一人で切り盛りしてるし、そう考えると普通なんですかね」

「意外とキミ、親ばかというかなんというか」

「まぁそうなんです」


 機会があれば霊夢と比較してしまうのは身内の性である。


「さて、せっかく未来を担う若者とこうして向かい合っているのだから、幻想郷の未来についてでも語ろうじゃないか」

「未来なんてあるんですかね」

「あるある。生きとし生けるもの全てに未来はあるよ」


 諏訪子が無い胸を張って言い張る。見た目が幼女なのにそんなことを言われてもピンと来ない。


「未来があっても、今を生きていたいんですよ」

「今時の若者だね」

「現在進行形で今時ですから」


 若者が一番好むのは未来を語ることであり、若者が一番嫌うのは未来を語られることである。

 晴嵐は少々年寄り臭い説教を始めた二人を睨む。


「しかし、今のことばかりを考えていても駄目だよ」

「そうそう。計画的に行かないとね」

「僕は今を生きているので」


 イラッと来た晴嵐は立ち上がり「それでは、失礼します」と頭を下げた。ほとんど癇癪である。二柱は一瞬顔を見合わせたが、分かっている風に微笑みを湛えたままそれを眺めていた。


「あっ、えっ? ま、待ってください! おみやげとかお持ちします!」


 早苗がなにかを取りに奥へ入っていったが、晴嵐はそのまま出て行ってしまった。


「若いねえ」

「人間なんて若いもんだよ」

「そうだね。まぁ賢そうな子だったし、あとでまた謝りにでも来るかもね」

「まぁ少しずつ仲良くなれればいい。いずれにしても、計画上あの子との関係はあまり悪くするわけにもいかない。場合によっては早苗を謝りにいかせてもいいかもしれない」

「まあまあ。適当にやろうよ。幻想郷を征服しようってんじゃないんだからさ」


 神様が願っているのは、ただただ信仰の復活だった。

いろいろありまして、風神録のキャラクターたちとの話です。今までの話の中で、自分の理想より晴嵐が主人公しすぎていたので調整。世間体に弱かったり、神様相手にムキになって話を終わらせたりしてます。


早苗は晴嵐を勝手に主人公だと思っています。だから近づいてみたんですが。霊夢が主人公だとは思ってもみないでしょうね。

神奈子と諏訪子は、やっぱり信仰を狙っています。ちなみに、伏線で終わっているように見えますが、あれは二人の日常会話であって普段からそういうことを考えています。特別に何かを起こそうとは思っていません。役員会議で次の企画について提案するぐらいのノリです。

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