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東の方の眠らない日常  作者: 火河雪斗
第一章 我々が恋した幻想郷
12/15

幕間~花が咲き乱れるのは異変なのか

整数ナンバーで花映塚だけ持ってない

 幻想郷において、自然の存在は大きい。それは、人間が自然と調和して生きていくとか、人間が自然に敬意を払うとかいうような一方的な畏怖ではなく、実際に自然と人間が生存競争を繰り広げた場合、人間に勝ち目がないというごく現実的なものである。自然のままに生き、自然のままに死んでゆく、人間や妖怪その他生き物たち。所詮は自然の一部なのだろうと考えれば、ちっぽけな存在というのも自然である。


 では自然とは何か? 一般的にはどうだか知らないが、幻想郷で自然の化身と言えばやはり妖精がいる。妖精は殺しても死なないが、そもそも溢れ出る自然のパワーのほんの一部なので、袖を振れば死んでいく。しかし死んでも自然が残っていれば生き返る。物凄いパワーである。


 だがそんなこととは一切関係なく、自然と言えばやはり妖怪かもしれない。妖怪は人間の畏れから生まれると言われている。自然を畏れるあまり、自然の権化を生み出してしまうのだろう。妖怪も殺したぐらいでは死なない。やはりそれは自然の力を借りている妖怪が多いからなのかもしれない。


 だがしかし本当に自然とは妖精や妖怪のことなのだろうか。妖精や妖怪がいる世の中を想像してみても、正直不自然である。我々が、それらがいない世界に慣れてしまっているのかもしれないが。逆接に次ぐ逆接で意味がわからないが、つまりは人間風情が自然だのなんだの言ったところで大きく変わるものなどないのかもしれない。とりあえず今度からは自然に畏れを持って、不要な包装を断るところから始めてみようか。何の話だ。






 幻想郷の中でも、特に自然とかけ離れた場所がある。自然とかけ離れた場所といえば、ビルが建ち並んでいたり、人が多く住んでいたり、工場が建っていたりするところを想像しがちだ。しかし、それよりももっと不自然な場所がある。無縁塚と呼ばれる地域である。


 無縁塚は、一体なぜそんなことになってしまったのか詳しい過程は分からないが、一言で表すに歪んでいる。それは空間もそうだし、時間もなにかおかしい(本当はおかしいことはなにもないのだが、体感がおかしい)。傍から見ていれば普通だが、なにかどこかしら歪んでいるように感じる。そんな場所である。


 空間が歪んでいるせいで、無縁塚は幻想郷に在りながらも外の世界の物品が流れ着く。そんなものを狙って無縁塚に進入する人間がときどきいるが、外の世界の珍品だけではなく、よく分からない魔力や変な生き物もうようよとしているところである。その日のうちに、そこらへんに転がっているがしゃ髑髏の仲間入りをしたのは言うまでもない。人間のようなあまり強くない存在には少々おっかないところである。


 しかし人間にはおっかなくても、半妖にはおっかなくないようだ。魔法の森に佇む道具屋、香霖堂の店主森近霖之助は、定期的に無縁塚へと足を運んでいた。


「今日はあまり良いものが見つからないな。この鉛筆削り機というものくらいか」

「と言っても、幻想郷には鉛筆は普及してないですし、売れそうにないですね」

「茶々を入れないでくれ」


 香霖堂の売り物は、ただの道具ではない。というより、道具屋と謳ってはいるものの、道具専門店でもなんでもない。さまざまな珍品()が並べられた店内は、さながら骨董品店である。特に特別特徴的なのは、無縁塚へと流れ着いた外の世界の品物も売っているところである。なぜ無縁塚へと流れ着いた者が香霖堂へやってくるのかといえば、単純に店主が無縁塚に拾いに行くのである。なかなかたくましい精神だが、それは商売根性ではなく知的好奇心からだ。


「少し成果が物足りないが、そろそろ帰るとするか。これ以上は持ち帰れない」


 風呂敷に包んだ荷物ががちゃがちゃと音を立てる。苦労せずに持ち帰ることの出来るギリギリのラインを、霖之助は経験だけで見極めていた。そして、経験のない晴嵐は、思ったより少なくなってしまった荷物を肩にかつぐ。


 特に深い理由は無かった。その日は偶然何の予定も無かった。その前日に、偶然里へ足を運んだ霖之助と顔を合わせた。偶然と偶然が合致した結果、晴嵐は霖之助の無縁塚漁りを手伝うはめになった。別に初めてのことではない。昔から、ときどき手伝うことはあったのだ。


「いい天気が続いてよかったですね」

「ああ。だいたい、唐傘お化けの下駄占いだぞ。当たるも八卦当たらぬも八卦。信用なんてしてないさ」


 そもそも晴嵐から見れば、嘘の天気予報をして人を驚かせようとしている魂胆が見え見えだったので、こっそり退治しておいた。


「しかし随分と変わりましたね。無縁塚。こんなに花の咲き乱れる幻想的な場所でしたっけ」

「幻想郷的には、幻想的でない場所なんて存在しないんじゃあないか」


 春に花が咲き乱れるのはおかしいことではない。が、ここまで季節に関係のない花が咲いているとおかしい。と目の前の水仙を見ながら二人は思う。


「まぁこんなこともあるでしょう」

「こんなことがないとしても、異変ならば霊夢が片付けてくれるさ」

「ですね」


 二人とも、花が咲くぐらいでは大した異変ではないと考えていた。実際大した異変ではなかった。里の人やそこら辺にいる妖怪たちの与り知らぬところで、霊夢や魔理沙達によって異変は解決されていた。というか異変ではなかった。






 無縁仏と無縁塚にはなにか関係があるのだろうか。少し気にしながらも、調べようとするまでには気にならないのでそのまま飲み下した。晴嵐は博麗神社へとやってきていた。普段はだら~とお茶を飲んでいる霊夢も、今日この日は少し姿勢よくお茶を飲んでいた。


「いらっしゃい。晴嵐さん」

「こんにちは」


 挨拶をして、霊夢の隣に座る。普段は世間話で時間を潰すのだが、今日は静かである。霊夢も気を使って話しかけない。

 しばらくは何も言わず、何もせず、ただ座っていた。晴嵐の憂うような顔を横目に眺めつつ、霊夢は静かに音を立てて茶を啜っていた。


「ってズルズルうるさいよ」

「晴嵐さんが辛気臭い顔してるからよ。ほら、どうせ墓参りに来たんでしょ。さっさと行ってきなさい」

「はーい」


 縁側から立ち上がると、晴嵐は神社の脇にある(腋ではない)墓へと向かった。


 墓には既にいくつかのお供え物がされており、晴嵐は不覚にも目頭が熱くなった。持ってきていた花と、生前、先代巫女が好きだった(のか?)醤油せんべいを供えた。どうせ食べるのは霊夢だが。


 この墓の下には先代の博麗の巫女が眠っている。既に十年近く経っているので白骨化はしているだろうが。今日は先代博麗の命日である。晴嵐にとっては大事な人だ。先代がこうやって未だにお供えをしてもらえる存在であることに、晴嵐は安堵していた。墓石を見つめ、先代との思い出に耽っていると、晴嵐の肩を叩くひとがいた。


「貴方も来ていたのね」


 四季のフラワーマスター、風見幽香であった。


「幽香さん、お久しぶりです」

「貴方、全然会いにこないから本当に久しぶりね」


 幽香は、墓前に座り込んで花を供えた。見たことない花だった。


「その花は?」

「この前家の前に咲いた突然変異よ。名前は幽香輪」

「自分の名前つけちゃったんですか」

「花言葉は『死ね』よ」

「もう死んでますがな」


 冗談だったようで、幽香はうふふと笑った。冗談じゃなかったら冗談じゃ済まないが。


「この間の異変で花が咲いたでしょ。あのときに突然変異したみたいなのよ」

「異変なんかありましたっけ」

「まぁ予定調和的異変だったし。異変というより竹の花と同じ類かしら」

「へぇ。そういえば妙に花が咲いてたような。あれだったんですかね」


 いろいろな要素があって、幻想郷では六十年に一回とかの頻度でなんかあるらしい。害がないのであれば、晴嵐に興味はなかった。


「もしあの世に行けたら、どうする? 先代にでも会いに行く?」

「何ですか突然」

「この間、閻魔様に会ってきたからね」

「……へぇ」

「あら、気になっちゃったかしら」

「そりゃね」

「まぁ普通に会える人じゃないから諦めなさい」

「じゃあなんで話題振ったんですか」

「うふふ」

「もう……」


 この時の晴嵐は、本当に閻魔様に会えるとは露ほども思っていなかった。ので特に騒ぐこともなく、霊夢と幽香の両手に花で、お茶して帰った。


 後日。後日である。晴嵐が閻魔様に説教を受けるのは。

花が咲き乱れるのは異変なのか?

異変なの?


つなぎの話なので(というか幕間は基本つなぎなので)深い意味が無くて困りますが、重要なキャラクター、先代博麗の巫女が(話題として)登場です。でも残念ながらこの章では本人の登場はありません。だって死んでるもの。


幽香や霖之助とは割と昔から知り合いです。そんだけです。

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