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東の方の眠らない日常  作者: 火河雪斗
第一章 我々が恋した幻想郷
11/15

朝を迎えた永遠亭

やっと出来た。ホントはもっと長くなる予定だったけど上手いことまとまらなかったので大幅に削ってまとめてしまって投稿。

 妹紅と晴嵐の二人は、無事永遠亭へと到着していた。勝手知ったる竹林で妹紅が迷うはずもなく、それにコバンザメのようにくっついて行った晴嵐が迷うはずもなかった。


「意外と普通の建物ですねぇ」


 見た目は人里に建っている普通の民家と変わらない。もちろん診療のための場所もあるので普通の民家よりは大きいのだが。


「うん。でさ、私はここらへんで待ってますから、どうぞ」

「あれ、ついてきてくれるわけじゃないんですか」

「あんまり会いたくない人とかいるし……」

「ああー。分かりました。まぁ僕はかぐや姫を一目見ようと思ってるだけなんで、すぐに出てきますよ」

「惚れちゃ駄目よ」

「多分大丈夫です」


 林に紛れていく妹紅を見送らぬまま、門をくぐって永遠亭敷地内へと進入する。木戸をドンドンと叩くと、すぐ中に人がいたらしく「わひゃあ」という悲鳴が聞こえた。数秒後、すぅーと扉が滑った。出てきた人影は人ではなく、ウサギの耳を生やしてなぜか制服を着た少女だった。


「はい。御用でしょうか」

「お姫様に会わせてください」

「無理です」

「やっぱ無理ですか」


 分かっていても聞かなければならない。『お約束』である。


「姫様のご友人……ではなさそうですね。紹介状か何かありますか?」

「いえ、噂を聞いたので来てみただけです。ゲリラです」

「え? ゴリラ? よくわかりませんが、なにもないならお通し出来ませんね」


 しょぼんと耳を垂らして頭を下げる少女。礼儀正しい。しかしその耳は、なんだか作り物にも見える。


「それって、本物なんですか」

「それとは」

「兎の耳です」

「本物ですよ。私は兎ですので」

「最近の兎は人型なんですね」

「割と昔から人型ですが」


 先ほどから晴嵐の視界の端にチラチラと兎耳を生やした幼女が飛び回っているので、割と素直に信じた(そもそも幻想郷で獣耳を生やしたひとなんて珍しくもなかった)。


「かぐや姫がいると聞いたので一目見ようと思ったんですが、やはり無理がありましたか」

「むっ、姫様は見世物ではありませんよ」

「僕は全てを見世物として見ているので、特段変わった扱いではありませんよ」

「姫なのだから変わった扱いをしてください」

「かぐや姫たん」

「変わった扱いならなんでも良いというわけじゃないです」


 兎耳の少女とじゃれていると、不審に思ったらしい家の人が出現した。赤と青の衣装に身を包み、妙な帽子をかぶった人だった。


「ウドンゲ。さっきからなにを騒いでいるの」

「あっ、師匠。聞いてください。この人変なんです」

「そうです。私が変なおじさんです」

「確かに変だわ。今まで出会った中で三十番目ぐらいに変だわ」

「姫様に会いたいなどと言うんです」

「いいわよ」

「いいんですか!? 師匠!?」

「姫様は日々退屈してらっしゃるし、遊びに来たひとを拒む理由はないわ」


 師匠と呼ばれていることや来客を許可する権限を持っていることから、お姫様の側近または重臣かなにかだと推測できた。


「ですって。お引き止めしてしまって申し訳ないです」

「いえいえ。僕も突然押しかけてしまって申し訳ない。安倍晴嵐と申します」

「八意永琳です。薬師などをしております。ウドンゲ。お茶とお菓子を持って来なさい。こちらへどうぞ。お客様」

「お邪魔いたします」


 赤と青の人に連れられ客間に座した晴嵐は、さながら上京したばかりの田舎者のようにきょろきょろと部屋を見回した。


「なにか珍しいものでもありましたか」

「いえ、お姫様が住んでいるにしては普通だなと」

「姫はこういった家で過ごした経験がお有りですから。それに、最近までは隠れ住んでいたのであまり派手でもよろしくないのですよ」

「なるほどー」


 彼女は理知的で、晴嵐が聞きたかったことを実に的確に答えてくれた。本来お姫様に聞く予定だったことまで全て聞いてしまい、聞くことが失くなってしまったのは誤算だったが。


 五分ほどでだいたいを聞き終えた晴嵐だったが、やはり美しいと噂のお姫様には会いたかった。晴嵐も一応男だった。


「人前に出る格好ではなかったので着替えていると思います」

「そうですか。お姫様なんだから、やっぱり着替えも従者にやらせるんですかね」

「いえ、姫様は自分でお着替えなさるわ。永遠亭には雑用を押し付けられるような兎がほとんどいないから」

「兎限定なんですか」

「兎しかいないもの」

「永琳。入るわよ」

「あ、姫様」


 声だけでは判別がつかないとばかり思っていたが、晴嵐には分かった。声からして美しいと。するすると一定の速度で滑った障子の向こう側には、美しいとも、可愛らしいとも形容できそうな人形のようなお姫様がいた。黒く長い髪は動くたびにさらさらと揺れ、綺麗な和服に身を包んでいるのに、むしろ服のほうが駄目に見えてしまうほどの美貌。着せ替えて遊びたくなりそうだ(変な意味でなく)。


「貴方がお客様?」

「はい。安倍晴嵐と申します」

「私は蓬莱山輝夜。気軽にぐーやんと呼ぶといいわ」

「よろしくお願いします。輝夜さん」

「つれないわねー」


 輝夜が座ると、すぐにウドンゲと呼ばれた少女が茶を運んできた。


「粗茶ですが」

「どうも、いただきます」


 香り豊かで、粗茶と謙遜するには無理がありそうな味だった。


「それで、どうしたの? 求婚でもしにきたの?」

「かぐや姫なんでしょう? 難題吹っかけられたらたまりませんよ」

「あら、知ってるのね。そういえば、御伽話になっていると聞いたけど」

「なってますよ。里の人なら皆知ってるぐらい有名です」

「あらあら恥ずかしいわね」

「本当のこと言うと、この間の異変の犯人が輝夜さんだと聞いて一目見に来たんですよ」

「犯人とは人聞きの悪い。私が永夜を明かしたのに」

「らしいですね。なんだか面倒くさいことになっていたようで」

「面倒くさくするのが目的だったから」

「そうなんですか。それは面倒」


 月の姫は、月からの求婚も断ってしまったようだ。一体どのような難題をしかけたのだろうか。


「輝夜さんは好きな食べ物かなにかはありますか」

「話題に困ったときに颯爽と助けに来てくれる質問ね。特別好きな食べ物はないかしら。最近だと、ビビンバとかいう食べ物は美味しかったけど」

「びびんば? 珍妙な響きですね」

「それと筍は好きかも。こんなところで生活していると、筍を食べる機会はどうしても増えるから」

「筍ですか。筍ご飯から筍を抜いたやつなら好きですが」

「それはご飯でしょ」

「なにをおっしゃる。筍を混ぜ込んで炊き込むと、ご飯に筍の風味が移っておいしいんですよ」

「なら筍も食べなさいよ」

「ご飯と筍の食べ合わせが嫌いなんです」

「なるほどー」


 せっかくお姫様と話しているのに筍ご飯の話で盛り上がっている。それを見て変な顔をしている兎の少女と、にこにこと笑っている永琳。妙な空間が出来上がっていた。


「そういえば、あなた、人間なの?」

「そうですが」

「ですが?」

「そうです」

「私、人里に行ってみたいわ。すぐでなくてもいいから。私が歩いて回っても大丈夫なのかしら」

「大丈夫でしょう。昼間は、人を襲わない妖怪なんかが歩きまわったりもしているくらいには平和ですから」

「ではいつか都合をつけてくださらない? 案内を頼むわ」

「ええー……いいですよ」

「嫌そうね」

「満足できなかったからといって打ち首とかはやめてくださいよ」

「貴方は私をどういうふうに見ているのかしら。しないわよ」


 輝夜は箱入りである。永遠亭という箱に、八意永琳という鍵で閉じ込められたシュレーディンガーの猫である。猫が生きているかどうかを確かめるには、箱を開けるのが一番手っ取り早い。まぁ蓬莱人なので生きているとは言い難いが。


「ね、永琳。いいでしょう」

「そうですね。ウドンゲを連れて行くならいいでしょう」

「え、私ですか」

「ウドンゲ、あなたは護衛係よ。あと買い物したときの荷物持ち」

「はい~」


 ウドンゲ少女はどうやら、永遠亭ではかなりヒエラルキーの下層に位置するようだ。なんだかかわいそうになってきた。


「兎の子、辛くなったら人里に来なさい。温かい心を持った人々が優しく迎えてくれるよ」

「あ、なんか気を使ってもらってすみません」

「だめですよ。この子を甘やかしては。鍛えてやらなければならないのです。兎なので」

「兎は鍛えてやらなければならないと月でも決まっているわ」

「なるほど。確かに人間の間でも、兎は鍛えてやるものだという認識ですが……」

「なんでですか! 皆さんは兎を一体どうしたいのですか!」

「ムキムキ」

「ムキムキ」

「ムチムチ」

「この服が着られなくなっちゃうじゃないですか!」


 いじられキャラである。


「愉快だわ~。晴嵐、今日はうちに泊まっていきなさいな」

「すみません。人を待たせているのでそれはちょっと」

「あらら」

「今日もちょっと挨拶とかしにきただけなんで。帰らないといけないんですよ」

「ならおみやげを持って行きなさい。ちょっと待ってて。イナバ、来なさい」

「は、はい~」


 もちろん今日中には帰るが、まだもう少し喋るつもりだった。もちろん、晴嵐の気持ちなど知るわけもなく、お姫様とウドンゲ・イナバはドタドタと退出していった。


「ごめんなさいね。久しぶりに外の人に会うから舞い上がっちゃってるのよ」

「いえいえ、しかし、少し気になっていたんですが」

「なにかしら」

「ここに結構長いこと隠れ住んでいたんですよね」

「そうなるわね」

「いくら人も妖怪もあまり近づかない迷いの竹林とはいえ、誰にも見つからなかったんですか」

「もちろん見つかったわよ。竹林に住んでる死なない人間とか。それなりに強い妖怪、雑魚妖怪あたりはしょっちゅう来るけど、妖怪だし、気にすることはないわ」

「はぁー。ここにこもっていて何を食べていたんですか? 筍だけじゃないでしょう」

「だいたいなんでも食べられたわよ。実はこの竹林の主とは仲良くさせてもらってるの。裏でも野菜を育てたり、その主に里やどこかから食べ物を調達してきてもらったり」

「主か~。ぜひ会ってみたいな」

「ここらへんをうろちょろしているから、運が良ければ会えるかもしれないわね」

「運にはあまりいい思い出がないので会えないかもしれませんね」


 そのあと、ウドンゲ・イナバの本名を聞いた。レイセンというそうだ。今は名前を変えて、鈴仙・優曇華院・イナバと名乗っているらしい。晴嵐には覚えられなかった。その他にも、人里では医学や薬学が少し遅れていることや、それに対応した商売を始めたら良いのではないかなどという商業的な話をしたりした。近々鈴仙を薬売りに出すことにしたようだ。確かにここの地理は、病人が簡単に来れる場所ではない。


「待たせたわね!」

「重い……」


 現れた輝夜の後ろには、異様に大きな金色の塊を持った鈴仙がいた。


「これぞ、島根が石見銀山で採れたという超巨大金鉱石よ。銀山から出た金鉱石という特殊感、飾っても見栄えのする大きさと金という高級感。さらに気に入らなければ、売ればお金になるという気を使い尽くしたおみやげよ」

「いや、そんな重そうなの持って帰れないんですけど……」

「あっ」

「う、腕がああ」


 あまりに重いせいか、鈴仙は鉱石を床に置いて休憩を始めてしまった。


「じゃあこれ。ハートの宝石! 金剛石をハート型に研磨した逸品よ」

「へぇ。これは珍しいですね(幻想郷では)」

「これなら軽いし、持って帰りなさい」

「いや、なんか高そうですし……」

「今度里を案内してもらう前払い報酬だと思ってくれればいいわ」

「では貰います」

「大義名分ができたらすぐに貰うのね」


 きらきらと透き通っていて、確かに美しい宝石だった。墓前にでも供えようと思ったが、やっぱりやめた。


 見送りをされそうになったが、なんか理由をつけて丁重に断った。妹紅と、その会いたくない人が鉢合わせても良くない。晴嵐なりの気遣いである。


 最初はあまり歓迎されないのではないかとも心配していたが、予想以上に輝夜に気に入られたらしい。これなら、これからの永遠亭への出入りは問題なさそうだ(竹林で迷わなければ)。


 永遠亭を出て、少し真っすぐ進んだところで妹紅は待っていた。暇だったのか、地面に絵を書いて遊んでいた。炎をまとった妹紅と思しき人物が、輝夜と思しき人物を倒しており、周りには珍妙な生き物が跳ねていた。


「妹紅さん、面白い絵描くんですね」

「えっ。うわあああああ見ないで!」


 顔を真赤にし、書いていた絵を踏みつけて消してしまった。


「可愛い絵だったのに」

「やめてください。死にます」

「死なないでしょ。あの鵺が可愛かったですね」

「鵺? 兎のこと?」

「あれ兎だったんですか。絵下手くそですね」

「だから恥ずかしいの」


 帰ろう、と踵を返し、さっさと歩いて行ってしまった。置いて行かれると、妖怪の飛び交う竹林上空を飛行して帰らなければならないので危険である。顔を隠して足早に進む妹紅を、晴嵐は小走りで追いかけた。


 もうすぐ夜である。

うーん。短い。妖々夢と永夜抄には思い入れがないせいか、あまり本筋にに絡められないですね。


永琳に真相を聞き、輝夜に気に入られます。てゐはのちに出る予定です(未定)。よくラスボスに気に入られているのは、最強でないのに幻想郷の重要な部分に絡ませるにはやっぱりそういった類の方法が手っ取り早いです。実際そういう理由です。晴嵐には輝夜を倒せないので仲良くしておこうといった感じです。

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