雷王
町を占領したオークの討伐のために北西の島ヴァナヘイムにやって来たロキ、ガルム、マーニ、レヴィの四人。
作戦通り町からオーク達を誘い出す事に成功したロキとガルムだったのだが、オーク達は突然散りじりになってしまう。
疑問に思うロキとガルムの頭上に突如として巨大な岩がが降ってくるのだった……。
頭上から落ちてくる巨大な岩。
……今からじゃちょっと避け切れねぇか!
そう思った俺は即座にフェンリルに魔力を溜める。
「ガルム!」
「分かってるわよ!」
ガルムが魔法陣を展開して竜巻を起こして巨大な岩の落下速度を緩める。
「くぅ……早くして」
「ちょっと待てって……っ」
ガルムのおかげでフェンリルに十分な魔力を溜める事が出来た。
「よし、良いぞ!」
フェンリルを岩に向けて撃つ。
魔法弾が直撃して巨大な岩は粉々に砕けた。
「ふぅ……」
「いったいなんなのよ……」
辺りを見回すとオーク達は散り散りになっていた。
「とりあえずマーニとレヴィに合流しましょ」
「そうだな」
丘に向かって歩き出そうとした瞬間、
「キエエェェェェェェェ!!」
「「!!??」」
もの凄い鳴き声が辺りに轟いた。
「いったい今度はなんだぁ!?」
「ロキ、あれ!」
ガルムが指を刺したのは依頼の町がある方向の空。
一羽の鳥が此方に向かって真っ直ぐに飛んできていた。
茶色い羽毛の鳥……だが、その大きさが余りにもおかしい。
今しがた降ってきた巨大な岩よりも大きいのだ!
「キエエェェェェェェェェ!!」
その巨大な鳥が俺たちの真上を通過する。
「くぅっ……!?」
「きゃあぁぁ!?」
その速度はかなり早く凄い風が起きる。
「あれは……ルフか!」
「えっ!?」
ルフ……通称ロック鳥と呼ばれる魔物だ。
一応下位の魔物だがこんな町に近い場所にはいる筈がない程の危険な魔物で知能もそれなりにある。
「……オーク達はアイツから逃げてた?」
……なんでルフがこんなところまで?
「キエエェェェェェェ!!」
ルフは怒りに満ちた雄叫びを上げながら上空を旋回して再び此方に向かって飛んで来た。
「どうやら狙いは俺たちらしいぜ?」
「そんな悠長な場合じゃないでしょ!」
ガルムがオルトロスを取り出して戦闘体制に入ったので俺もフェンリルの標準をルフに合わせる。
「ん?」
ルフの足の下に魔法陣が展開される。
「キエエエェェェェェェ!!」
その魔方陣から巨大な岩が飛んで来た。
……さっきの岩はコイツの仕業か!
その速度は先程の倍の速度だ。
「ちっ!」
フェンリルの標準を岩に向ける。
「あんたはルフを狙いなさい!」
「!?」
ガルムが叫んだと同時に魔法陣を展開して風を起こす。
竜巻となった風は巨大な岩にぶつかる。
「くぅ……ぅ……」
岩の勢いが相当強いのか僅かに後退していくガルム。
「おい……大丈」
「良いから、あんたはルフを狙いなさいって言ってるでしょ!」
「……分かった」
ガルムに怒鳴られ標準をルフに向け直す。
フェンリルの銃口に魔法陣が三重で展開される。
「キエエェェェェェェ!!」
ルフはどんどん此方に向かって来る。
「やぁぁぁあああ!」
ガルムの展開している魔法陣が大きくなり竜巻もその大きさを増していく。
巨大な岩がガルムの竜巻に押し返されてルフに飛んでいき、大きな音を立てて巨大な岩がルフに直撃した。
グラッとルフの体制が崩れる。
「ギエエェェェエエエエ!」
だがすぐさま立て直して再びもの凄い勢いで此方に迫って来た。
「ナイスだぜガルム!」
そう言って一発の魔力弾を放つ。
一見普通の魔力弾と変わらない様に見えるそれは狙い通り真っ直ぐルフに向かって直撃した。
瞬間、大きな爆発が起こりルフが煙に包まれる。
今の魔力弾は炸裂弾。
大きな魔力を一時的に凝縮した物だ。
「……やったか?」
「ギエエェェェェェ!!」
「!……っち」
煙を吹き飛ばしてルフが現れた。
その体はあまり傷ついていなかった。
どうやら当たる直前に巨大な岩を放って直撃を防いだようだ。
……にしても元気過ぎるんじゃねえか?
再びフェンリルに魔力を溜める。
だが、
「キエエエエエエエエエエエエエ!」
「ぐっ!?」
「きゃあ!?」
突如としてルフが大きな鳴き声を出した。
そのあまりの大きさに耳を塞いでしまう。
「キエエェェェェ!」
その瞬間にルフの足元に魔法陣が展開され巨大な岩がガルムに向かって放たれる。
「しまっ……」
「くそ!」
俺は即座に魔力を溜めるのをやめてガルムに向かって走り出す。
足下に魔法陣を展開して自分自身に強化魔法をかけ、一気に加速してガルムに向かう。
「ガルム!」
巨大な岩が落ちる寸前でガルムを抱える。
「くっ……!」
間一髪で巨大な岩の直撃を避けるが爆発に巻き込まれ吹き飛ばれる。
巨大な岩は無数の岩となって飛散する。
俺はガルムを庇うため抱き寄せる。
「っが……!?」
「ロキっ!?」
そのうちの幾つかが背中に直撃して背中に激痛が走る。
そのまま勢いよく地面に叩きつけられる。
「ぐぅ……」
「ちょっ……大丈夫!?ロキ!!」
ガルムが涙目になりながら俺を揺する。
……そんなに動揺するなよな。
「キエエエエエエエエ!!」
「くっ!?」
またもやルフの足元に魔法陣が展開される。
「ガルム、離れろ」
「嫌に決まって……」
ルフの魔法陣から再度巨大な岩が放たれる。
その大きさは先程のよりも大きい。
「……っ」
ガルムは俺のケガで動揺してるし仕方ねえ。
フェンリルに魔力を溜めるが、
「ぐっ!?」
背中に激痛が走り思うように魔力が溜まらない。
その間にも巨大な岩はどんどん近づいてくる
……やべぇ!
「「……っ」」
岩が眼前に迫り反射的に目を瞑る。
そして……。
紅色の雷光が迫り来る岩を粉砕した。
「……おいおい。二人揃ってなにやってんだよ?」
目の前には巨大な鎚を片手で軽々と持って仁王立ちしている小柄な少女。
「レヴィ……助かったぜ」
ギルド最強のチーム〈ヴァルハラ〉の一人にして〈雷王〉の二つ名を持つ少女、レヴィが立っていた。
「ったく、いつまで経っても戻って来ないから探してみれば……」
「はは……悪りいな」
「フン」
「あれ?マーニは?」
「先に行って下さいって言うから置いて来た。もうすぐ着くだろ」
「そうか」
遠くを見るとマーニが駆けてくるのが見えた。
「んで……」
レヴィが上空から今まで此方を見下ろしながら様子を伺っていたルフを見上げる。
「あたしのダチを傷つけたこと……」
レヴィの身体から魔力が電気となって漏れ出し火花が散る。
だんだん徐々に火花の量が増えてレヴィが電気に包まれて……。
「後悔しやがれ!!」
轟音と共にレヴィがルフに向かって飛んで行った。
「ロキ様!?」
そのすぐ後にマーニが驚いた様子で駆け寄ってきた。
「はは……ちょっとドジ踏んじまった」
「治せそう?」
ガルムが心配そうな顔でマーニに尋ねる。
「はい。このくらいの傷でしたら大丈夫です」
「そう……ふぅ」
マーニの返答にホッとした表情のガルム。
「ほら、お前はレヴィの援護に行けって」
「分かってるわよ!」
風魔法を使い上空でルフと戦っているレヴィの元へ飛んでいくガルム。
「……いつも悪いな」
ガルムが飛んで行ってから白魔術で治療してくれているマーニに話し掛ける。
「いえ、戦闘では足でまといですから。……私には皆さんの傷の手当てくらいしか出来ませんので」
「そんな事ねえよ。いつも助けられてばかりだしな」
「ふふ、ありがとうございます。……ですが、あまり心配を掛けないで下さいね」
「……努力はする」
~
「うおおおぉぉぉぉぉ!!」
雷魔法を推進力として使って前方を飛ぶルフを追う。
「キエエエエェェェェェェ!!」
ルフが此方を向き展開した魔法陣から巨大な岩が飛んでくる。
「邪魔だあ!!」
ミョルミルに魔力を加える。
ミョルミルの周りに魔力が集まりその大きさを倍にする。
巨大な岩に向かってミョルミルを振るう。
「砕けろーーー!!」
大きな音を立てて巨大な岩が砕ける。
そして再度ミョルミルをルフに向かって振るう。
「喰らいやがれーーー!!」
ミョルミルに蓄えられていた魔力が雷となってルフに向かっていく。
「キィェェェエエエ!?」
雷魔法がルフを直撃してルフのバランスが崩れる。
「まだまだーー!」
追撃を掛けようとするが、
「キエエエエェェェェェ!!」
ルフが崩れた体制のまま無理矢理に此方に向かって突進してきた!
「ちっ!」
ミョルミルを横に振って軌道を変えるが、ルフはかなりの速さで向かってくるのに加えてその大きさのせいで回避は無理そうだった。
瞬時にミョルミルを前に向けて防御の構えを取る。
「キエエエエエエエエ!」
「うわっ!?」
ルフの巨体が眼前に迫った時、突然吹き荒れた突風が起こり大きく吹き飛ばされる。
そのおかげかルフの体当たりを避けられた。
「大丈夫!?」
下の方からガルムが飛んで来た。
どうやら先程の風はガルムの魔法だったらしい。
「他に助ける方法あったんじゃねえのか?」
「無茶言わないでよ!」
「ま、一応礼は言っとくか」
「可愛くないわねぇ」
「うるせぇー」
その時。
「キエエェェェェェェ!!」
ルフが魔法陣を展開して巨大な岩を飛ばして来た。
「無駄だって言ってんだろうが!!」
ミョルミルを思いっきり振るって岩を砕く。
粉々になった幾つかの岩が飛んで来るがあたしの周りに風が渦巻いて岩の軌道を逸らす。
ガルムの風魔法だな。
「とりあえずアイツを落とすぞ!」
「了解!」
前を飛ぶルフを再び向かっていく。
ミョルミルから放つ魔力を増加させて速度を上げ前を飛ぶルフを追いかける。
隣にはガルムが風の飛翔魔法で飛んでいる。
「キエエエエエエエ!」
ルフが速度を上げて、そのまま旋回して此方に向き直る。
「キエエエエエエ!」
またもや巨大な岩を飛ばしてくる。
だが今度は四発もの岩を飛ばして来た。
「何度やっても同じだっ!」
自分を中心に回転する。
回転して付いた勢いで四発全ての岩を連続で砕く。
「はぁ!」
ガルムが飛び散った岩を風魔法で止める。
自分を浮かしながら幾つもの岩を全てコントロールしていた。
「さっきはよくもロキを……お返しよ!」
集められた無数の岩が風魔法で集められて大きな竜巻の一部になる。
そのまま竜巻が勢いを増しながらルフに向かっていく。
「ギエエエエエッ!?」
ルフも今のは相当効いたようでバランスを崩す。
ミョルミルに魔力を加える。
ミョルミルが雷の魔力を纏ってその大きさをどんどんと大きくしていく。
その大きさがルフの身体以上に達したところでミョルミルを思いっきり振るう。
「喰らいやがれーーー!!」
超巨大となったミョルミルがルフを直撃する
ルフはそのまま地面に叩きつられた。
~
爆音と共に上空からルフが落ちて来た。
「ギェェェェェ……」
ルフは苦しそうに悶えている。
「へ、ざまあみろ!」
「ロキ、もう平気なの?」
レヴィと共にガルムも空から降りて来た。
「あぁ、もう平気だ」
言いながら立ち上がる。
「それよりマーニ、コイツを治してやってくれ」
ルフを指差しながらマーニに頼む。
「……よろしいのですか?」
「あぁ」
「かしこまりました」
マーニがルフに近づいていく。
「ギェェェ……」
自分の身に危険が迫っているも感じたのかルフが身をよじりもがく。
「大丈夫ですよ。安心して下さい」
マーニがそう言うとルフは抵抗をやめて大人しくなった。
マーニの手に魔法陣が浮かび淡く光りだす。
「キェェェェェ」
ルフの身体の傷がだんだんと消えていく。
その時、ルフの下に巨大な魔法陣が展開された。
「!?……マーニ、危ねえ!」
「え?……きゃ!?」
咄嗟に強化魔法で加速してマーニを抱えて飛び退く。
その直後、地面から無数の石の槍が飛び出してルフを串刺しにした。
「なに!?」
「ギェェェ……」
ルフが淡い魔力光となって消えていく。
「あー……つまらん」
「「「「!?」」」」
突然の声に後ろを振り向くと一人の大男が立っていた。
獅子のたてがみを思わせるようなボサボサの髪をした男だ。
その図体はかなり大きくニョルズよりもデカい。
「てめぇ……なんで止めを刺した!?」
「あ?……あぁ、それが今回の依頼だったからな」
「依頼?」
「あぁ、俺もギルドの人間でな。ルフの討伐が今回の依頼だったわけだ」
「ギルドの……?」
だが、男の顔に見覚えは無かった。
「ルフは強えって聞いたから依頼を受けたのに、着いてみたら目的のルフは虫の息……まぁ手間が省けて助かったがなぁ」
「おい、オッサン。用がないなら帰るぞ!」
上空から声がしたので見上げると橙色の髪の少年が浮かんでいた。
少年はガルムと同じ風属性の魔導師らしい。
「おお、坊主。わざわざ悪いな」
「俺は坊主じゃねえ!」
大男の周りに風が渦巻いて大男が浮かぶ。
「おい!ちょっと待てよ!」
「ん?なんだ?」
「おい、そんな弱い奴等の相手すんなよ」
「なんだと!?」
少年の一言に反応したのはレヴィだった。
「なんだよ?チビの言うことなんて聞かねえぞ」
「なにっ!?」
「まぁ、落ち着きなさい」
レヴィをガルムが嗜める。
「で、なんだ?」
「あんた達の名前は?」
「俺の名前はヴィゴーレ。そっちの坊主はキントだ」
「だから俺は坊主じゃねえ!!」
大男はヴィゴーレ、少年はキントというらしい。
「ま、お前達とはまた会うかもな」
「!?……どういう意味だ?」
「ただの勘だから気にすんな」
「もう良いだろ、さっさと帰るぞ」
「あぁ」
ヴィゴーレとキントが浮かんでいく。
「おい、ちょっと待て!」
レヴィの言葉を無視して二人は飛んで行った。
「……ったく、なんなんだあいつ等」
「さぁな」
「絶対あたしの方が強えのに!」
「はは……」
謎の二人が見えなくなってレヴィが不満を漏らす。
「まぁ良いじゃない。とりあえずもう一度町に戻りましょ。まだ、オークが居るかもしれないし」
「私もガルム様の意見に賛成です」
「それじゃあそうするか」
依頼の町に戻るために歩きだす。
「おーいレヴィ、置いてくぞー!」
「あっ!おい、待てよ!」
未だブツブツ言っていたレヴィが急いで着いて来た。