後始末
裏取引の阻止を頼まれて隣街まで来たのだが、なんとガルムが捕まってしまったと依頼人のクーフェから聞いたロキは単身アジトに乗り込み無事にガルムを助け出したのだった。
ガルムを背負い部屋まで帰って来た。
「お帰りなさいませ」
「おう」
「心配かけたわね」
「いえ、気になさらないでください」
部屋にはマーニしか居なかった。
「クーフェは?」
「先程お帰りになりました」
「……ふぅん」
「早く降ろしなさいよ」
「ん?あぁ悪い」
そこで俺はガルムを背負ったままだったことに気が付いたのでソファの上にガルムを降ろす。
「マーニ、ガルムに予備の服頼むわ」
「かしこまりました」
マーニが荷物の中から言われた服を取り出してガルムにしてくれる。
「ありがと」
「いえ」
ガルムが着替え終えた後。
「よし、じゃあ行くか」
「え?行くってどこによ?」
ガルムが不思議そうな顔をする。
「後始末だよ」
~
「まったく、これだから役立たずは……」
ロキとガルムが去った後の裏組織のアジトに一人の男が立っていた。
「っっ……ん?あ、クーフェさん!?」
気絶していた男達が目を覚ますと驚きの声を上げた。
目の前に立っている男、クーフェに驚いたようだ。
男達の顔に恐怖が浮かぶ。
「いったいどうしてあなた達のようなゴロツキを使ってやったと思うのですか?」
「え……?」
「こんな場合に備えてに決まってるじゃないですか」
男の手に魔法陣が浮かび火の玉が出現する。
「なっ!?ま、まさか……」
「口封じが簡単だからですよ」
クーフェが冷たい笑みを浮かべた。
「さようなら」
「や、やめっ」
部屋が爆発した。
だが。
「うぅ……え?」
男達は全員無事だった。
「おやおや、予想より早かったですね」
クーフェが後ろを向くと。
「な?言った通りだろ」
「はい」
「あんた……」
チーム〈ケルベロス〉の三人が立っていた。
~
十分程前。
「クーフェが裏組織のリーダー?……何か根拠でもあるの?」
「勘」
言った瞬間ガルムに思いっきり殴られた。
「どうしますか?」
「はぁ……この馬鹿言ってるんだから行くしかないでしょう」
「ふふ。やはり信頼しているのですね」
「ち、違うわよ!」
………………
…………
……
そんな訳で先程の廃屋に来たのだが。
既にクーフェが火の玉を男達に向かって放たとうとしていた。
フェンリルで火の玉を撃つ。
「な?言った通りだろ」
「はい」
「あんた……」
マーニが嬉しそうに返事をして、ガルムはクーフェを睨んでいた。
「まったく予想外でしたよ。まさかあなた方ここまでやるだなんて」
「へっ、そうかよ」
「ちなみに聞きますけど。いつから気づいてたんですか?」
「あんたが宿屋に来た時」
「……そうですか」
俺の言葉にさして感心した素振りもなくクーフェは視線をガルムに向けた。
「ご無事で良かったですよ」
「おかげさまでね」
クーフェはため息を吐いた後。
「貴女のような気の強そうな女性が心も身体も滅茶苦茶になる姿を楽しみにしていたのですが……」
「それはおあいにくさま」
ガルムがオルトロスを取り出す。
「せっかちですねぇ」
それでもクーフェの表情は変わらなかった。
「大人しく捕まりなさい」
「嫌です。と言ったら?」
「力ずくで捕まえるだけよ」
クーフェは少し考える素ぶりを見せた後。
「嫌です」
と笑顔で答えた。
「ロキ、マーニ。こいつは私が捕まえるから」
ガルムがそう言って前に一歩進む。
「かしこまりました」
「嫌だ」
俺も一歩前に出る。
「マーニは転がってる奴らの治療と捕縛を頼む」
「かしこまりました」
「あんたがやったんだからあんたがやりなさいよ」
ガルムが何か言った気がしたが無視した。
言われたとおりに男達を縛るマーニ。
その手に魔法陣が浮かび白い光が溢れ出した。
「おやおや、彼女は白魔導師でしたか」
クーフェが感心したようにマーニを見る。
白魔法は簡単に言えば治療魔法の事で使える者は魔導師の中でも少ない。
部屋から外に出てもクーフェ逃げようとしなかった。
「さて、そろそろ始めるか」
「だから私が捕まえるって言ってるでしょ。それにあんたはさっき暴れたでしょ」
「……はいはい。分かったよ」
仕方ないのでガルムに今回は譲ることにした。
「決まりましたか?」
「えぇ。行くわよ!」
ガルムがクーフェに向かって疾走した。
~
クーフェに向かって走りながら途中で両手に魔法陣を展開する。
オルトロスに風が纏う。
「それは痛そうですからねぇ」
クーフェの手に魔法陣が展開されて火球が出来上がる。
前に見た時よりもずいぶん大きい。
だが一向に向かって来なかった。
「なにを……っ!?」
怪訝に思った直後、火球から無数の小さな火の玉が飛んで来た!
「ははは、逃げないと火傷しますよ?」
「くっ……」
飛んでくる火の玉を避けて払ってを繰り返すがまったく近寄れない。
「手貸そうか?」
後ろの方で見ているロキが呑気に声を掛けてくる。
「いらないって、言ってるでしょ!」
右手に魔法陣を展開してオルトロスを振るう。
クーフェに向かって横向きの竜巻が火の玉を呑み込みながら飛んで行く。
「なっ!?」
クーフェは間一髪で竜巻を避ける。
「遅いわよ!」
間合いを詰め魔法陣を展開しながらオルトロスを振るう。
「くっ!?」
クーフェが火の盾を出現させるが構わずにオルトロスを振るう。
「やぁ!」
火の盾に当たる瞬間、オルトロスに纏う風が一瞬強くなった。
火の盾を打ち抜いてクーフェの腹に右手のオルトロスが直撃する。
「っご!?」
左手に魔法陣を展開して竜巻を起こす。
「うわぁぁぁぁあああ!?」
クーフェが吹っ飛ぶ。
そのまま10メートル程飛んでから派手に転がり停止した。
「終わったか?」
後ろで見ていたロキが近づいて来た。
~
魔法が決まったのを確認してガルムの方に近寄る。
「……なんで手出したのよ」
ガルムが拗ねたように呟く。
「あ、やっぱバレた?」
「当たり前でしょ。発動した後の魔法の威力を外部から上げるなんてあんたの〈強化魔法〉しかないでしょ」
ロキの魔法は強化魔法という魔法だ。
対象の能力の向上などが出来る。
例えば威力増加や加速なんかができる。
「ま、細かい事はいいじゃねえか。無事解決したんだしさ」
「あんたねぇ……」
「ロキ様、全員の捕縛が完了しました」
ガルムが何か言いかけたとき、タイミングよくマーニが報告してきた。
「そっか、ありがとな。なら……」
マーニの頭を撫でてから倒れているクーフェにフェンリルを向ける。
「いつまで寝たふりしてんだ?」
「……やはりばれてましたか」
クーフェはそういいながら立ち上がる。
「いやいや、ばれるって……それで肝心の取引場所は?」
「取引場所は此処ですよ」
思ったより素直に話始めるクーフェ。
「そして取引相手は……彼らです」
周りの家の陰から数十人の男達が現れた。
男達は俺たちを囲うように並ぶ。
「おいおい、これはどういう事だ?」
そのうちの取引相手のリーダーらしき男がクーフェに話しかける。
「いえ、ちょっとした手違いでギルドの魔導師にやられてしまったんですよ」
「なに!?」
「そしてこちらの方々がそのギルドの魔導師の方達です」
クーフェが俺たちの事を紹介する。
「くそっ!こうなったら……」
男達が一斉に魔法陣を展開する。
「ちょっと待て、人の話を……」
「うるせぇー!!」
どうやら問答無用らしい。
「はぁ……ガルム」
「分かってるわよ」
ガルムの足下に魔法陣が展開される。
俺もガルムに合わせて強化魔法を使う。
ガルムの作った魔法陣に重なるように魔法陣が出来る。
「おらーーー!!」
男達は一斉に魔力弾を放ってきた。
「はぁ!」
ガルムの作った魔法陣から巨大な竜巻が出現し、男達の放った魔力弾を消し飛ばし男達を打ち上げる。
「うわああぁぁぁぁぁああああ!?」
落ちてくる男達を強化魔法を適当に使い硬度を上げる。
「いでっ」
「がっ」
結構な高さから落ちたが死にはしない。
地面に落ちる直前にガルムが風で速度を緩和させているからだ。
「お前らも馬鹿だなぁ。何もしなけりゃ軽い罪で済んだかもしれないのに」
「え?……じゃあ」
「ま、もう遅いんだけど」
「そんな……」
俺の一言で愕然とする男達。
「なぁ、マーニ。これで依頼完了か?」
「はい」
「で?こいつ等はどうするのよ?」
「ん?……街の警備に任せば良いんじゃね?」
「そうね」
「そんじゃ帰るか」
「はい」
そして事後処理を警備の人間に任せて宿舎に向かったのだった。