ラタトスク
「死の風」の二つ名を持つフレスベルグとの戦闘。
苦戦を強いられたロキだったがカートリッジとガルムの助けもあり反撃に成功する。
だが……。
「―――――――――!!」
ロキとガルムの前には血の涙を流す、翼の生えた堕天使にも見える異形な魔人と化した魔女――フレスベルグが浮かんでいた。
その奇怪な叫び声は聞くだけで身が竦んでしまいそうな恐怖を掻き立てられる。
「っ……どう、すれば……いいのよ。あんな奴」
彼我の差が馬鹿らしく思えるほどの魔力によって、さながら台風のような突風が吹き荒れる室内。
戦意を喪失しかけたガルムの言葉が耳に届いた。
「そんなもん決まってんだろ。殴って止める。それだけだ」
そんなガルムに向かって何でもないように返したロキだったが、その瞳は真剣な光が浮かんでいた。
「で、でも!あんなの相手に私たちだけなんて無理よ!」
「……マリアが俺を来させた理由が分かったぜ」
「え?」
ガルムの言葉に答えず静かに呟いたロキは懐からマガジンを取り出してフェンリルに装填する。
「おい。ガルム、早くアーサー達の所に行け」
「ちょっと、それどういう――」
「足手まといだ」
「――な!?」
ガルムにそう告げると同時にフェンリルのトリガーを引くと、ロキの魔力が跳ね上がった。
「いったいどうやって……?」
「今のはカートリッジっていってな。俺の封印を一時的に解除する代物だ」
「封印?」
「俺の二つ名は【黒騎士】」
「黒騎士!?それって一年前にマリア様と戦った闇ギルド最強の魔導師の名前じゃない!?」
「そうだ」
答えながらトリガーを引く。
それに合わせてまたもた魔力が跳ね上がる。
「負けた俺はマリアの説得に応じて闇ギルドを抜けて正規のギルドに身を置くことになったんだが、国の上層部との取り決めで色々と制限をかけられてな。それが封印な。んで、このカートリッジを使うと一時的に魔力の封印を解けるようになってるんだよ」
そう言い終えた時には装填した全てのカートリッジを撃ち終えていた。
既にロキから感じる魔力は魔人と化したフレスベルグと大差無いほどにまで膨れ上がっており、体からは目視できるほどの魔力が溢れていた。
「もう一度だけ言うぞ?さっさとアーサー達の所まで行け」
「っ!」
自身の力が足りないことを理解したガルムが悔しそうに唇を噛んで部屋から飛び出していった。
それを見送ったロキはその瞳を先ほどから浮かんでいるだけの状態のフレスベルグに向けた。
「意識は無いだろうによく待っててくれたな?」
「…………」
その言葉に反応したのか、赤く染まったフレスベルグの瞳がロキを捉えた。
「そんな姿になってまで俺を殺したかったんだろ?さぁ来いよ」
「―――――!!!」
そう言った瞬間、フレスベルグの姿が消えた。
そう認識した時、フレスベルグの顔が目の前にあった。
赤く染まった目と視線が重なる。
「っ……!」
フレスベルグが腕を振るう寸前で咄嗟に横に転がって避ける。
轟音が後から耳に届いた。
音速を超えて急接近してきたようだ。
見ると先ほどまで立っていた場所は大きく抉れている。
「んの野郎……お返しだ!」
後方に飛んで急旋回して向かってくるフレスベルグに銃口を向けながらショットガンを放つ。
一つ一つが砲弾のような大きさになったそれはもはや黒色の壁のように見える。
「―――!!」
だが、フレスベルグはお構い無しに突っ込んできた。
そして魔力弾が直撃する寸前に黒色の壁が切り裂かれる。
壁に開いた隙間を潜り抜けてまたもや腕を振るうフレスベルグ。
それをフェンリルで受け止めるが、威力を殺し切れずに吹き飛ばされた。
「っちぃ!」
壁に激突しながらも素早く横に飛び退く。
直後に壁が切り裂かれた。
先ほどのショットガンを切り裂いたのと同じ風の刃だ。
その不可視だった刃も、ロキは既に見切っていた。
先ほどガルムが使った魔法を魔力のオーラで行っているのだ。
幾重にも重なった風の刃を潜り抜けながら、フレスベルグに向けて連射する。
普段より二周りは大きい無数の魔力弾が一斉にフレスベルグを襲う。
暴走の影響でフレスベルグを覆っていた風の障壁が消えており全ての魔力弾がフレスベルグに直撃する。
「ギャアアアアアア!!!」
悲鳴を上げて後退するフレスベルグ。
それを好機と思い一気に距離を詰める。
「喰らえ!黒牙!!」
増幅した魔力によって大幅に強化されたフェンリルの一撃がフレスベルグを捉える。
その威力は凄まじくフレスベルグは屋根を突き抜けて文字通り吹き飛んだ。
「逃がすかよ!」
床を蹴って跳び、フレスベルグの開けた穴から飛び出す。
そこを待ち構えていたかのようにフレスベルグの生み出した無数の風の刃が襲いかかってきた。
全方位からの一斉攻撃。
場所は空中で逃げ場はなく、回避も不可能。
ならば
「ぶっ飛ばせばいいだけだ」
纏っていた魔力のオーラを強める。
強化魔法によって瞬間的に膨れ上がったオーラは、殺到する風の刃を全て吹き飛ばした。
無事に屋敷の屋上に着地するが、大量の魔力を一気に失ったことに変わりはなく、ロキの体を覆っていた魔力のオーラは消えてしまっていた。
「――――――!!!」
それを好機と思ったのか、高速で飛来するフレスベルグ。
一直線に突っ込んでくるフレスベルグに向かって、フェンリルの銃口を向ける。
それを見たフレスベルグは本能なのか急遽止まろうとしたが
「もうおせえぞ」
放たれたのは漆黒の光線。
だが、その数は一本ではなく六本。
魔力の封印を一時的に解除した状態で放たれた光線は一つ一つの太さが普段の三倍はある。
そして回避する暇も与えず六本全てがフレスベルグに直撃して大きな爆発が起こる。
「…………しぶといな」
爆発の煙が晴れると、ボロボロになりながらも五体満足のフレスベルグが浮かんでいた。
おそらく先ほどのロキと同じく魔力を放出してダメージを減らしたのだろう。
満身創痍のフレスベルグにとどめを刺すべく距離を詰める。
フェンリルに黒い魔力が纏う。
「喰らえ!黒――!!?」
フレスベルグまであと一歩の所で体が急激に重くなった。
「(くそっ……時間切れかよ!)」
目前に迫ったロキに向かってフレスベルグが腕を振り上げる。
再び魔力が封印された今のロキに防ぐ術はない。
ここまでか……。
そう思った時だった。
「なにぼさっとしてるの!さっさと止めを刺しなさいよ!!」
そんな叫び声と共に後ろからの突風が追い風になった。
フレスベルグまでの一歩が縮んだ。
そして、
「黒牙!!」
フレスベルグの振り下ろした腕にフェンリルが直撃し、腕に付いていたラタトスクを粉砕した。
………………
…………
……
「……サンキューな。助かった」
仰向けに倒れながら荒い息を吐く。
封印を解除すると体に大きな負担がかかるのだ。
館に入る時は曇っていた空は、雲間から光が伸びていた。
「どう?足手まといに助けられた気分は?」
軽く嫌味の混じった言葉と共に視界の端にガルムが映り込む。
「悪かった」
「分かればよろしい」
素直に謝るとガルムは満足そうに笑顔を浮かべた。
「フレスベルグは?」
「そこで気絶してるわ。魔封石の手錠もかけたから問題ないでしょ」
「そうか」
言いながら上半身を起こす。
「もういいの?」
「あぁ。けどもうしばらくは戦闘は無理っぽいな」
「それなら大丈夫でしょう。ほら」
ガルムが指し示す先にはこちらに向かって走ってくるトリスタンと、その後ろを歩くアーサー達の姿があった。
俺はガルムに肩を借りながら地上に降りた。
「お二人とも無事で何よりです」
「力になれずすみませんでした」
アーサーは俺たちの姿を見て安堵し、ランスロットは力不足を詫びた。
「気にすんな。全員無事でこうして組織のボスも確保出来たんだから。それに幻覚魔法を破ったのはお前たちだろ。充分すぎるほど力になってるよ。ありがとな」
「そう言っていただけると助かります」
二人と話していると、
「やっぱり強いじゃないか。帰ったら改めて僕と手合わせを――」
「ガウェインさん!手当が先です!」
ガウェインが好戦的な目をして近づいて来て、それを止めるトリスタン。
その後ろで関係ないようにしているが一定の距離に立っているペリノア。
「……やっぱ騒がしい奴らだな」
「でも少し羨ましいんじゃない?」
そんな俺の独り言が聞こえたのかガルムは笑いながら茶化してきた。
「私もソロだからなんとなくわかるのよね」
「どうだろうな」
そんなことを話していると話が一段落したのかアーサーが近づいてきた。
「さて、ではフレスベルグをギルドまで連行しましょう。闇ギルドとも繋がりがあるそうですし何か分かるかもしれません」
「そうだな」
そう言って歩き出そうとした時だった。
「んー。それは困るなぁ」
「そうね。困るわ」
「「「!?」」」
突然の声に一斉に戦闘態勢に移るアーサー達。
声のした方には、一対の人形が浮かんでいた。
「えっ、あれは……」
「知ってるのか?」
「は、はい。あれは幻覚魔法の核だった人形です」
「なに?」
ならどうしてその人形が目の前にある?
フレスベルグは気絶していて、魔封石の手錠をかけてあるので魔法を使うのは不可能だ。
「その魔女を連れてかれるとご主人が困るんだよ」
「これが私たちの最後の仕事」
人形達はそう言うと倒れていたフレスベルグに抱き着いた。
「っ!やめ――」
トリスタンが叫ぶより早く、
「「バイバイ」」
ボンッ、と呆気なく一対の人形は爆発したのだった。




