密林の魔物
ヴィゴーレとの戦いに辛くも勝利したロキ達はエルフの願いを聞きギルドに戻る事に……。
「……」
「そんな顔してんなよな」
「え?あ……ごめんなさい。どうしたの、ウル」
俯いていたマリアに声を掛ける。
「いや、別に用は無いんだけどよ。まぁ、あいつはバカだけど勝手にくたばるような奴でもないだろ?それに、もうあいつは一人じゃないしな」
「……そうね」
マリアは静かに笑ったが、その瞳には僅かに寂しさが混じっていた。
……クソ、早く帰って来やがれ。バカロキ。
まぁ、帰って来たらそれはそれでむかつくんだが。
~
「へっくしょん!?」
「ちょっと!汚いわね!?」
「お風邪ですか?」
「それは無いわよ」
「……どうゆう意味だ?」
「あんたが馬鹿だから風邪引かないって意味よ」
「ぐっ……」
俺たちは今、ギルドに戻る為にアルフヘイムの密林を歩いていた。
「それにしても、暑いわね」
「……言うなよな」
ガルムが汗を拭きながら呟く。
その言葉で一層暑くなった気がする。
今は丁度昼ぐらいか?
太陽が真上にあるから間違いは無いだろう。
「……この音」
「ん?なんか言ったか?」
「静かにして……やっぱり」
「いや、何がだよ?」
意味不明なガルムの発言に困惑する。
「この近くに川があるわ」
「マジか!?」
ガルムは風魔法の使い手で感覚が俺より良い。
「どっちだ?」
「……こっちよ」
ガルムが草道を走って行く。
俺とマーニはガルムの後に続いた。
しばらく走っていると俺にも水の音が聞こえてきた。
「……あれか!」
そして少し先にガルムの言った通り川が流れていた。
「よっしゃー!水だっ!?」
「っ……ロキ!?」
川に近づいた時、ガルムが急に叫ぶ。
地面が僅かに振動しているのに気付き直ぐにその場から飛び退く。
「!……っと」
その直後、川から水柱が飛び出した!
「……蟹?」
そして川から出てきたのは人の五倍はある大きな蟹だった。
だが、単に大きいだけでなくハサミが四本もあり背中から幾つもの棘が生えていた。
「どうやらこの川はこいつの縄張りだったみたいね」
「なんだ、こいつ?」
「あいつは……」
「まぁ良いや」
「あ、ちょっと!」
ガルムの説明を聞かずにお化け蟹に走り寄る。
「黒牙(ブラックファング)!」
懐から取り出したフェンリルで蟹をぶっ飛ばそうとした瞬間、
「っうわ!?」
腹から更に二つのハサミが飛び出してきた!
俺は片方のハサミをフェンリルで防ぐがもう一方のハサミに吹っ飛ばされる。
「ロキ様!」
「ほっときなさい。人の説明も聞かずに突っ込んだんだから自業自得よ」
「……悪かったな」
すぐさま起き上がり蟹を見るとハサミが六本になっていた。
「あいつはマッドクラブっていって見ての通りハサミが外側に四本、内側に二本の合計六本生えている魔物よ」
……面倒だな。
背中には棘、前後と腹にはハサミ
近距離戦じゃ正直しんどいな。
「ま、関係無いか」
フェンリルをマッドクラブに向ける。
相手がデカイしここはバスターだな。
フェンリルに魔力を溜めて引き金を引く。
黒色の光線が一直線に向かっていく。
「なっ!?」
だが、あたる寸前にマッドクラブは地面に潜ってしまった。
足場が微かに揺れた。
「っちぃ!」
ロキは急いでマーニを抱えて後方に飛び退く。
ガルムも合わせてジャンプして浮遊した。
先程まで立っていた場所から四本のハサミが地中から飛び出した。
そしてゆっくりと地面から出てきた。
「……っこの野郎!?」
その後も狙って撃つが直ぐに地面に引っ込んでしまう。
そしてまた足下から攻撃。
そんな事を何回か繰り返す。
「あー……ガルム」
「なによ」
「頼んだ」
「え?」
「ロキ様!?」
ガルムに向かってマーニを放り投げる。
「ちょっと!?」
慌ててマーニを受け止めるガルム。
「いい加減面倒くせえ!」
足下から振動が伝わってくるがロキは動かない。
「うぜぇんだよ!」
フェンリルの銃口をを地面に着け引き金を引く。
ロキの四方からハサミが飛び出し……止まった。
「……たく」
ハサミを一つ掴んで引き上げるとマッドクラブの真ん中に大きな風穴の空いていた。
「こらバカロキ!」
空を飛んでいたガルムが怒鳴る。
見るとマーニが涙目になりながら睨んでいた。
………………
…………
……
「悪かったって。な?」
「……」
川沿いを進みながら前を歩くマーニに声を掛けるが返事は帰って来ない。
確かに放り投げたのは悪かったがマーニ側に居ると危なかったからだ。
「……私がなんで怒ってるか分かりますか」
突然、マーニが振り返った。
当然だが顔は怒っていて頬を膨らませていた。
「だから、いきなり放り投げたからだろ?」
「違います!」
そう言うと再び前を向いて歩き始めてしまう。
「はぁ……マーニはあんたが無茶な戦い方ばっかりするから怒ってるのよ」
それくらい分かりなさい、と小声でガルムが耳打ちしてきた。
その時、横の茂みが揺れた。
俺は咄嗟にフェンリルを掴む。
だんだんと揺れが大きくなり出てきたのは……。
「……は?」
小さな猫の様な生き物だった。
なぜ猫の様な生き物かというと、耳がついている筈の部分に角が生えているからだ。
「あら、可愛いわね」
ガルムがその猫?を抱き上げる。
「少し触っても良いですか?」
マーニもその猫?を撫でる。
……なんで女って小さい生き物が好きなんだ?
「おい、早く逃がせよ。そいつはたぶん……っ!?」
と、言いかけた時。
いきなり横から電撃が飛んで来た。
咄嗟にフェンリルで防いだが思った以上に威力が大きく吹き飛ばされる。
俺は空中で体制を立て直して着地する。
「ロキ様!?」
「っ……マーニ!」
「きゃっ!」
驚いてるマーニを押し倒す。
直後、頭上を電撃が通り抜けた。
「いったいなんなのよ!?」
「たぶん、そいつの親だ!」
「え、この子の?」
ガルムが抱きかかえている猫を指差す。
「たぶん、そいつはブリッツタイガー子供だ」
「えぇ!?」
ブリッツタイガーとは虎型の雷属性の魔法を使う魔物だ。
普段は大人しく滅多に人前には現れないが子育ての時は気性が荒くなる。
その時の実力はロック鳥を越えるらしい
再び電撃が飛んで来た。
「とりあえず固まってたらいい的だ。ばらけるぞ」
ガルムが風魔法で飛ぶ。
そのガルムに向かって次々に電撃が飛んでくる。
ガルムが電撃を避けて時間を稼いでる間にフェンリルに魔力を溜める。
そして電撃が飛んでくる方に向かってバスターを放つ。
「っ外したか!」
だが、手応えはなかった。
舌打ちをして周囲の気配を窺うと、巨大な影が草陰から飛び出して来た。
「っマーニ!」
「きゃっ!」
マーニを突き飛ばす。
「が!?」
直後、飛び出してきた巨大な影に吹き飛ばされて地面を転がる。
「ロキ様!?」
すぐさま起き上がる。
「こいつがブリッツタイガーか」
俺の目の前には虎にに似た魔物が居た。
耳の部分には捻じれた角が生えている。
大きさは二メートルくらいだろう。
角の間が光り出す。
瞬間、電撃が飛んで来た。
「っロキ!」
間一髪でガルムが風の盾で防いでくれた。
「……かなり怒ってるな。こりゃぶっ飛ばして大人しくさせるしかないな」
「それしかないみたいね……はぁ!」
ガルムが突風を起こしてブリッツタイガーの動きを止める。
身動きの取れないブリッツタイガーに向かってバスターを放つ。
「なっ!?」
が、ブリッツタイガーの放った電撃とぶつかり相殺されてしまった。
その間に風の結界から脱出するブリッツタイガー。
俺は強化魔法で速度を上げて素早く接近する。
「黒牙……っぐ!?」
ブリッツタイガーの間近に迫った時に横から何かが飛んで来た。
攻撃を防御に切り替えて黒爪を飛んで来た何かにぶつける。
反動を使って後方に跳び距離を取る。
「っ尻尾!?」
飛んで来た物の正体はブリッツタイガーの尻尾だった。
「はぁ!」
気合の入った掛け声と共にガルムがブリッツタイガーに向かってオルトロスを振るうと横向きの竜巻がブリッツタイガーに飛んでいく。
ブリッツタイガーの角が光り電撃が放たれてガルムの放った竜巻とぶつかる。
「くっ……」
威力はブリッツタイガーの方が上らしく、次第に押されはじめるガルム。
「ガルム!あと少し耐えろ!」
俺はガルムにそう叫ぶとフェンリルに魔力を溜める。
「ぐ……っ……」
徐々に後退しながらも踏ん張るガルム。
「……よし。もう良いぞ!」
「了解っ」
俺の声で魔力の放出を止め、飛んで来た電撃を避けるガルム。
「喰らいやがれ!」
フェンリルの引き金を引くと無数の魔力弾が一斉に発射された。
散弾だ。
その名のとおり散弾銃の応用で弾幕を作るのだが、一発一発に威力を持たせようとするとその分魔力と時間がいるのだ。
速い魔物などに確実にダメージを与える為に考えたものだ。
そして何十発もの魔力弾がブリッツタイガーに直撃する。
巨大な壁に猛スピードでぶつかったようなものだ。
衝撃でブリッツタイガーは大きく吹き飛び地面に激突した。
倒れたブリッツタイガーは起き上がろうともがくが動けないようだ。
「ふぅ……」
肩から力を抜きフェンリルをしまう。
ガルムが横に降り立ち後ろに居たマーニが駆け寄って来た。
「もう動けないと思うから大丈夫だ」
「はい」
俺の言葉を聞いたマーニは抱えていたブリッツタイガーの子供を放した。
倒れているブリッツタイガーに駆け寄る子供。
子供がブリッツタイガーを舐める。
その後にマーニが近づく。
マーニに気づくとブリッツタイガーは動けないにも関わらずマーニに向かって威嚇する。
マーニは怖がる様子を見せずにゆっくりと近づいていく。
「大丈夫ですよ。私達は敵ではありません」
マーニがブリッツタイガーに話しかける。
すると、ブリッツタイガーが威嚇を止めて大人しくなった。
マーニが治癒魔法を使っている間もブリッツタイガーは暴れずにいた。
「……もう大丈夫ですよ。もう子供から目を離さないで下さい」
治癒をし終えたマーニが言うとブリッツタイガーはゆっくりと起きあがり子供を連れて森の奥に消えて行った。
「……ったく、無駄な時間食ったぜ。さっさと帰るぞ」
「そうね」
「分かりました」
~
「ねぇねぇ!今の見た!?」
ロキ達を見ていたのはアルタイル、ベガ、デネブの三人だった。
「……えぇ。これはドクターに報告する必要があるわね」
「また帰るのじゃな?」
「えぇ」
「OK!」
そう言って三人は霧に隠れるように姿を消した。