ユグドラシル
はじめまして、しーどらです。
汚い文ですが最後まで読んで頂けると幸いです。
投稿は不定期ですがご了承ください。
木製でできた廊下を一人の少女が歩いていた。
長い茶髪をツインテールでまとめており、黒色のチューブトップに紺色のショートパンツという機能性を重視したであろう服装が活発そうな印象を与える。
少女は廊下を進み、とある部屋の前に来て立ち止まった。
「入るわよ」
少女は中に居るであろう人物に向かって声をかけ、一応ノックをしてから部屋に入る。
部屋の中は綺麗に整頓されていたが、部屋の主が片付けた訳ではない事を少女は知っているので別段驚きはしない。
そして部屋の奥に配置されたダブルサイズのベットに、この部屋の主である黒髪の青年が居た。
「ほら、早く起きなさい」
「ん~……」
軽く体を揺すって起こそうとするが起きる気配はない。
「はぁ……ほら早く……「ん~?」きゃっ!?」
起こそうと体を揺すった際、不意に腕を引っ張られてベットに引き込まれる。
そしてあろう事か青年の手が服の中に入ってきた!
「ひゃあ⁉……ちょっとどこを触って……」
「ん~……だいふく……?」
本当に寝ぼけているのか一瞬だけ疑問に思ったが、そんな事を考える余裕は直ぐに無くなる少女。
「いたらき……ます……」
「ひぅ!?……耳はだめぇ!?」
服の中を弄る手に気を取られていた所為で耳を甘噛みされたのだ。
「くぅ……こ、の……いい加減にしなさい!!」
このままではマズイと思い、少女は渾身の力を込めて青年の腹に蹴りを放った。
~
腹部を襲った強烈な痛みによって俺は一気に目が覚めた。
「いってぇ。なんだぁ?……ガルム?」
上半身を起こしてみると茶色の髪をツインテールで結んでいる少女、ガルムがベットの上に居た。
いつも着ている服が若干乱れており、その緑色の瞳は何故か俺に向かって非難の眼差しを向けていた。
「ん?ガルムがなんで居るんだ?」
「……はぁ。私はあんたを起こしに来たのよ。ほら、早く準備して下に来なさい。マーニも待ってるわよ」
そう言うとガルムは部屋を出て行った。
未だ痛い腹を抑えながら起き上がる。
「……さて、怒られる前に着替えるか」
黒のジーパンに白のシャツを着てから、部屋を出て自分の部屋を出た。
「おはようございます」
「よ、おはよう」
一階にあるリビングに向かうとメイド服を着た少女が挨拶してきた。
青紫がかった銀色のショートヘアの少女はマーニ。
この二階建ての家には俺とガルム、マーニの三人が住んでいる。
どうやら朝食の準備をしてくれていたらしい。
俺は自分の席に座る。
「あれ、ガルムは?」
そこで先に部屋を出て行った筈のガルムが居ない事に気づいてマーニに尋ねる。
「ガルム様は先にギルドに向われました」
「そっか。なら俺たちもさっさと行くか」
「はい」
その後、手早く朝食をとった後一旦部屋に戻り愛用の黒色のロングコートを羽織ってからマーニの準備を待った後で部屋を出た。
………………
…………
……
ここは中央大陸アースガルズにある世界最大の都市グラズヘイム。
都市の中央には魔導ギルド〈ユグドラシル〉がある。
「やっと来たわね」
ギルドの入口まで行くと先程の格好にお馴染みの袖の広がった紺色のジャケットを着たガルムが待っていた。
「そんなに経ってないだろ?」
「あれからはね」
「悪かったって。ほら、さっさと依頼を決めようぜ」
「……誰が一番最後まで寝てたのよ」
「ふふ」
ガルムの小言を軽く聞き流しながらギルドの扉をくぐる。
ギルドには毎日多くの依頼が届く。
それを解決するのが俺たちギルドに所属する魔導師の仕事だ。
まぁ小遣い稼ぎくらいの依頼なら一般人でも利用したりもしている。
依頼には主にチームを組むのが普通だ。
俺もガルムとマーニの三人でチームを組んでいる。
チーム名は〈ケルベロス〉だ。
「今日はやけに遅い登場だな」
「ん?あぁ、オッサンか」
ギルドの中にはいろんなものがある。
武器屋に道具屋などは勿論だが、一番大きな割合を占めているのは酒場だ。
その酒場にいた筋骨隆々の大男が声を掛けて来た。
両サイドに生えた赤茶色の髪と髭に青色の瞳をした中年の男、ニョルズだ。
「なんだ、朝まで楽しんでたのか?」
「違うわよ!!」
俺が突っ込むより先にガルムが突っ込みを入れていた。
「がははは、そんなにムキになると逆に怪しいぞ?」
「ぅ……」
豪快に笑うニョルズに対しガルムは顔を赤くしていた。
「ニョルズ様、他の皆様はどちらでしょうか?」
隣で会話を聞いていたマーニがニョルズに質問する。
「ん?あぁ、他の奴等なら依頼に行ったぞ?」
「は?……じゃあなんでオッサンはまだ此処に居んだよ?」
「あのぐらいの依頼なら儂はいらんだろうからな」
「だからって昼間から酒を樽で飲むのはどうなのよ……」
ニョルズはギルド最強と言われるチーム〈ヴァルハラ〉の一人であり、ギルドでも古参の魔導師だ。
「おぉそうだ。レヴィの奴が最近お前に会えずに拗ねておったぞ」
「そっか。確かに最近会ってなかったな。今度遊んでやるか。……んじゃ、そろそろ行くわ」
「失礼します」
「飲み過ぎで倒れないようにね」
「おう」
そう言ってギルドカウンターに向かう。
依頼には危険区域に生息する魔物の討伐や賞金首の捕獲からペットの捜索まで色々なものがあり、報酬や危険度によってS〜Eまでランク分けされている。
「今日はどんなのがあるんだ?」
依頼書を見ようとした時だった。
「ちょうど良いタイミングじゃな」
「う、ジジイか……何だよ?」
タイミングを見計らった様に声を掛けて来たのは、白い髭の老人だった。
「こらバカロキ!マスターに向かって失礼でしょ!」
「おはようございます。どうしたのですか、ユミル様?」
ガルムとマーニが言うとおりこのじじいこそこのギルドのマスターであるユミルだ。
「うむ。お前達に頼みたい依頼があっての」
「いやだ」
「分かりました」
「そう言ってくれると思ったぞ。では、詳しい内容を話すぞ」
……俺の返事は無視かよ。
というかガルム。
せめて依頼内容を聞いてから返事しろよ。
「実は先程ある情報が入ってな。明後日に隣街で魔法薬の裏取引があるらしい。そこで、お前達ににはその裏取引を止めて欲しいのだ」
「……推定ランクと報酬は?」
「ランクCだ。報酬は……30万デルでどうじゃ?」
「はぁ……分かったよ」
「うむ。期待しておるぞ」
どーせ断れないことが分かってるからな。
………………
…………
……
「で?依頼人は何処に居るんだ?」
翌日、俺たちは詳しい話を聞くため依頼主の居る隣街に来ていた。
「酒場で待ち合わせていますのでこちらですね」
マーニの案内で酒場まで行くと 入口で気の弱そうな中年の男が近寄って来た。
「あ、もしかして魔導ギルドの方ですか?」
「はい。そちらはクーフェ様でよろしいですか?」
「えぇ。……どうぞ、こちらに」
どうやらこの男が依頼主らしい。
言われて酒場の奥の方の席に座る。
「それで?裏取引ってのは何処でやるんだ?」
「それが……」
クーフェは何故か申し訳無さそうにしながら依頼内容を話し出した。
………………
…………
……
「はぁ……なんで取引場所も知らないんだよ」
「ぼやいても仕方ないでしょ。取引されるであろう時間が分かっただけでも良しとしなさい」
依頼人のクーフェによると、先日偶然柄の悪い男達が裏取引について話しているのを聞いたらしい。
日時は明日の朝方らしいのだが肝心の場所は分からないとの事だ。
「それじゃあ、手分けしてそれらしい場所を探すわよ。私はこっちを探すから、ロキとマーニは反対をお願いね。マーニ、あんまりバカロキを甘やかしちゃダメよ」
「かしこまりました」
「俺はガキかよ……」
~
「おい。お前か?俺達の事を嗅ぎ回ってる女ってのは?」
ロキとマーニと別れて商店街で情報収集をして、裏路地を回っていると、見るからにガラの悪そうな男が声をかけて来た。
周りを伺うと15人程の男達が遠巻きに囲んでいるのが分かった。
どうやらこいつらが裏取引をしようとしている男達のようだ。
「だったらどうするのよ?」
「黙らせるだけだ!」
男達は懐から短剣を取り出した。
「やってみなさい!」
足下に魔方陣が展開し突風を起こす。
魔法には種類があり多くは生まれながらに使える魔法が決まっている。
その中で最も一般的な魔法が属性魔法だ。
属性魔法には火・水・風・土・氷・雷に光と闇の八属性がある。
私が使うのは風魔法だ。
「「なに⁉」」
いきなり起きた突風に驚いて男達の動きが止まった。
その隙に袖の中にしまっていた二対のトンファー〈オルトロス〉を取り出す。
前方にいた男の短剣を弾き、オルトロスで男の鳩尾を殴る。
それと同時に足元に魔法陣が浮かび、足下に風を起こし後ろに飛びながら、悶絶している男の顎を引っ掛けるようにして蹴り上げる。
蹴られた男は軽い脳震盪を起こして倒れ込んだ。
続け様に両手を前に掲げて、正面に魔法陣を展開する。
「はぁ!」
魔法陣から横向きの竜巻を発生して5、6人の男達をまとめて吹き飛ばした。
「!!」
更に続けて動こうとした時、横合いから火の玉が飛んできた。
「ふっ!」
飛んで来た火の玉を風の魔法を纏わせたオルトロスで弾く。
火の玉の飛んで来た方向を見ると一人の男が片手をこちらに向けて立っていた。
どうやら先程の火の玉はあの男が放ったらしい。
「そこまでにして貰おうか」
「あんたがリーダー?」
「まぁそんなところだ。大人しくして貰おうか」
「すると思う?」
「ふふ……これでもか?」
男が指を鳴らすと新たに路地裏から数人の男が出てきた。
男達は数人の人質と思われる人を連れており、その内一人の男には……、
「クーフェさん!?」
「……」
依頼人であるクーフェの姿があった。
どうやら意識が無いらしく返事はない。
「さて……どうするかね?」
「くっ」
……依頼人を危険に晒す訳にはいかない。
私はしぶしぶオルトロスを地面に置いた。
~
「マーニ、飯はまだかー?」
「ガルム様がお帰りになってからです」
「ったく、何時まで待たせる気だよ。あいつ」
日暮れになっても借りている部屋に帰って来ないガルムを待っていた時、部屋の扉が乱暴叩かれた。
「やっと帰って来たか。空いてるぞ!」
入ってくるだろうガルムに声を掛ける。
だが、入って来たのはガルムではなく依頼人のクーフェだった。
急いで来たのかクーフェは汗だくだった。
「クーフェ様?……いかがされたのですか?」
マーニが当然の質問をする。
「すみません!私のせいでガルムさんが組織の男達に連れて行かれてしまったんです!」
「……は?」
「……え?」
頭を下げるクーフェ。
予想外の返答に俺達は固まるしか無かった。