幸と不幸は紙一重 日常の終わり
…あれですよあれ。衝動に身を任せちゃったぜアハッ☆みたいな感じで書きました。単にオリジナルが書きたかっただけですすみません。設定がつまらなかったらすみません。gdgdだったらすみません。
では始まります。
※オリジナルです。
※もしかしたら残酷描写とか入るかもしれません。その時はタグつけます。
ドゴンッッ!!
走る少女のつま先をかすめ、高圧の水柱が地面から立ち上った。人気のない路地裏を、少女は全力で駆け抜ける。つややかなポニーテールが舞った。
突如、脇にある建物にまるで水面のように波紋が広がった。
「っ!!」
少女はとっさに頭を下げた。つい一瞬前その顔があったところに、再び水が突き抜ける。
「あーあ、惜しいなあ」
明らかに惜しんでいる声を、少女の耳は聞き取った。前から聞こえたので、構わず引き返す。
「いくら逃げても、無駄なんだけどなあ」
構わず、走る。
「いいから早く…殺されてくれよ!」
構わず。
どうしてこんな事になったのか、少女は冷静に思い出していた。
その日。彼女の通う高校の学生寮でのことだ。ちなみに個人部屋で、寮そのものはマンションのようになっている。五階という良ポジションも、隣のマンションが日光を横取りしてしまうため、あまり機能していない。
鈴代理沙の朝は、普段より15分早く始まった。
大した事ではないが、なんとなく嬉しくなって、制服に着替えながら鼻歌を歌う。すると、
「そこ、音程ずれてるわよ」
と、どこからともなく声が聞こえた。理沙は鼻歌を歌いっぱなしなので、当然彼女の声ではない。
『ねえ、理沙。聞いてるの?』
「聞こえてるわ」
ようやく理沙は鼻歌をやめ、部屋の天井を仰いだ。と言っても、声の住人は上の階にいるわけでもない。
この声は、理沙の頭の中から響いてくるのだ。
「そういえば、あたしの中にルーシィがやってきたのって、今から一年くらい前だっけ?」
『ええ、そうよ。去年の五月十五日、午後八時三十八分だったわ』
どこからともなく声が響いてくる、という人は世間一般ではアブナイ人と認識されているが、少なくとも理沙はクスリは医者から処方されたクスリしか服用していないし、注射だってインフルエンザの予防接種しかしていない。
「今じゃ平然としてるけど、あの時は大変だったんだからね?自分の頭が変になったのかと思ったんだから」
『そういえば、理沙ったら、慌てふためいちゃって、可愛かったわね』
「もお、ルーシィったら」
昨年のこと。
リビングでテレビを観ていた理沙は不意に、自分を呼ぶ声を聞いた。驚いた理沙は急いでテレビを消し、その声を注意深く聞いた。
声は、自らをルーシィと名乗り、突然ですまないが理沙の中に住まわせてくれないかと頼んだ。色々とついていけなかった理沙は、言われるままに頷いた。
それから、理沙の中にもう一人の人格が住み着くことになった。しかし、いくら理沙が頼み込んでも、ルーシィは決して、己の事を語ろうとしなかった。
それでも、理沙にとってルーシィとともに過ごす時は楽しかった。彼女はいつも理沙の味方でいてくれたし、尚且つ優しくしてくれたためだ。
『…せっかく早く起きたんだから、ちゃんとした朝食を作ればいいのに』
「いいのよ別に」
理沙はそっけなく答え、恒例の手抜き朝食を作る。
『しっかりした彼氏でもいれば、貴方の生活ももう少しマシになるんじゃないかしら』
「はいはい。どーせあたしはモテないですよーだ」
『そうかしら?私から見たら、理沙って結構魅力的だと思うんだけど』
「ふふ、ありがと」
そう言って理沙は、新品の靴で玄関を駆け抜けた。
そこまでは、確かに理沙の日常だった。
早く起きたくせになぜか遅刻ギリギリで教室に突入した理沙を、朝の騒がしいクラスメイトが迎えた。
「理沙ーっ、おはよ!ごめん席勝手に使ってる!」
「よ、よお、鈴代!すまん百円貸してくれ!」
「お前、千円札崩せばいいじゃねえか…なんで女子に?」
「ちょ、おま、その引きは反則だぞ!」
「はあ?さっきこれの効果で手札に持ってきたんだよ大ボケ野郎」
「あーっ!数学の宿題やってない!どうしよ!!」
「私の見せてあげるから落ち着いて」
「しまったああああっ!!今週号買うの忘れたあああっ!!」
とっさに耳を覆いたくなる光景だが、理沙はこんな日常は嫌いではなかった。彼らといるのは楽しかったし、何よりここが彼女のいるべき居場所だったからだ。
「…ちょっと、いいか?」
「あ!うん…」
後ろから声がした。振り向くと、細身の少年が立っていた。どうやら入口をふさいでいたようだ。慌てて理沙は自分の席に着く。
「ねえ、本田君、理沙に気があるんじゃない?」
「まっさかあ」
途端、前の席の親友、香織に話しかけられた。おしとやかそうな名前(?)と裏腹に、ミーハーな少女である。
ちなみに本田はさっき理沙に小銭を貸してくれるよう頼んできた男子だ。どさくさにまぎれてスルーしてしまったが、彼は気にしてないだろうか?
理沙が彼の席に目をやると、本田と目があった。彼は照れ臭そうに頭を掻く。
「ほらやっぱ怪しいでしょ?」
「そう?」とてきとうに返しておく。理沙はそこまで彼と親しくないので、そんなはずはない、と思っている。
それにしても、知らない人ばかりの新クラスで友人と近い席になれたのは幸運だった。
そう、彼女は、理由は分からないがとにかく幸運なのだ。くじの類を引くとほぼ確実に一等がでるし、テストの記号問題も百発百中。しかし彼女は、幸か不幸か、その事実に気づいていない。…まあ、彼女は不幸なはずはないが。
「やっぱ怪しいわ。ここは私が放課後に問いただして…」
「やめなさい」
彼女がどんなに幸運でも、それは理沙の日常に違いなかった。
放課後。
本当に問いただしそうな香織をなんとか引きとめて、理沙はやっと帰路に着いた。人もまばらな商店街を歩く。
「まったく…香織もしつこいわね」
『いいじゃない。そんな楽しい友達がいて…。私にはいなかったもの』
「…!」
理沙は初めて、ルーシィが自らのことを語るのを聞いた気がした。
「いるじゃない、ここに」
『……理沙…』
ルーシィは、なぜかどこか、少し寂しそうだった。でも彼女が自分の友達である事を認めてくれたのが嬉しかった。
「えへへ、私ったら、こんな楽しい友達ができるなんて…」
「幸運よね」
その瞬間。
理沙は、とある事に気付いた。
「あれ…人が…」
いない。
さっきまでにぎわっていた商店街が、もぬけの殻になっていた。
「おかしいわね。なんで誰も…」
『理沙…』
「…ルーシィ?」
唐突に、ルーシィの声が変わった。その声に含まれているのは…恐怖。
『……逃げて』
「…ルーシィ…」
当然理沙とルーシィは一心同体なので、ルーシィの恐怖は驚くほどに伝わってきた。
「分かったわ。今日はまっすぐ帰」
「帰すと、思うかい?」
見ると、前方に一人の青年がいた。何の前触れもなく。
彼は高級そうな服に身を包み、なぜかミネラルウォーターのペットボトルを持っていた。肩まである黒髪が、風に吹かれてさらさら舞う。その風は、理沙の鼻にきつすぎる香水の匂いを運んでくる。キザそうな顔立ちが、複雑な笑みを浮かべる。
「……!」
理沙は、ルーシィがこれ以上ない位怯えているのが分かった。つばを飲む。
しかし、理沙はこれをチャンスともとっていた。
ルーシィが怖がっているこの男なら、何かルーシィの事を教えてくれるかもしれない。
全く場違いな事に、そう思ってしまった。
「あなた…誰?」
「分からないかい?宿主」
青年は、やはり知らないのか、といった意味を込めて返答した。この瞬間分かった。理沙は彼を好きになれそうにない。
「宿主?…私が?」
今商店街には理沙と青年(あと、ルーシィ)しかいない。つまり、宿主とは理沙の事を差すのであった。
「まあ、冥土の土産に説明くらいはしてやるよ。追いかけっこしながらでもいいよね」
理沙は、なんとなく思った。
この人は、理沙を人間と思っていないような態度をとっている事に。
しかも、冥土の土産と言う事は…。
「さあ、愉快なDEATH GAMEの始まりだ」
青年は持っていたペットボトルをさかさまにした。透明な水が商店街の地面に跡を付ける。
その瞬間、彼の足もとから水柱が噴出した。丸ごと理沙を飲み込めそうなその柱は、理沙に向かって一気に突き進んで行く。
「……!?っ…」
理沙はとっさに青年に背を向け、走りだした。幸運にも、水柱のスピードはそれほど速くない。
「そうそう、そうこなくちゃ!」
後ろから青年の声が聞こえる。だが、いきなり殺されようとしている今の理沙にいちいち聞いている余裕はない。走る。
「何よ…何なのよ、あれは!」
『突然人が消えたのは“人払い”…あの水柱は……まずいわ』
「!ルーシィ…?」
『…ごめんなさい、理沙。私…ずっと、隠してた事があるの』
「……?」
触れれば理沙など一瞬ではじけ飛びそうな水柱から必死に逃げながら話す。息が乱れているのに、普段よりずっと、ルーシィの声が良く聞こえた。
「…って、あれ…?」
振り返ると、水柱が忽然と消えていた。撒いたか、と理沙が一息ついた、瞬間。
理沙の足もとに、波紋が広がった。
『理沙…逃げて!!』
「!?」
今まで聞いたルーシィの声の中で一番必死な声を聞き、理沙は反射的に後ろに飛びずさった。
途端、
波紋の広がったところに、水柱が突き抜けた。
「チッ…仕留め損ねたか」
逃げまどう理沙の50メートル後ろ、青年は残念そうに舌打ちをした。彼は、どんな事があっても理沙を殺すつもりだった。彼には、ひとつの使命にも似たものがあるからだ。
「まあいい、宿主一匹ごとき、日が暮れるまでには十人は殺せる」
あの水柱は、移動速度は遅いものの、どこへでも出現させる事ができる。ただの宿主ごときに避けきれるわけがない。
「さて…そろそろトドメかな」
理沙を遠くから見つめ、笑みを浮かべる青年は、気付かない。
自らもまた、誰かから見られている事に。
突然の水柱はとっさに避けたが、理沙はもう歩けないほどに体力を消耗してしまった。呉服店の壁にもたれ掛かる。
「はあ…はあ…なんで…?」
彼女の頭の中は、何故自分が殺されなければならないのか、一色だった。しかも、散々思わせぶりな態度をとって結局振った彼氏でもなく、会ったばかりの赤の他人に、だ。「教えてよ…ルーシィ……」
もう一人の理沙は、答えない。代わりに、
「じゃあ、僕が教えてあげようか?どうやら君の寄生虫は君に嫌われるのが余程怖いらしいね…最高じゃないか」
いつの間にか後ろから歩いてきた青年が答えた。
「!!…なんでルーシィの事を…それに、何よさっきから宿主とか寄生虫とかって!」
「へぇ…やっぱり何も知らないんだ?なら、なおさら教えてあげよう」
『…やめて!!』
「…ルーシィ?」
『…言わ…ないで』
しかし、その懇願も、青年はあっさり無視して、
「君の体に憑いているその声はね、信じられないだろうが、数百年前のヨーロッパの…殺されし魔女の物なんだよね」
語り始めた。
…いやー前からオリ小説書こうって思ってたんですけど、まさかこんなんになるとは…
詳しい設定は次回です。できるだけ早く投稿したいと思います。