階段から突き落とされたとよく言われますが、先手を打ちます!(バッドエンド)
誤字脱字の報告ありがとうございます。
シオン・バークレー公爵令嬢には婚約者がいた。
相手は侯爵家の三男で、アレン・ドラン様です。
婚約を結んだ頃はそれなりに真面目に『婿入り』の為の勉強もしていたのですが、最近はとある男爵令嬢に夢中で、私の事は無視してその令嬢と遊び回っている状態です。
学園でも2人でイチャイチャとチチクリ合っているのが噂になりつつあります。少しは隠れてヤれよと言いたい。
「はぁ、まさかここまで堕落するなんてガッカリだわ」
報告書を読みながら深いため息を吐いた。
「お嬢様。このアリア・ビーチ男爵令嬢をどうなされますか?」
私の側には数名の『戦闘メイド』が控えていました。彼女らは諜報活動や私の護衛など担ってくれている者達です。
「そうねぇ~」
どうするべきか思案していると、報告書に面白い記述があった。
「………なに?この悪役令嬢って?」
聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「お嬢様、それは悪口の様なものです。余り気にしないで下さい」
「悪口なの?」
はて?
どういう意味なの?
「失礼ながら、かの男爵令嬢が言っていたのです。愛する者を引き裂く悪の令嬢と言う意味らしいです。ただの世迷言でございます」
メイドは侮蔑に満ちた目で話しました。
「うふふ、アハハハハッッ!!!!」
急にシオンは令嬢とは思えぬ笑い方で笑った。
「面白い!面白いわっ!最近退屈していたし、丁度いいわ。お前達、チームを組んでこの2人をしっかりとマークしなさい。報告はこまめにするように」
悪役令嬢ね。
まさか私の性格を知って呼んだんじゃないわよね?
シオンは自分自身に言い聞かせるように心の中で思うのだった。
そして、すぐに浮気をしている2人がシオンに冤罪を被せて婚約破棄と賠償金をせしめようと言う情報が入った。
「流石に、これはイラッとするわね」
珍しくシオンは不快に思って顔を曇らせた。
入婿の話がなくなれば平民になるアレン様だが、賠償金をせしめて優雅に暮らそうと言う考えのようだった。
「お嬢様、早くこの2人を消す命令を下さい。シオンお嬢様を不快にさせるヤツラを生かしておけません」
うちのメイド達は幼い頃、不当な扱いを受けていた孤児などを引き取り育てて来たので、忠誠心が高いのが玉にキズなんですよねー?
「それはしなくていいから。それより報告にあるこの男爵令嬢、おかしいわね?」
「私達の報告に何か誤りがありましたでしょうか?」
シオンは考えながら話した。
「他人の婚約者を誑かしてキャッキャウフフなんてバカをする令嬢なのに、このアリア令嬢が考え出した商品で男爵家は大儲けしていることよ」
どういうこと?
メイド達は首を傾げた。
「わからない?こんな頭の緩い令嬢に、こんな新しい『商品』が作り出せるものかしら?」
!?
このマヨネーズという新しい調味料に、リバーシという玩具など、この令嬢に作り出せるとは思えませんね。
「お嬢様は男爵家にいる『誰か』の発明を奪っているのではとお考えですか?」
「そうよ。それか、変わった書物など手に入れて知ったかね」
「なるほど。では我々がそれを奪ってまいりましょうか?」
シオンは首を振った。
「いいえ、そんな面倒な事はしなくていいわ。だって本人を連れてこればいいもの」
ニヤリッとシオンは笑った。
「作戦を伝えるわ。面白い事を致しましょう」
メイド達に指示を出した。
そして───
とある学園のパーティーにて
「みんな!聞いて欲しい!」
パーティーの最中、アレンは注目を集めてから言った。
「先日、ここにいるアリア令嬢が階段から突き落とされたのだ!」
ザワッと会場がざわめいた。
「幸い、軽症で済んだが一歩間違えば命の危険があった!」
アリア令嬢はドレスから見える腕と足に包帯を巻いており、如何にもケガをしている様な装いだった。
「そして、その突き落とした犯人を見ている!」
またザワザワッと会場がざわめいた。
「失礼します。先日と言われましたが、正確な日時を教えて下さい」
誰かが言った。
「正確には昨日の放課後だ。三階の図書館に行く途中であった。私は悲鳴を聞いて駆け付けたらアリア令嬢が階段の下で倒れていたのだ。そしてすぐに保健室に運んだ。それは保健室にいた教師が証言してくれるだろう」
「その時、犯人について伝えなかったのですか?」
「ああ、それは犯人の家の圧力で、訴えを握り潰されるかも知れなかったからだ。故に、ここで訴える!」
「なるほど。確かにここ最近は『物騒』ですからね。お答え頂きありがとうございます」
「さて、質問も無いようなので告発する。アリア令嬢を突き落としたのは、我が婚約者であるシオン・バークレー公爵令嬢である!」
!?
「はい!私は確かに見ました!あの美しい銀髪はシオン令嬢で間違いございません!」
シオンの母親は他国から嫁いできた王族の姫君であり、この国では珍しい『銀髪』であった。
「恐らく私とアリア令嬢の仲を邪推して嫉妬の余りの犯行であろう。よって私はシオン令嬢との婚約を破棄させて頂く!他の令嬢に危害を加えるような女性と結婚はできないからだ!」
ザワザワッ
ザワザワッ
アレン子息が婿入りする話は誰でも知っている。
自分から平民になりたい物好きなどいないのに、自分から婚約破棄をするアレンに奇異の目が集まった。
その時、見計らったようにパーティー会場の扉が勢いよく開かれた。
「皆の者!動くな!憲兵である!」
赤い服に白いズボンを履いた兵士が突入してきた。
『憲兵』とは貴族ですら捕まえる事のできる国王直属の兵隊である。
「アリア・ビーチ男爵令嬢!貴女にシオン・バークレー公爵令嬢の殺害未遂の容疑が掛かっている!一緒にご同行を頂く!」
!?
「はっ?」
アリアはこれ以上ないほどの間抜けな顔で声を吐いた。
「2日前、シオン公爵令嬢が賊に襲われた。シオン令嬢は怪我を負ったが、命に別状はない。護衛していた騎士達が賊を撃退し、その一味を捕らえ尋問し、アジトに乗り込むと、アリア令嬢からシオン令嬢の暗殺依頼の書類を見つけた次第だ」
「ちょっと待って!私はそんな物知らないわよ!誰かが私を罠に嵌める為にやったのよ!?」
生徒の1人が呟いた。
「あれ?昨日シオン令嬢に突き飛ばされたって言ってなかった?」
!?
「何を言っている?シオン令嬢はケガと身の安全の為にこの2日間は学園に通っていない!犯人を捕まえるために、箝口令が敷かれていたので、誰もシオン令嬢の襲撃は知らされていなかったのだ」
「う、嘘だ。だって学園で銀髪の女性を見かけたのに……」
これは嘘ではない。
戦闘メイド達に命じて、銀髪のカツラを着けて、アレンとアリアに、廊下の先にシオンが通ったと見せかけたのだから。チラチラッと他の生徒には見つからないように、当日彼らの視界に銀髪の女性が入る様に工作したのだ。
そしてシオン自身は学園に行かずアリバイを作ったという訳である。
あ、ケガも嘘だよ。暗殺依頼も偽装である。
「それとアレン子息にも同行してもらう。貴殿にも計画に関わった可能性があるのでな」
「私こそ関係ない!シオンの暗殺だなんて知らない!」
「しかし、貴殿はシオン公爵令嬢に冤罪を掛けて婚約破棄を宣言したではないか?信用できるとでも?それに我々は、2人がよく行かれる個室のカフェの店で、シオン令嬢に罪を着せる悪巧みをしていると、店員が聞いていた証言を入手している!言い逃れはできんぞ!」
我がメイド達が盗聴していましたからね。
!?
「あ、あれは違うんだ。ただの悪ふざけであって………」
まだ言い訳しようとしていた2人を憲兵は捕まえて引きずるように連れていった。
こうしてシオンのいないパーティーで2人は捕まったのである。
・
・
・
・
・
・
・
・
「こ、ここは?」
憲兵に連れて行かれて、厳しい尋問を受けていたアリアはいつの間にか眠ったのか目を覚ました。
「ど、どこよ?ここは!?」
見た感じ地下牢のようである。
しかし、鉄の扉があるだけで鉄格子はない。小さな部屋の中のようである。
両手は壁に繋がれている鎖に繋がって、身動きが出来なかった。
カツッカツッカツッ、と誰かが歩いてきた靴音が聞こえてきた。
「あら?もうお目覚めなのね。ごきげんようアリア様」
「………シオン・バークレー」
呟く様に言った。
しかしすぐに我に返ると吠える様に叫んだ。
「これはどういうつもりですか!早く私を解放しなさいっ!この悪役令嬢がっ!!!」
ピクリッ
シオンの表情が変わった。
「その悪役令嬢ってなんですの?」
「ふんっ、貴女はヒロインである私の引き立て役の悪役令嬢なのよ!この世界は私が主人公の世界なのよ!悪役はさっさと退場しなさいっ!」
ふむ?
ただの頭のおかしな小娘………でもないですね。
そうでなければあの様な商品を生み出すことは出来ませんし。
ウフフッ♪
これからお楽しみの時間の始まりです。
シオンは腰に下げていた『鞭』を掴んだ。
「これが何かわかりますか?」
「………ムチ?」
「正解です。でもこれは特注品でしてね?表面にスライムの粘液が塗り込まれてヌルヌルするんですよ」
はぁ?
アリアは意味がわからず首を傾げた。
「するとですね───」
シオンはアリアに鞭を振り上げて叩いた。
「うぎゃっ!?」
「ウフフッ、どうでしょうか。この鞭で叩いても、肌が赤くなるだけで傷が付かないんです。でも、叩かれた衝撃と痛みだけは残るのです。素敵でしょう♪」
アリアはようやく意味を理解して青ざめた。
「さぁ、どんどんいきますわね。良い声で鳴いて下さいまし!」
ビシッバシッと地下の『拷問室』にて、アリアの悲鳴が響き渡ったが、決して地上に届くことはなかった。
そしてしばらくして────
「ハァハァ♪ああ、久々に素敵な時間でしたわ♪」
恍惚した表情のシオンと、痛みで失禁して気を失ったアリアがそこにいた。
シオンは水の入ったバケツをアリアに掛けて目を覚まさせた。
「うっく………ご、ごめんなさい。もう許して下さい。お願いします。お願いします」
大きな声を出すと全身が痛むため、掠れる声で懇願した。
「ウフフッ、ようやくアリア様も素直になりましたね。では私の質問に答えてくださる?」
コクコクと何度も頷く。
「では、『あなた』は何者なのですか?正直、貴女のような方では、あの優れた商品を生み出すことはできないと思うのですが?」
シオンの質問にアリアは日本からの転生者のことを話した。この世界より文明が進んでいることや、ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界ということを。
「普通なら頭のおかしい人間と思うのですが、貴女が生み出した商品は本物ですし、何より空想でも面白いですわ!まだまだ私の資産を使えば生み出せる商品もありそうです。いいでしょう、アリア様。私の、我が家の研究者として雇ってもいいですわ」
「えっ?」
「何か不満でも?本来であればこのまま殺して、適当な墓地に埋葬する予定でした。あ、アリア様は脱獄して失踪という扱いになりましてよ?」
「あ、ああぁぁ………」
シオンは笑顔で言った。
「でも、貴女の異世界の話や知識に興味が湧きましたの。だから今までの無礼はこれで許して差し上げますわ♪さぁ、どうされますか?」
死ぬかシオンの研究者として死ぬまで働かされるか、あってない二択にアリアは研究者になりますと小さく答えた。
「あ、そうそう、ここが乙女ゲームの世界と言っていましたわね。それで私の趣味も知っていたのかしら?」
アリアは首を振った。
ゲームではこんな拷問好きの設定や描写などなかった。学園でヒロインに嫌がらせをするキャラであって、こんなイカれたキャラではなかった。
「アリア様、ゲームなら勝ち負けがあるのでしょう?これはアリア様の負けであり、バッドエンドという状態でしょうか?」
アリアはハッと今更気付いた。
そもそもこんなイカれたヤバいヤツの攻略ストーリーなら別のキャラを攻略していた。
アレン様がゲームでは一番好きなキャラだったから攻略したに過ぎない。
実家を知識チートでお金持ちにして、ストーリーを有利に進めようとはしたけれど。
アリアはガックシとうなだれてまた気を失うのだった。
そして───
アレからアレン様はシオンの暗殺依頼をした協力者として正式に捕まった。婚約者を狙った犯罪であり、相手が公爵家ということもあり、死刑を言い渡された。ただ貴族のため、毒杯という優しい死刑ではあった。
「うん?私がアレン様を婿入りさせようとした理由?」
シオンはアリアと話をしていた。
新しく本館の裏手に建てられた研究棟は、大きな一軒家のような外観で、内装にはお金の掛かった素晴らしい部屋になっていた。
そこで、公爵家お抱えの技術者にアリアは知る限りの情報を教えて実現可能かどうか研究していた。
「アレン様の実家であるドラン侯爵家は騎士団を統括する家柄でね。アレン様が身内になれば、騎士の巡回ルートや警備情報など入りやすくなるメリットがあったのよ。我が家バークレー公爵家は、この国の『裏』を支配する家系だから、表の警備情報など欲しかったのよね~」
あっけらかんと話すシオンの言葉にアリアはまた顔色を悪くした。
「でも、無くても今までやれて来れたし絶対ではなかったのよ?今後は他の条件の家柄を探すしね」
そうですかとアリアは相づちを打ちながら答えた。
「でも、この『電車』という乗り物が完成すれば、物流の世界が変わるわね。すでに鉱山ではトロッコと呼ばれるものはあるけれど、それをもっと大きくして自動で走らせるなんて凄いわ!」
「そうですね。決まったレールの上しか移動出来ませんが、動力源さえ何とかなれば基本は単純ですので」
この世界は魔法がある。蒸気で動かすのでは無く魔力で動かすこともできるだろう。
前世ではただの女子高生だったアリアには詳しい構造はわからない。
でも、どんなものか絵を描き、用途を教えて貰えばこの世界の研究者達は形にしていける基礎技術があった。
数年後には完成も見えているのだ。
あの一件以来、アリアは外にでることはできなくなったが、欲しいものは言えば何でもメイドが用意してくれるし、広大な公爵家の庭などの散歩はできるし、ある意味、何不自由ない生活を手に入れていた。
アリアは貴族社会の『闇』を知り、前世とは違う世界に来たのだと肝に銘じた。
「アリア様の開発した商品はバカ売れして資金は潤沢にありますので、研究資金も湯水のごとく使って下さいね」
「ありがとうございます」
でも───
シオンがそう言うと身体がビクッと震えた。
「な、なにか?」
「そろそろ、戦争に使える『兵器』も開発して欲しいですわ」
!?
「それは───」
何処かと戦争するのですか?
アリアは聞けなかった。
「ウフフッ、安心して下さい。今の所は戦争の予定はありませんわ。でも、相手を圧倒する兵器や武器があれば、こちらから仕掛けることができますわよね?」
アリアは心底シオンに恐怖した。
「アリア様の元の世界はこちらより文明が進んでいたのですもの。素敵な武器や兵器があったのでしょう?」
アリアはシオンの言葉に頷くしか出来なかった。
「何を怯えるのですか?この世界は乙女ゲームの世界で、私は『悪役令嬢』なのでしょう?私はゲームの悪役の役割を果たしているだけですわ♪」
ウフフッと研究棟にシオンの無邪気で残酷な嗤い声が響き渡るのでした。
【Bad End】
最後までお読み頂きありがとうございました。
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