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新しい道に
私の名前は、齋藤優花。
東京の幼稚園で働く、二十九歳の先生だ。
あの日、子どもにもらった花冠を、私はまだ家に置いている。
あのとき思った。
この笑顔を守りたい。
でも、このままでは守れない。
保育士は足りない。
休憩も取れない。
給料は下がる。
それでも、新しい制度だけは増えていく。
現場の声は、どこにも届かない。
数日後、美奈子からメッセージが届いた。
「私、ネズミランドで働くことになったよ」
少し驚いたけれど、
美奈子らしいなとも思った。
「そっか。おめでとう」
そう返信しながら、少しだけ寂しかった。
美奈子はもう、保育の現場には戻らないかもしれない。
でも私は——
この場所を離れることができなかった。
子どもたちの笑顔。
花冠。
「優花先生、おはよう!」という声。
それを思い出すたびに、思う。
このままじゃだめだ。
ある夜、机の前で私はノートを開いた。
そして書いた。
「政治」
正直、政治のことなんて何も知らない。
でも、一つだけわかることがある。
今のままでは、現場は変わらない。
だから私は決めた。
今の保育環境を変えるために——
この一年、私は政治家になる準備をする。
齋藤優花、二十九歳。
これは、
普通の幼稚園の先生が政治家を目指す物語の始まりだった。




