議論
私はマイクを握った。
「私は最近まで、幼稚園の先生として働いていました。」
議場は静まり返った。
「労働環境はとても厳しく、何度も辞めようと思いました。
それでも、子どもたちの笑顔を見ると頑張れたんです。」
私はゆっくり続けた。
「でも、今の政策のままでは、現場は限界です。
このままでは、保育士や幼稚園の先生になりたい人が減り、
待機児童は増えていきます。」
その時、別の議員が手を挙げた。
「これからはAIがあります。
AIを活用すれば問題は解決するのではないでしょうか。」
私は首を横に振った。
「AIにはできないことがあります。」
議場が少しざわついた。
「子どもには、人の温かさが必要です。
泣いたときに寄り添うこと。
不安なときに手を握ること。」
私は続けた。
「それは、人間にしかできません。」
その議員は言った。
「では、どうすればいいのですか?」
私ははっきり答えた。
「賃金を上げるしかありません。」
別の議員がすぐに言った。
「しかし、それでは保護者の負担が増えます。」
「税金で賄えばいいと思います。」
私はそう言った。
すると議場のどこかから声が上がった。
「それは無理です。」
「なぜですか?」
私は思わず声を強くした。
「今の環境では、幼稚園の先生も保育士も潰れてしまいます。」
少しの沈黙のあと、議長が言った。
「他にも議題があります。
この話はここまでとします。」
ガベルの音が響いた。
議論は、そこで終わった。
私は席に座りながら思った。
(まだ、何も変わっていない)
でも――
諦めるつもりはなかった。




