強くなりたい
第1話 強くなりたい
春の朝。
高一のマサルは、少し重たいカバンを肩にかけながら廊下を歩いていた。
視線の先には、隣のクラスの女子――あやか。
窓際の席で友達と笑っている。
そして、時々目が合う……気がする。
それだけで、マサルの胸は少し高鳴った。
(今日こそ……)
マサルは心の中で拳を握る。
(今日こそ、告白する!)
しかしマサルは特別な人間ではない。
細身の体。筋肉も少ない。格闘経験もゼロ。
元陸上部で足が速いだけの、どこにでもいる高校生だった。
だが今日は違う。
勇気を出すと決めた日だった。
⸻
登校途中。
「おはよう、マサル」
声をかけてきたのはウタ。
小学校からの友達だ。
「おはよう…ウタ」
マサルは少し緊張した顔で言う。
「なあ今日……俺、告白する」
ウタは少し驚いた顔をした。
「告白?」
「うん。あやかに」
マサルは拳を握る。
「ずっと好きだったんだ」
ウタは少し笑った。
「へえ、いいじゃん」
⸻
昼休み。
マサルは震える足であやかの机へ向かう。
(よし……)
深呼吸。
「……あの!」
あやかが振り向く。
「俺、ずっと前から好きでした!」
教室が一瞬静かになる。
そして、あやかは少し困った顔で言った。
「ごめん」
マサルの心臓が止まる。
「私、強い人が好きなの」
その一言で、世界が止まった。
⸻
数分後。
マサルは廊下を全力で走っていた。
「うわああああああ!」
壁に頭を打ちつける。
そこへウタが来る。
「それで?」
マサルは拳を握る。
少し沈黙。
そして言った。
「……強くなる」
ウタは笑った。
「いいじゃん」
マサルは顔を上げる。
「空手やる」
「マジ?」
「うん」
拳を握る。
「絶対強くなる」
⸻
その日の放課後。
マサルは町の道場の前に立っていた。
看板には
「クマール空手道場」
扉を開く。
中から聞こえる打撃音。
バシッ
ドンッ
中央に立っていたのは
インド人の師範。
クマール先生。
元アジアチャンピオンの男だった。
「お前がマサルか」
鋭い視線。
マサルは一瞬ビビる。
だが拳を握る。
「はい!」
その横でウタも言った。
「俺も入門します」
こうして――
凡人の少年マサルの物語は始まる。
町を巻き込む
凡人旋風の始まりだった。




