表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
語られる正義  作者: ふぁい(phi)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/9

第六章 消費された正義

ニュース番組の特集は、七分だった。


発砲事件の検証。

内部告発を行った若手警官。

専門家のコメントと、街頭インタビュー。


編集は巧みで、分かりやすい。

善と悪が、無理なく配置されている。


だが、その放送が終わった直後、画面は別の話題に切り替わった。

芸能人の不祥事。

大型事故。

政治の失言。


正義は、役目を終えた。


宮坂は、自宅でその番組を見ていた。

自分の名前は出ない。

声も、映像も使われない。

ただ、「若手警官」という記号だけが残っている。


リモコンを置き、テレビを消す。


部屋は静かだった。


SNSを開けば、まだ言葉は流れている。

だが、それらはすでに事件とは関係のない場所で使われていた。


「正義を貫け」

「沈黙するな」


どれも、誰に向けた言葉なのか分からない。

引用され、加工され、意味を薄められていく。


宮坂は、ようやく理解する。


語った正義は、語り続けなければ存在できない。

だが、語り続けるには、耐え続けなければならない。


一方で、組織は静かに元の速度に戻っていた。

生活安全課での業務は、滞りなく回っている。

誰も宮坂に期待しない。

誰も、警戒もしない。


それが、最も完成された排除だった。


桐山は、事件の周辺を洗い直していた。

発砲の瞬間。

被疑者の動線。

現場写真。


どこにも、誤りはない。


だが、被疑者の身元を改めて確認したとき、

桐山の手が止まる。


年齢。

過去の補導歴。

居住地。


「……偶然、か」


だが、偶然にしては、引っかかりが多すぎた。


被疑者は、数年前、別の事件で警察の世話になっている。

表沙汰にはならなかった。

記録は最小限だ。


その事件を追っていくと、

桐山は一つの名前に行き当たる。


高瀬。


前作で、沈黙を引き受けた男。

語らなかったことで、守られた存在。


桐山は、目を閉じる。


沈黙が救った人生は、

その後も救われ続けるとは限らない。


もし、あのとき。

もし、違う選択がされていたら。


思考を止める。

仮定は、今の正義を壊すだけだ。


夜、宮坂から短いメッセージが届く。


――もう、誰も聞いてくれません。


桐山は、すぐに返せなかった。


聞かれない正義。

語られない沈黙。


どちらも、社会の中では同じ重さで消えていく。


だが、消え方は違う。


沈黙は、内部に残る。

語りは、外に散る。


桐山は、ゆっくりと考え始める。


この事件の核心は、

発砲の是非でも、証言の正誤でもない。


正義が、どのように使い捨てられるかだ。


そして――

使い捨てられたあとに残るのは、

必ず、人だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ