表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
語られる正義  作者: ふぁい(phi)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/9

第五章 組織は、何も言わない

異動の内示は、唐突だった。


宮坂がそれを知らされたのは、朝礼の直後だった。

上司に呼ばれ、書類を一枚渡される。


「生活安全課への配置換えだ」


声は穏やかで、事務的だった。

理由の説明はない。

だが、説明を求める空気でもなかった。


生活安全課は、左遷ではない。

だが、現場からは外れる。

それだけで、十分だった。


「処分、ですか」


宮坂がそう尋ねると、上司は首を横に振った。


「いや。

 人事だ」


その一言で、会話は終わった。


誰も罰を与えていない。

規則も、法律も、破られていない。

それでも、流れははっきりしていた。


――ここから先は、自己責任だ。


新しい部署では、仕事はある。

だが、裁量はない。

意見を求められることも、ほとんどない。


書類は机に積まれ、期限だけが淡々と示される。

評価面談では、決まって同じ言葉が使われた。


「協調性」

「組織理解」

「慎重さ」


どれも、否定ではない。

だが、肯定でもない。


宮坂は気づく。

正義を語ったことが問題なのではない。

語り続ける可能性があることが、問題なのだ。


一方、発砲した巡査部長は、何事もなかったかのように勤務を続けていた。

処分はない。

非難もない。


それは、当然だった。

彼は規則を守った。

職務を全うした。


誰も悪くない。


だからこそ、この構図は壊れない。


桐山は、外部の立場から、その様子を静かに見ていた。

資料を追えば追うほど、はっきりしてくる。


これは圧力ではない。

調整だ。


突出した要素を、なだらかにする。

角を削り、目立たなくする。

組織が最も得意とする行為。


「語った正義は、もう十分使われた」


それを、誰も言葉にしないだけだ。


宮坂は、次第にメディアからも呼ばれなくなる。

新しい事件が起き、関心は移る。


称賛は、驚くほどあっさりと消えた。


残ったのは、

元の場所に戻れない自分だけだった。


夜、宮坂は桐山に連絡を入れる。


「……自分、間違えましたか」


電話の向こうで、桐山は答えに詰まる。


間違いではない。

だが、正解でもない。


「間違ってはいない」


そう言うのが、精一杯だった。


電話を切ったあと、桐山は思う。


沈黙は、守るために選ばれる。

語りは、消費するために利用される。


では――

どちらを選ばなかった正義は、どこへ行くのか。


その答えは、まだ見えない。


だが確実に、

この事件は、終わっていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ