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【第一章完結】最弱不撓の冒涜者~不死身になってしまったコミュ障転移少年、拾ってくれた腹黒没落エルフ令嬢に尽くしていたら、いつの間にか過保護に包囲される~  作者: D.S.L
第二章:悪鬼達の罪と罰

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67.調達

 驚いた。

 そこで起こっていつことが、心底意外だった。


 エメリアは……エレノアは、ユイトとノーム達の間に、何らかの隠し事が、恐らくノーム側の不利になるようなものがあることを、当然の如く見抜いていた。


 似たり寄ったりな顔ばかりに囲まれながら、相手の心理を裏の裏まで視徹みとおさんとする。そんなウンザリする経験を、何十年分も積んだ彼女にとって、少年少女の内緒話ないしょばなしなんて、可愛げすら感じるほど筒抜けだった。


 その上で、今回は不問にすることにしたのだ。

 彼女が寛容だから、などというわけでは、決してない。


 ユイトの魂に傷を増やした罪によって、本来なら凌辱りょうじょくし、八つ裂いて、豚に食わせてから火炙ひあぶりにするまでを、生きながら味わわせてやりたいところだったが、それをすればユイトが悲しむだろうからと、ほこを収めただけのこと。


 ただ、今回のことで味を占め、彼の真心や優しさに付け込んで、乞食こじき根性のまましがみつこうとするのであれば、彼に気付かれないように、始末してやろうとは考えていた。


 警戒心は最大。いつ牙をいてもおかしくない敵対者として、彼女は彼らに注意を払っていた。

 



 そんな彼女の前に、一人のノームが首を差し出した。

 ユイトの厚意を受け取って、話を落着させるより、罪人であることを選ぶ者が居た。




 そして、その場に居た全員が、それに続いた。


 一人一人、「みんなでやった」という言い方をせず、「自分がやった」と名乗り出た。他に罪状の一部を押し付け、少しでも軽くしようという小細工を、誰も用いなかった。


 逃げ道を自分の手で潰してから、罪の告白を行ったのだ。


 臆病で、集団意識の強いノーム、ましてや、同種の寿命の短さを考慮しても、まだ年若いと言える彼らが、こんな決断を下すとは。


 いや、幼いからこそ、まだ社会性が育ち切っていない、ということもあるだろうか。白紙に近いその状態に、変異ノームどもが支配しやすいよう、自己責任論でも仕込んでいた、と言うなら説明がつくだろうか。


 だとしてもそれは、自己の負担の軽減、という方向へと働く筈だ。

 無かったことにしてよかった罪を、自分から掘り起こしに行くなんて、理屈に合わない行動に思えた。


 表には出さなかったものの、正直なところ驚嘆と言うか、本気で仰天していた彼女は、


「あっ、あ、あのっ!エメリアさま…っ!みんなは、その、違うんですっ!」


 自分の横でワタワタしている彼を見て、


「みんな、アレなんですっ、脅されてて、暴力でし、支配されて、追い詰められてて…!他に、選択肢が、なくって……!」


 その口が必死に並べる弁護を聞いて、即座に得心が行った。




——ああ、“毒”に()てられたのか




 思うにユイトは、誘拐されてすぐ、彼らノームの生活スペースへと、放り込まれたのだ。


 曝露ばくろ期間は1週間強。ハイエルフであるエレノアですら、一ヶ月も掛からず()()()()ことを考慮すると、ノームのような短命種にとって、充分過ぎる時間だと言えた。


 さて、この病的なお人好しは、何をやったのやら。

 大方おおかた、散々に甚振いたぶられた後に、ノーム達の命の危機を、自発的に複数回救っただとか、そんなところだろう。


 そして最後に、今回のデーモン討伐が、見事なとどめとなったわけだ。


「ハァー……!」


 深めの溜息が出てしまう。ノーム達に怒りが向けられていると、視界の端でユイトが焦りに焦っているが、彼は何も分かっていない。


 ノームへの憤りなど、些細なものだ。

 それより何より——


——お前ですよ、お前


 少しは壊れにくいように立ち回る、という話はどうした。

 人としての自分を捨てるなと、あれほど言って………


 いや、分かる、分かっている。

 彼にとっては必要なことなのだ。

 

 彼はどうやら、平時の自分を「人未満」と思っている。

 だから“人”であろうとして、こういう無茶苦茶をやり始める。

 

 だから彼は、ただ施されること、ただ生きていることに、耐えられない。


 どんなに不可能に見える事項でも、それが「できない」自分を呪うような人物なのだから、人を見捨てる、助けになれるのにそうしない、そんな自分は、もっと許容できない。


 もし目の前の誰かを見過ごしてしまったら、彼の自己評価は許容範囲の底を突き抜け、「今すぐにでも消えるべき」と、修正されるだろう。そうなったら知恵を絞って、自分を殺す方法を、探し始めるに違いない。


 だから彼は「壊れない」為に、使えるものを何でも使って、誰かにとって有益であろうとする。


 一方で、「有益」が自分本位の価値基準でしかない、ということを知っている為に、人と関われば関わるほど、余計に苦悩する。


 しかも不死身であるせいで、彼にとって「ベストを尽くす」ことには、「自分の血肉を道具として使う」ことまで、含まれてしまっている。そのせいで、真面目に行動する度に、直接的な痛みの記憶まで、必然的に蓄積される。


 「壊れる」ことを避ける手段のことごとくが、心身の両側面から、「壊れる」ことを誘発している。

 なんて難儀な構造の生物!


——何処どこの誰だ……!

——私のユイトに、こんな自己認識を植え付けたやからは……!

 

 ただ「何もするな」と言いつけ、縛るだけでは、解決にならない。

 それでエレノアに不満を持ってくれるなら、まだいい。彼の場合、全てのせきを自分に向けて、自壊するのが目に見えている。




 解決策は一つ。

 目に見えない檻を作ることだ。




 彼の許へと辿り着くより先に、万難を徹底的に排して、彼からはそれらが存在していないように見える、そんな環境を構築する。


 バカみたいに平和な楽園に、彼を閉じ込めるのだ。

 彼が本当に壊れてしまう前に。


 必要なのは、権力。

 エレノアの目的は、毎度そこに舞い戻ってくる。

 

 世を思いのままにする座。

 世界の全てを調整できる力。


 それを実現するものとして、資金の調達と社会的信用の構築から、彼女は始めるつもりだった。


 が、もっと重要なものがある。

 全てを掌握し、操り、支配するという事業は、一人では決してできない。


 マンパワー。同士が要る。

 それも、彼の為ならどんなことでもやるような、忠誠心の高い手足は、多ければ多いほど良い。


 そして、ユイトという少年は、上手くまりさえすれば、エレノアなどより遥かに効果的に、味方を増やす能力を持っている。これを活用しない手はない。


 何しろ彼女が欲していたのは、富や権勢では決してあがなえないもの。

 彼を守る為の“包囲網”を、彼女と共に担う誰か。

 本物の“親衛隊”なのだから。


「ユイト?断罪も免罪も、その者の内部に響くかどうかは、その者次第です」


 彼らへの恩赦を嘆願する彼を、彼好みの理路でたしなめる。

 それでは彼らの気が済まない、と。


「裁くも赦すも、究極的には、彼ら自身にしか決められないこと」

「そ……っ、う……、そう、です、ね……」


 ある程度は納得したのか、ユイトは引き下がる。

 「彼らの為」という建付けさえあれば、彼を納得させるなど容易なこと。

 あとは——


「お前達、まずは顔を上げなさい。目も合わないのでは、話がしづらくて叶わない」


 一人、二人と、ゆっくりこちらを向く。

 怯えているが、けれど待っている目でもある。

 沙汰を受け入れようと、腰を据えた者の顔。


 いい兆候だ。

 彼らは「許されよう」とはしていない。

 けれど、「許されたい」とは思っている。


 要は、ユイトがどれだけ許しても、彼らがその気になれないのだ。

 罰を与える主体、看守として、“自分自身”以上に、適した存在は無い。


 自らの自然な意思で、従うことを選んだ。

 それに勝る洗脳など無い。


「お前達がした事は、大凡おおよそ把握しました。それで?」


 だが一応、駄目押しはしておく。


「その行いに対して、お前達は、これからどうすると?」


 ここでの人選ミスは、それなりにリカバリーがかない。


「つぐなう為の、ことを……」

 

 最初に懺悔した少女が言い、その手を取った姉妹らしきもう一人が、


「マセキをほるとか、たたかうとか、たまよけとか、あなたたちのために、できることを、なんでも……!」


 そう続けた。

 どちらも言われた通り、エレノアから目を逸らさずに。

 

 悪くない。

 あらゆる意味で自分達が下だと思いながらも、目線を卑屈に地へと這わせるのでなく、歯を食いしばって「明日」を見ている。


 己の意思と責任を、手放さない者の在り方。

 そういう強さを、エレノアは嫌いじゃない。


 他の少年達も、同じ思いのようだ。

 恐らく彼らの中心は、この姉妹なのだろう。

 その二人さえ押さえておけば、この集団を制御することは、かなり容易になる。


 そして彼女達は、特に、最初の一人は、どうやら——


 エレノアは横目にユイトを見る。

 彼は何かを言いたそうで、けれどそれは道理に合わないからと、拳を握り、息すら止めて、こらえていた。


「ユイト、一つ訊きます」


 最後の関門が、これだ。

 ここさえクリアすれば、彼らノーム達を、使い勝手の良い手駒にできる。


「この問いには、お前の本心で答えなさい。誤魔化しも、忖度そんたくも、気遣いも、この場の全員にとって、不利益となります」


 彼は言葉を咀嚼し、呑み込んでから、ゆっくりと頷く。


「例えばですが、彼らと、ノームと行動を共にすることについて、心理的抵抗を感じますか?彼らから与えらえた痛みが、恐怖が、彼らの存在を感じるだけで、お前を襲うことが、有り得ますか?」


「ありません」


 いつも用心深く言葉を選ぶ彼が、その時ばかりは即答した。


「みんなとは、仲間だって……あっ、ぼっ、僕にとっては、そのつもりです……!」


 そこに少しでも迷いがあれば、結論は変わっていた。

 ノーム達が、ユイトの“悪夢”を呼び覚ますなら、彼らを彼の近くに置くなど、言語道断。だが、その可能性は否定された。


 与えられた痛みを、ユイトはきっと、忘れることができない。

 だがそれは、ノームが居ようが居まいが、関係無い。


 彼らの気配をどれだけ近づけても、遠ざけても、フラッシュバックの頻度は、恐らく変わらない。

 

 で、あるならば、どんなにユイトをはずかしめ、おとしめた者達だったとしても、彼の近くで運用するのが、最も彼の利益になるなら、そうするべきだ。


 エレノアとしては、なんとも業腹ごうはらな話だったが、しかし「ユイトの為」と言い聞かせる。マグマをたたえたかまの如き、はらの内を奥底へと隠す。

 

「ならばお前達は、ユイトの盾となりなさい」


 ポプラーを操るユニークの話は、生存者達から聞いていた。

 護衛役として、それなり以上に使える筈だ。

 今回のような事態を未然に防ぐ、その為の手札としても運用できる。


「その身命しんめいの全てが、ユイトの為にあると、忘れることのないように」


 またペイルがヘソを曲げるだろうが……後で個別に相手をしてやれば、なんとでも取りせるだろう。


「えっ、エメリアさま…っ!」


「ユイト、お前が拾った戦力です。好きに使いなさい」


「ありがとう、ございます……っ!」


 彼女の決定に、ユイトは感激した様子だった。

 きっと「寛大な」エレノアが、彼らが許される為の、方便を用意してくれたのだと、そうやって好意的に解釈している。


 それでいい。

 彼女への過大評価を利用して、彼にはそう思わせる。

 死をもいとわぬ彼の身代わり、という実情はギリギリまで隠す。




 彼には気付かれないように、ノーム達を忠実な兵隊として、

 徹底的に教育するのだ。




 冒険者達の傷の様子を見て来ると言い残し、エレノアはその場を一度離れた。そしてしばらくしてから、そっと背後の様子を探る。


 安心から腰が抜け、その場にへたり込んだユイトが、彼らの助命が成った事実を、我が事のように喜んでいた。


 ノーム達は、そんな彼に歩み寄り、その手を取って口々に、謝罪と感謝を伝えている。

 

 その中でも、一番彼に近いところに、あの姉妹が居た。

 二人が彼を見る、その視線にこもった熱。

 

——……()()()()、でしたか………


 ユイトの味方を作る為、エレノアがあれこれ手を回すより、彼の「手が早い」というわけだ。


 彼女は彼に感謝している。

 彼こそ生きる意味で、理想そのもので、

 自らの全てだと、勝手に定義してさえいる。


 「彼という存在は全てがとうとい」ということに、疑いなどまるで持っておらず、

 だから彼の味方が増えるのも、当然の摂理である上に、何より歓迎すべきことであると、


 そう思ってはいるのだけれど、


不埒ふらちもの……」


 ジトりと濡れた宝石めいた、鈍い緑色を放つ瞳と共に、こっそり尖らせた唇から、


 恨み言をこぼさずには、いられなかった。

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